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キミとシャニムニ踊れたら 第1話ー⑤「みんな」

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 完全下校の時間となり、あたしと羽月は夕焼けの下、近くの公園のブランコで想いに更けていた。

 「あんたの所為で、私まで怒られたじゃない。大体、私は被害者で泣かせた張本人はどちらかと言えば、あんたなのに。完全な巻き込み事故だわ」

 「だって、若林の所為で、羽月が嫌そうな顔してたから、つい。それに、若林は来てた癖にもう一方は来てないんだよ?腹立つぅぅぅ」

 先ほどの羽月の行動にあたしは自棄になっていた。

 「何で、あんたが切れるのよ?もう、いいよ。どうでも」

 「だってぇ」

 「考えたくも無かったし、謝るつもりが無いんだったら、その方が清々しいし、何より、二度と会いたくないの。これでいいの、これで。それに、あの子で良かったわ。あの不良だったら、私は正気じゃなかったから」

 羽月の思いを受け止めるつもりが、彼女なりに考えがあっての謝罪を受け入れる姿にあたしはどうも、言葉が出てこなかった。

 「ごめん」 今日のあたしは何かがおかしい。自分でもしおらしい。

 「私こそ、ごめんなさい」

 「な、何で?羽月は何も」

 「あんたのそれよ。何で、私に気を遣うの?私たち、友達じゃないの?友達って、気を遣い合うものなの?違うでしょ?一緒に楽しいことを共有するもんじゃないの?」

 「羽月・・・」
 羽月の言葉は的を得ていた。これでは、皆と変わらない。 あたしも本当は羽月に哀れみをかけていたのだ。あたしも可哀想な子と思い込んでいたのだと。

 「ごめん、言い過ぎた。あんたのそれが、同情でも、哀れみでもないことは分かってる。素直に私を元気づける為だってこと。けど、私分かんないの」

 羽月の言葉は正しいけど、あたしはキミが思う程、人間が出来てない。 あたしは皆と同じ。羽月の気持ちを無視して、自分本位でやってるだけのどうしようもない自分。 
 今はそんな自分が嫌いだ。羽月を見下していたのだ。羽月を勝手に守らなきゃという先入観があたしの思考を鈍らせた。

 「あなたの優しさが怖いの。あなたが優しくすれば、する程、私は弱くなる。一度、受け入れたら、私は・・・私は・・・勉強しか出来ない自分を否定することになる。また友達がいなくなったら、1人になるのは、もう嫌なんだ・・・」

 きっと、この思いはバカなあたしじゃ、伝わらない。 何を言っても、言い訳になってしまう。

 「ごめん、羽月」

 ブランコから飛び降り、私は羽月を抱きしめようとした。 言葉なんて要らない。そうすれば、キミを思っている人はここにいるんだよ?キミは1人じゃないんだよと伝えられるのに。 
 けれど、あたしはすぐに拳を握りしめ、自制して見せた。

 「やっぱ、ダメだ。羽月を傷つかせたくない。本当なら、抱きしめたい、慰めたい、気持ちを分かち合いたい。そうしたら、そうしたいのに、悔しいな」

 「暁・・・」

 あたしはいつの間にか、泣いていた。去年の全国大会で負けても、泣かなかったあたしは大粒の涙を流していた。 
 恥じらいも外聞もかなぐり捨てて、不器用なあたしは羽月に思いを伝えた。

 「あたしは羽月の為に何も出来ない。本当は羽月の助けになりたかったのに、空回りしてばっかで、何も出来ない。羽月は一人だから、私が頑張らなきゃって、勘違いしてた。私は、羽月の気持ちを無視してた。ごめん、ごめんね」

 羽月はブランコから立ち上がり、無意識に正面に立つあたしに近づき、ハンカチを取り出し、あたしの涙を拭っていた。

 「羽月?」

 「私、嬉しかったの。本当は嬉しかったの。私の為に助けてくれる人がいる、私のことを考えてくれる人がいる、こんな私の為に泣いてくれる人がいる。それが嬉しかったの、だけど、素直になれなくて、変な意地を張ってしまったの。だから、だから、その、えっと・・・」

 「言って、羽月の言葉を聴かせて」

 同じように涙を流す羽月の姿は何処か、妖艶であたしは彼女の言葉を聴き続けることにした。

 「今度、私と勉強しよう!私にはこれしかないから!私とテスト勉強しよう」

 先ほどまでの空気をぶち壊すように、羽月らしいその言葉にいつの間にか、あたしは大笑いしていた。

 「いや、そこは一緒に遊ぼうとかじゃないのかよ。本当に羽月は真面目だなぁ」

 「だって、テスト期間なのよ。ちゃんと勉強しなきゃ、ダメでしょ?」

 「お母さんかよ」

 「お母さんって・・・」

 「冗談だよ、冗談。今は勉強しなきゃダメだよね。泣いてる場合じゃない」 
 お母さんって、言ったのは何でだろう?母ちゃんと言わなくて良かった。

 お互い、涙で顔はぐしゃぐしゃだったが、何処か気持ちは晴れやかで、清々しい気持ちでいっぱいだった。

 「ようやく、友達らしくなって来たね」

 本当のことだった。あたしは初めて、こんなに彼女に素直になれた気がした。

 「いやよ、泣き合うなんて。こんな形で友達らしくなるなんて・・・は、恥ずかしいし、何か、情けない」

 私はリュックから、ティッシュを取り出した。

 「あげる!使いなよ」

 彼女の表情は何処か、固まっていたが、少し柔らかくなっていった。 本当に分かり易いな。

 「ありがとう」

 羽月はティッシュを取り出し、鼻を噛み、そして、涙を拭いていた。

 「それじゃあ、羽月。明日から、勉強だね。宜しく。」

 「宜しく。それで、何が分からないの?」

 「保健体育と家庭科以外、全部!!」 
 羽月の表情は一気に重くなっていた。

 「本日の営業は終了しました。またのご来店お待ちしてます。それでは」

 逃げ去ろうとする羽月に私は、颯爽と周り込み、体で受け止めた。

 「勉強するんだよね?そう言ったよね?ねっ?羽月さん?」

 「あははははは・・・・はい、言いました。お約束致します」

 「ありがとね!」

 あたしはもう少しばかり、羽月を信じようと思った。 
 彼女の力にはなりたいけれど、もっと、彼女を尊重出来る自分になりたい。 
 心からそう思ったんだ。

 あたしと羽月はようやく、友達になれた気がした。

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