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あんたとシャニムニ踊りたい 第4話「キミだけがいない世界」

 前回はこちらです。

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夏休み前、メッセージアプリで連絡交換をしていた宮本さんから、ファミレスに集合が掛かった。 

 話がしたいらしいので、昼前で暑い時間帯で出かける気は失せていたが、暇だったので、相手しようと出かけることにした。

 「遅い、羽月さん、パンケーキおごって」

 「全然、遅くない。むしろ、定刻通りなんだけど」 

 「冗談だってば、冗談。はははは」

 冗談というテンション感でない気もしたが、私は彼女の話を笑って、受け流し、席に座った。

 「何頼む?」

 「ウーロン茶」

 「おっさんかよ、キッツ」

 「他人の飲み物にケチつけないでくれる?ドリンクバーにする」

 「じゃあ、注文するね」 

 宮本さんは、机に置いてあるタブレットに注文、その後、席を立った。  

 私がするのにと思いつつも、グラスに並々のウーロン茶を持った宮本さんが現れた。

 「はいよ」 

 「どうも」

 宮本さんは席に着き、私に視線を合わせた。

 「ねぇー、あれから、晴那に会った?」

 「会ってないけど」

 「じゃあ、知らないよね。アイツ、全国行くって」

 「そうなんだ」

 「そうなの!アイツ、そういうとこあるからなぁ。まぁ、いいや。最近も、県大会あったけど。そもそも、県内でアイツに勝てるヤツはいないし、その前に標準記録突破してたから、当然っちゃ、当然なんだけど」

 「詳しいのね」

 「羽月さん。友達なら、感心持たなきゃダメだよ。それ知ったら、アイツ、悲しむと思うな」

 「そうだけど・・・。どう接していいか、分からないと言うか、恥ずかしいと言うか・・・」

 宮本さんの言う通りだ。私は受け身になっている。いつも、暁が引っ張ってくれるから、私は何もしなくても、きっと、どうにかなると思っている節がある。 

 「まぁ、いいけどさ。アイツ、人気高いから、気を付けた方がいいよ。特に女子から」

 「男子じゃなくて?」

 「アイツ、何でか、女人気高いんだよねぇ。羽月さんもそうでしょ?」

 宮本さんの口から、出て来る暁はまるで別人のようで、何処か、遠くの人に思えた。

 「そうかもね」

 「まぁ、今は合宿だし、アイツには会えないから」

 「その話をするために?」

 宮本さんは、赤面しながらも、下を向き、ぼそぼそ、聴こえない声で呟いていた。

 「宮本さん?」

 「そ、そうだけど、そうじゃないし、それもあるんだけど」 

 すぐに顔をあげ、再び視線を合わせた。

 「勉強教えて、今のうちに宿題終わらせたいの!頼れるの羽月さんだけなんだって!」

 これは賄賂かとすぐに納得出来た。

 「きっと、暁はやってないだろうしさ。此処で出し抜くチャンスと思ってて。お願いしますよ、羽月先生!」

 面倒くさい気持ちが強いが、せっかくなのでと付き合ってやろうと思った。

 「分かった。手伝うけど、此処は止めよう。どうにも、集中できないし」

 「じゃあ、ウチ来る?」

 「いいの?親御さんは?」

 「いいし、どうせ、夜遅くにならないと帰って来ないし。居ても、怒る親じゃないからさ」

 暁といい、彼女といい、放任なのか、忙しいのか。 
 誰もが親が居て、ご飯を作ってくれる訳ではないのかと何とも形容しづらい感情に襲われた。

 「その前に、パンケーキ食べる?」

 「いらない」

 私と宮本さんは飲み物を飲み終え、席を立ち、会計を済ませ、店を後にした。 
 会計は宮本さんがしてくれたので、本当に賄賂だったのか。

 たかが、数百円で買収される私ってと考えたものの、たまにはいいかと諦めた。

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