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あんたとシャニムニ踊りたい プロローグ‐④

 最初はこちらです。

 その2です。

 最新話はこちらです。

 6


 
  その日は6月らしい雨が降りしきっていた。

  私は父親の車で送迎して貰うことにした。

  何かあったら、連絡しろよと言われ、ありがとうと感謝を伝え、バンを降車した。 

 そういえば、私はまだ、気持ちを伝えてない人がいたことを思い出した。

 校舎に向かい、下駄箱に向かうとそこには彼女が何食わぬ顔で待ち構えていた。

 「待ってくれてたの?」 

 「今日は来るらしいって、聴いてたからさ」

 「なんで?」

 「なんで?って、何で?」

 「何で、待ってたの?何が目的なの?」

 「そんなもん、決まってんじゃん」

 彼女は私に勢いよく、近づいて来た。

 「羽月、私と友達になってよ」

 私の思考は一時停止状態になった。

 それから、私の次に出て来た言葉は自分でも、何を言っていたのか、よく分からなかった。

 「あんたと友達なんて、死んでもごめん」

 「えっ・・・・」

 今度は彼女の思考が一時停止状態になってしまったようだ。 

 そういう返しを言われたことが無いんだろうな。

 何より、私はいきなり、馴れ馴れしくなったのか?自分でもよく分からなかった。

 「何で、私なんかと友達になりたいの?石倉先生の差し金?それとも」

 「友達って、そんな面倒な物なの?」

 「いや、知らんけど。私は一人がいいの。だから、ほっといてよ」

 私が下駄箱に靴を入れ、下履きに履き替えた瞬間、こともあろうに、暁は私の腕を握った。

 「な、なにやってんのよ、馬鹿」 

 すぐに腕に抱えていたカバンで、彼女のみぞおちを殴ってしまった。 

 いつもなら、我慢できるのに、何でこんなことに・・・。

 しかし、暁は笑顔だった。

 「何で、笑顔なのよ?酷いことしたのに」

 「酷いことしたのあたしでしょ?先生から聞いてたのにさ」

 「あの担任、なんてことを」

 「いいんだよ、我慢しなくても。いいんだよ、わたしは羽月を受け止めたい。羽月の力になりたい。だから、私と」

 「私は、わたしは・・・・」

 再び、近づいて来た暁は、また真っ直ぐな視線で私を見つめた。 

 本当に迷っていたのは、私の心だ。私の気持ちだけだったのだ。

 「私はあなたの友達にはなれない。だって、わたしはあんたが」

 「嫌いなんでしょ?そりゃ分かるよ。皆に好かれる為に生きてないし」

 「じゃあ、何で?」

 「羽月が好きだから。それだけじゃ、だめ?」

 訳が分からなかった。

 何で、私の為にそこまで、絡んで来るのか理解出来なかった。

 「いちゃいちゃしてるとこ、悪いんだけど、そろそろ、予鈴鳴るよ。おはよう、ひよっち、せなっち」

 「いちゃいちゃしてない!いちゃいちゃって、何?おはよう」

 あんまり、声出してなかった数日、久々に大声を出していた私の喉は朝から終わった気がした。

 「なんだよ、突っ込めるじゃん。やっぱ、羽月は面白いな。ひよっちって、呼んじゃだめ?」

 「それ呼んでいいのは、加納さんだけ。次呼んだら、縁を切る」

 「縁を切ると言うことは、友達になっていいんだね」

 「そういう意味じゃないし、何でいきなり、呼び捨て?馴れ馴れしい。順序があるでしょ、順序が?」

 「順序って、何?呼び方なんて、自由じゃん」

 「うっざ、これだから、天然陽キャは手に負えない」

 「天然陽キャって、どういうこと?」

 「いちいち、突っ込んでくんな!」

 「もういいから、ホームルーム始まるよ」

 中学2年の6月の大雨の降ったその日、私羽月妃夜と暁晴那とのくだらなくも、どうしようもない悲喜劇はこうして幕を開けた。 

 こういう時、その時の私は知る由も無かったとか、あの頃を俯瞰したモノローグが流れて来るのだろうが、今言えることは面倒なことになった位だろうか。  

 これは何も知らなかった私と陽気な彼女とよくある普通の物語である。

 「言い忘れてたことがあるの」

 「ん?」

 「あ、ありがとう。3回も助けてくれて、それだけ」

 「えっへへへへ」

 「キモ」

 「素直に照れるじゃんよ」

 「言わなきゃ良かった」

 「もっと、頼ってもいいんだよ」

 「あーあ、この女の足元に弾丸みたいな隕石落ちて来ないかな?」

 「流石に泣いちゃうよ」

 「お前等、いちゃいちゃしてないで、ホームルーム始めんぞ」

 「いちゃいちゃしてません!」


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