企業の持続的成長とD&I ~well-beingの視点から(前編)
こんにちは。セプテーニグループnote編集部の田中です。
セプテーニグループでは、サステナビリティ活動の重点テーマのひとつに「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」を掲げ、さまざまな取り組みを行っています。
2022年5月に、その取り組みの一環で「企業の持続的成長とD&I ~well-beingの視点から」セミナーをオンライン配信にて開催。当社の社外取締役でもある予防医学研究者 石川善樹 氏による講演と、当社代表佐藤との対談を実施しました。
今回は、そのイベントレポートの前編として、第一部の石川氏の講演レポートをお届けします。ぜひご覧ください!
well-beingとは?
日本語訳が難しいといわれる「well-being」。この言葉の解釈から石川さんの講演は始まりました。
「well-being」の解釈の参考になるのが「Human-being(人間)」。昔の日本人はHuman-beingを”人間”と訳しました。つまり、beingというのはうまく”間”が取れている状態ということだと思います。このことから、well-beingというのはなんとなく良い間が取れているということなのだと僕は考えています。」
well-beingとは、他人、自分自身、自然や地域、金融資産などあらゆる物と”良い間”を築けている状態を意味するとのこと。
具体的なwell-beingのイメージを掴んだところで、話は仕事とwell-beingとのつながりに移ります。
「仕事となると、好きな人だけではなく、苦手な人と関わらなくてはいけない場面があると思います。苦手な人に対しては”良い間”を取って関わっていく。そういう意味で私自身はD&Iというのは、well-beingが良い状態、つまり良い間を取れていることなのではないかと考えています。」
あなたのチームメンバーはどんな人ですか?
世界160カ国で実施しているwell-beingの調査の「自分の仕事は人々の生活をより良くすることにつながっていると思いますか」という質問では日本は世界で5位である一方で、「日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか」という質問では95位まで落ちてしまうという衝撃の結果が。
意味のある仕事を楽しいと感じられていないのが日本の現状だとお伝えいただきました。
「なぜ仕事が楽しくないのか。一番有力な仮説が、誰とやるかということ。好きな人とやるんだったら何をやっても楽しいんですよ。砂場で穴を掘って、また埋めろと言われても、好きな人とだったら楽しい。」
では、どうすれば日々の仕事を楽しいと感じることができるのでしょうか。
石川さんは「他己紹介」が鍵になると話を続けます。
「well-beingなチームというのは、他己紹介が上手いと思います。仕事ぶりではなく、その人がどんな人柄なのかという紹介が上手いということです。一緒に働く人の仕事ぶりだけではなく、人柄を含めて理解・共感していると、仕事が楽しくなる。
そして、相手を理解することによって、より自分と相手の違いを認めやすくなる。
相手を理解しようとする際には、相手と自分との共通項や、相手の尊敬できるところを探していくことから始めると良いと思います。
もしどうしてもなければ相手の持っている物でも(笑)。
これらのような入口から相手を理解することで、自分が心地よいと思える良い間を相手と築くことができると思います。」
企業価値とは何か
次に話題は企業価値とD&Iとのつながりへと移ります。
最初に、企業価値を考える上では、シングル・マテリアリティとダブル・マテリアリティ、2つ考え方があることを理解するのが大事だとご説明いただきました。
「まず、誰が企業価値を規定するのか。
シングル・マテリアリティは主に株主や投資家です。一方、ダブル・マテリアリティは、企業に関連するすべてのステークホルダーが価値を規定すると考えます。
では、何が価値か。
シングル・マテリアリティは一言で言うと財務価値ですね。 ダブル・マテリアリティは財務価値はもちろんですけど、社会にどれだけ貢献しているのかという社会価値も重視します。
最後にどうやって企業価値を創造していくのか。
シングル・マテリアリティは、企業価値が、工場のベルトコンベアのように生まれるとイメージしています。
一方でダブル・マテリアリティは、企業価値をベルトコンベア方式ではなくて、 様々なステークホルダーと共に創造しているかどうかを重視します。
第1次産業であればどれだけ畑を持っているのか、どれだけ工場を持っているのかということが大事なんですが、セプテーニグループのような第3次産業が中心になってくると、一番大事になってくるのは人ですよね。人的資本と言われるような無形資産がすごく大事になってくる。その中でも特に従業員のエンゲージメントとwell-beingはすごく重要。
従業員のwell-beingなりエンゲージメントが悪化すると、それはダイレクトに生産性の低下につながるだろうし、欠勤や休職や退職につながってしまうと、残された人たちのwell-beingはますます悪化する。このように、従業員のwell-beingの悪化は、 将来のキャッシュフローを毀損するというのは容易にイメージしやすいですよね。
しかし、社員が自由にご機嫌に働くようになったからといって、どれだけキャッシュが増えるのかをイメージしづらいのがシングル・マテリアリティです。
ダブル・マテリアリティの考え方では、各ステークホルダーのwell-beingの向上が注視されます。
企業価値とは何か、その企業価値をどうやってつくっていくのかという点で、シングル・マテリアリティとダブル・マテリアリティの間にはこのように考え方の違いがあります。
しかし、well-beingは大事だよねというのは、両陣営で共通するんですね。
ゆえに、企業価値と、well-beingが結びつき始めているというのが世の中のトレンドです。」
具体的な事例を紹介していただきながら、企業価値とD&Iの話は続きます。
従業員を“管理”するのではなく、従業員に“投資”をする
ここまで石川さんにシングル・マテリアリティ、ダブル・マテリアリティの2つの企業価値の捉え方があるとご説明いただきました。
また昨今では、2つの立場のうち、ダブル・マテリアリティの考え方が優勢になってきているそうです。
「企業に関わるステークホルダーが増えてきたため、いろんなステークホルダーに配慮したD&Iがすごく求められる、そういう時代になりつつあります。
特に、従業員とどう価値を作っていくのか というところがすごく重要です。様々なステークホルダーの中でも従業員が企業価値の源泉ですからね。
昔は従業員はヒューマンリソースとして捉えられていました。
だから、人事部って大体HRって言いますよね。「HR」のRは何かっていうと、Resource、資源です。 資源は管理しないといけないということで、従業員の工程や時間を管理したりしてきました。
それが現在、もっと従業員を大事にしようということで、従業員を管理するのではなくて、従業員に投資しようという考え方に変わってきています。」
2023年の3月期の有価証券報告書から開示が義務付けられた「人的資本情報」。石川さんは人的資本情報の開示に向けて大切なことを教えてくださりました。
「これから日本の企業はどういう人的資本を持ってるのか、そしてそれにどれぐらい投資をしているのか。 投資ってのは職場環境の投資とかね、ワーケーションを含めた働き方の投資とか、 あるいは今回の研修みたいなものですね。 どういう人的資本を持っていて、どれだけ投資しているのかを情報公開せよというのが2023年から始まることになってます。
これはすごいことで、従業員を管理対象から投資対象だと捉えているということなんですよね。
ただ、 この従業員がヒューマンリソースなのかヒューマンキャピタルなのかは、あまり本質的な議論ではない。
大事なのは従業員がHuman‐beingであること、1人の人間として捉えていくこと。つまりwell-beingであることです。」
「ひとりひとりの従業員の違いに着目するのではなくて、1人の人間として受容・尊重していくという大前提がないと、投資しようとしたり管理しようとしたりしてもあまりうまくいかないんですよね。
従業員を1人の人間として尊重できてますかということも、これから情報公開の対象になってくると思います。」
一歩行動を変える
講演の最後に石川さんが私たちに伝えてくださったことは、D&Iに向けて、私たちにできることは何かということでした。
「D&Iを進めていく、多様な人とインクルージョンを進めていく上では、基本的には似てるという前提に立った方が良いです。その上で、自分と相手との差を見る。
自分とタイプが違うと、相手の考えていることが分からないことがあるかもしれません。そういう場合は相手と同じタイプの仲間を見つけて、状況を話して、どう接したら良いのか相談してみる。これを繰り返すことで結果としてD&Iが進み、つよくやさしくおもしろい組織になっていくのではないかと思います。 」
▲2022年10月のビジョン刷新に伴い、バリューに「つよく、やさしく、おもしろく。」が加わりました。
後編につづく
(後編は石川さんと佐藤さんの対談の様子をお届けします。どうぞお楽しみに!)