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奈津美の声:ショートショート

 温かいうちに朝食を食べてほしくて、彼女を起こしにいった。そしたら、彼女は人形になっていた。

 広々としたマットに、奈津美の姿をしたリカちゃん人形が、ぽつんと虚しく落っこちている。

 「奈津美?」

 返事はない。

 僕は奈津美を手に取って、食卓に連れていった。こんな小さな人形を椅子に置いたところでどうしようもないから、作りたてのBLTサンドの脇に置いた。シンプルだが材料には凝っていて、ドレッシングも手製だった。

「ほら、奈津美、パンが冷める前に食べなよ」

奈津美は黙したまま食べようとしない。

「せっかく君のために作ったんだ。食べてくれなかったら悲しいだろう」

「え?あたしは悲しくない?でもさ、僕が悲しいとき、君は悲しくない?」

「そっか。じゃあ別れよっか」

「なぁ、なんか言ってくれよ」

 彼女はうんともすんとも言わない。いつまでもこうしている訳にはいかないから、僕は観念して言った。
「じゃあ、もう行くね」



 そうして立ち上がり、食卓を離れた。

すると背後から声がした。

「もうあたし、疲れちゃった。苦しい」

ハッと驚いて、僕は振り返った。

奈津美がもとの姿をして、サンドをもぐもぐ食べていた。

ごくっと飲み込み、目を丸くして僕を見た。

「どうしたの?」

何事もなかったかのような彼女。いや、実際、何事もなかったのだろう。

僕はなんだか急に悲しくなって、彼女のほうへ寄った。悲しいうえに、愛おしい。いったいこの感情はなんだろう。

「どうしたのー?」
と無邪気な彼女の顔に手を添えて、上を向かせた。隅々まで接吻したあげく、頬と頬とで触れ合った。

「ねぇえん、なぁに?ふふっ。急にどうしったっていうのよ」
と、彼女はやはり無邪気に明るく笑って振舞う。

『気づかなくてごめん』と僕は心のなかで謝った。


( ´艸`)🎵🎶🎵<(_ _)>