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子ども食堂だいちのめぐみ #1

第一話:雪の町とだいちのめぐみおにぎりがつなぐ笑顔の輪

第一部

新潟県上越市に位置する高田本町商店街は、雪深い冬で知られる地域だ。積雪は3メートルにもなることがあり、毎年のように人々は雪との戦いを強いられる。しかし、上越市の人々はそんな冬にも負けず、工夫を凝らして生活してきた。その工夫の一つが『雁木』だ。雁木は商店街の通りを覆う屋根であり、町全体をつなぐように伸びている。

鈴木晃四郎は、母親のめぐみと一緒に「だいちのめぐみ」という子ども食堂を経営している。ここは、商店街にある小さな店だが、地域の人々にとって温かい居場所となっている。元議員で地域活動にも熱心だっためぐみは、町の人々と共に助け合うための場を作りたいと考え、この店を始めたのだった。

この日は雪がちらつく寒い日だった。店内では、めぐみが温かいおにぎりを握っている。そんなめぐみの姿を見ながら、晃四郎は店の窓から外を見ていた。

「お母さん、今日も雪がすごいね!」

晃四郎は目を輝かせながら言った。雪が降ると、町全体が真っ白に染まり、まるで別世界のように感じられる。高田本町商店街は、いつものように人々が行き交い、雁木の下を歩く姿が見える。人々は雪を避けながらも、どこか楽しそうに笑い合っている。

「ほんとね、でもこれが上越の冬だから。雪が降るとみんなで助け合って生活しているのよ。雁木もそのためのものだしね。」

めぐみはおにぎりを握りながら微笑んだ。彼女は、晃四郎がこうして町のことを学んでいくことが大切だと思っている。雪国で生まれ育ったからこそ、この土地の文化や人々の助け合いの精神を知ってほしいと願っていた。

第二部

その時、店のドアが開き、寒そうに震えた少年が入ってきた。彼は小学生のようで、着ているコートには雪が積もっている。晃四郎はその少年を見て、すぐに声をかけた。

「いらっしゃい!お兄ちゃん、寒かったでしょ?」

少年は恥ずかしそうにうなずき、店内に入り込んだ。めぐみがカウンターの向こうから優しく声をかける。

「いらっしゃい。暖かいおにぎりがあるから、ゆっくりしていってね。お腹が空いてたら遠慮せずに言ってね。」

少年は少し迷ったような表情を浮かべながら、晃四郎の隣に座った。晃四郎はにこにこと笑顔で少年に話しかけた。

「ぼく、晃四郎!ここのお店はうちの家族でやってるんだ。いつでも遊びに来ていいよ。」

少年は少し緊張している様子だったが、晃四郎の明るい態度にほっとしたようだった。

「ぼくは、リク。転校してきたばかりなんだ…。」

リクはポツリと自己紹介をし、少しずつ自分のことを話し始めた。彼の家は最近上越市に引っ越してきたばかりで、友達もいないため、毎日が寂しくて仕方がないという。

めぐみはそんなリクの話を聞きながら、おにぎりを差し出した。「リクくん、このおにぎりを食べて元気を出して。私たちもこの町でみんなとつながって生きてるのよ。だから、困ったことがあったらいつでも頼ってね。」

リクはそのおにぎりを手に取り、感謝の言葉をつぶやきながら食べ始めた。おにぎりの温かさが彼の心を少しずつ溶かしていくようだった。

第三部

リクが「だいちのめぐみ」でおにぎりを食べ終えると、めぐみが雁木について教えてくれた。

「リクくん、この町にはね、雁木っていう道があって、雪が降ってもみんなが安全に歩けるようになってるのよ。上越の冬はとても厳しいけれど、人々が助け合ってこの町を守っているの。」

「雁木って、あの屋根のこと?」リクは初めて耳にする言葉に興味を抱いた。

めぐみはうなずき、微笑んだ。「そうよ。雪の重みからみんなを守ってくれるの。昔からこの町の人たちが協力して作ってきたんだよ。」

リクは目を輝かせて、雁木についてもっと知りたくなった。「そうなんだ。すごいね…!」

「もしよかったら、今度一緒に雁木を歩いてみようか?」晃四郎が提案すると、リクは嬉しそうにうなずいた。

「ありがとう、晃四郎くん!ほんとにこの町に来てよかったかも。」リクは少しずつ心を開き始めていた。

第四部

その後も、リクは「だいちのめぐみ」に頻繁に通うようになった。彼は学校が終わると、雪を踏みしめながら商店街を歩き、雁木を伝って店に向かうのが日課となった。晃四郎とめぐみが迎えてくれる「だいちのめぐみ」は、彼にとっての居場所になっていった。

ある日、リクが店に入ると、晃四郎が何かを持って近づいてきた。「今日はね、特別なおにぎりを用意したんだ。これはお母さんが作ったスペシャルおにぎりなんだよ!」

めぐみは笑顔で説明した。「このおにぎりには、私たちの家で育てたお米を使っているの。冬の寒さにも負けずに育ったお米だから、食べればもっと元気になれるよ。」

リクはそのおにぎりを手に取って一口かじり、ほっとしたように笑顔を見せた。「おいしい…!」

晃四郎とめぐみは、そんなリクの笑顔を見て安心した。彼が少しずつ町になじんでいく姿を見届けながら、「だいちのめぐみ」がリクにとっての新しい家のような存在になっていくことを願っていた。

第五部

その日の夕方、商店街の人々が雪かきをしている姿を見たリクは、勇気を出して手伝いを申し出た。すると、商店街の人たちは喜んで受け入れてくれた。リクが雪をかくのを手伝っていると、近くで見ていたおじいさんが声をかけてきた。

「リクくん、ありがとうね。この商店街はみんなが協力して成り立ってるんだ。君もすっかりこの町の仲間だよ。」

リクは照れくさそうに笑った。「この町のこと、もっと好きになれそうです。」

リクは雁木の下を歩きながら、町の人たちと助け合い、温かいつながりが感じられる日々を過ごすことができることを嬉しく思っていた。寒い冬の中で、温かい人々と出会い、新たな生活が始まったリクの心には、小さな光が宿り始めていた。

第六部

次の日の午後、リクは晃四郎とめぐみと一緒に商店街を歩くことにした。外は雪が降りしきる中、雁木のおかげで三人は雪を避けながら安心して歩けていた。雁木の下を歩いていると、リクは晃四郎に尋ねた。

「晃四郎くん、どうしてこの町のみんなはこんなに助け合ってるんだろう?」

晃四郎は少し考えてから答えた。「きっと、この町が雪に囲まれているからだと思う。雪が降ると、ひとりじゃ何もできなくなっちゃうことが多いけど、みんなが協力すると困らないで過ごせるんだよ。」

「そうなんだね。みんなで助け合っているから、寒いのに温かく感じるのかも。」リクはそう言いながら、商店街の人たちに対する感謝の気持ちを抱き始めた。

第七部

リクは商店街を歩くたびに、さまざまな人たちから声をかけられるようになった。雪かきを手伝うことも日常的になり、町の一員として受け入れられているのを感じていた。そんな日々が続く中で、リクはあることを決意する。

「僕、この町でお母さんがもっと安心して働けるように、毎日雪かきを手伝おうって決めたんだ。だいちのめぐみのことも、みんなに紹介するよ!」

晃四郎はリクの決意を聞いて喜び、めぐみも彼の成長を嬉しく思った。リクの新しい決意が、町の人々の心をさらに温かく包み込んでいく。

第八部

晃四郎とめぐみは、リクの力になりたいと思い、商店街の人々にも協力を呼びかけた。町の人々は喜んで応じ、リクを支えるために一緒に雪かきを始める。

ある朝、商店街の皆で雪かきをしていると、リクが「だいちのめぐみ」に向かって笑顔で走り寄ってきた。

「みんなのおかげで、僕もこの町にもっと馴染めた気がするよ!ありがとう!」

めぐみは彼に温かいおにぎりを手渡し、リクは感謝の気持ちを込めてそのおにぎりを大切に食べた。彼はこの町で、寒さに負けない温かさを知り、日々の生活が少しずつ楽しくなっていった。

第九部

晃四郎とリクは、商店街の雪かきや、だいちのめぐみの手伝いを通じてますます仲良くなっていった。ある日、リクが家で母親に言った。

「お母さん、この町での生活、最初は寂しかったけど、今は本当に楽しいよ。みんなで助け合ってるし、僕もその一員になれてる気がするんだ。」

リクの母親は驚きつつも微笑んだ。「そうね、リクがそう思えるなら私も嬉しいわ。町の人たちに感謝しなきゃね。」

その夜、リクは眠りにつきながら「だいちのめぐみ」の温かいおにぎりと、晃四郎の笑顔を思い浮かべていた。この町で、リクは自分の居場所を見つけたのだ。

第十部

春が近づき、雪が少しずつ解け始めると、リクは商店街の人たちと協力して、冬の間に積もった雪を最後に片づけていた。リクは、最初にこの町に来たときとは違い、たくさんの仲間と一緒に楽しそうに笑っていた。

晃四郎はそんなリクを見て、胸の中が温かくなった。「リクが笑ってると、なんだか僕も嬉しくなるな。」

その後も、リクは「だいちのめぐみ」に頻繁に訪れ、めぐみや晃四郎と過ごす時間を楽しんでいった。

そして、春が来ても、彼の心にはずっと冬の間に芽生えた温かさが残っていた。

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