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キミとシャニムニ踊れたら 第3話‐②「ヒーロー」

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 「おしょい・・・」

 あたしの家の前には、さも当然のように、朝がおにぎりを食べながら、座り込んでいた。

 「なんで?」

 「テスト勉強だけど」

 「帰れ」

 「お前、偉くなったもんだな。毎回怒られてばかりなのに、何様?」

 「あたしは勉強に忙しいの」

 「うそつけ」

 「本気なの!」

 あたしの激昂に対する朝の表情はいつになく、強張っていた。

 「晴那らしくない」

 「あたしらしいって、何?勝手に決めつけないで」

 あたしは、朝をどかして、家の鍵を開けて、中に入って行った。

 「そんなつもりないのに・・・」 
 聞こえて来る朝の声はいつも以上に、力なく聞こえた。

 言い過ぎた。しかし、今のあたしは少しでも無理しないと今にも、頭からやってきたことが抜き出てしまいそうだった。

 今は昼過ぎで、誰もいない家であたしは独りだった。 
 冷蔵庫には、にーちゃんのおにぎりとおかずを基にあたしは部屋に籠った。

 あたしは机の前の椅子に座り、突っ伏し、涙を流していた。

 羽月はいつも、この孤独と戦っていた。手を放すなと言われたのに、今はまた、彼女を一人にしている。そのことが、悔しくて、仕方なかった。 
 それでも、羽月の下に行けないのは、あたしなりのけじめでもあった。  
 彼女に対しての無礼な振舞、横暴な態度、気遣いをはき違えた言動。その一つ一つが、あたしの中の嫌な自分のあたしを見せつけていた。 
 あたしの為に、羽月は勉強を教えてくれた。その一つ一つが、丁寧で、細かくて、彼女がこれまで、どのようにして、勉強していたかを物語っていた。

 こんな感覚は大会前でもよくあることだが、それはこれまでの経験値で乗り越えて来たので、大したことは何一つなかった。 
 しかし、勉強しなくても、スポーツ推薦でどうにかなると思って、生きて来たあたしにとって、無い所からのスタートしている自分にとって、これ程、勉強するのが辛くて、しんどいことと思ったことはなかった。 
 これをクリアすれば、志望校に行ける訳でも、受験に合格するわけでもない。何も無いあたしにとって、これが本当のスタートなんだと思った。

 今日の反省もあるが、そんな振り返りを出来る程、今の自分には余裕はなかった。  
 今出来ることは、ただ一つ。明日のテストに向けて、頑張ること。それしか・・・。

 そうか、羽月もあたしも・・・・。本質は同じなのかな?

 目の前にあることしか出来なくて、周りが見えなくて、手からすり落ちてしまう。大切な物はいつだって、最後にならないと気づかないように。

 あたしは涙を拭きとり、明日の準備を始めた。

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