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ウェルビーイング:Session7 職場におけるニューロダイバーシティ

「ニューロ」という言葉には昔から違和感がある。直訳すると「神経の」とか「神経学の」となり、日本語だとどうしても神経細胞をイメージさせるが、「脳の」か「脳科学の」とした方が適切なことが多い。脳科学も英語ではNeuroscienceである。ということで今回のテーマは神経の多様性ではなく、脳の多様性。Wikipediaのページはあるが、Googleで「ニューロダイバーシティ」と検索しても65000件程度しか検索結果が出てこないため、比較的日本では新しい概念だと思われるので、興味深く読んでもらえるのではないか。

<授業での学び>

Lecturerは大学の教員ではなく、この科目の担当教授と共同研究をしていた人で、この分野のコンサルタントをしている方。

・ニューロダイバーシティとは、脳の多様性のことで、失読症や発達障害などを精神疾患ではなく、尊重すべき脳の差異と認識しよう、という考え方。
・ニューロダイバーシティの分類には下記がある。
 ー失読症、計算障害、書字障害:応用ニューロダイバーシティ
 ーTourette syndrome、自閉症、ADHD:診療ニューロダイバーシティ
 ーメンタルヘルスの状態:獲得ニューロダイバーシティ
 ー神経疾患と脳の怪我:獲得ニューロダイバーシティ
・脳のマイノリティは15-20%いると見られ、疾患と見なされる特徴もあるが、高い能力も持つ。
 ー例えば、計算障害や失読症は創造性、ADHDは集中力、など
・脳のマイノリティは、社会の変化により明らかになってきた。
 ー自閉症やヒステリー、多動は19世紀から20世紀初期に見つかった。
 ーADHD、失読症、統合運動障害、自閉症スペクトラム障害は、20世紀中盤から後半にかけて見つかった。
 ー失読症は、学校教育が広まり、文字を読むトレーニングが行われるようになって初めて認識された
(所感:今後はどのような人が見つかるのか?オンラインビデオ会議だと人の感情が読めないとか?テキストメッセージから感情を読めるとか?)
・脳の多様性を持った従業員が共通して抱える課題は以下。
 ー記憶力、集中力:92%
 ーコミュニケーション力、チームワーク:83%
 ータイムマネジメント:78%
 ーウェルビーイング:67%(所感:どういうこと?)
・一体化(Inclusion)のレベルは以下
 ーレベル1:排他
 ーレベル2:個人を包含
 ーレベル3:チームを包含
 ーレベル4:多様な人全員を包含
・障害は見える化されていない。
 ーメンタルヘルスに問題がある人は7人に1人
 ー長期で雇用されていない人の28%が失読症
 ー自閉症の人の10-15%しか仕事がない
 ー囚人の25%がADHD
・しかし実は障害者の方がコストがかからないという研究もある。
 ー障害者の病欠が8.31日に対してそうでない人は9.71日
 ー病欠のコストは障害者で$408に対してそうでない人は$881
 ー採用コストは障害者が$141で、そうではない人は$1079 など
・脳の多様性を持った人に対するサポートは色々ある。
 ーコーチング
 ー障害をサポートする技術
 ー物理的な環境の改善
 ースケジュールの柔軟性
 ー上司からのFB
 ートレーニング
 ー環境的柔軟性
・コーチングは効果があることがわかってきている。
 ー75%の人がパフォーマンスが上がったと自己申告した。
 ー管理職の評価では、47%が生産性が上がったとした。
 ー昇進率は25%上昇
 ー95%は仕事を継続する。
 ー短期記憶や自己効力感の上昇も見られた。

(所感)体感で、脳の多様性を持った人は潜在的にかなりの割合で存在していると認識しているため、興味深かった。これも現代の人々の見方を変える大事な概念だと思う。この概念を知らないと、脳の多様性を持つ人に対して、「なぜ"普通に"できないのか?」などと考えてしまい、お互いフラストレーションが貯まってしまう。こういう言葉を持つことで、まずは受け入れることができるようになる。対応はまだ難しいと思うが、認識を変えるだけで大きな一歩になるだろう。ニューロダイバーシティはまだネガティブに捉えられているので、まずは性別や国籍、人種、と同様の、人間の「パラメータ」として認識されるようになってほしい。Lecturerのプレゼンが上手く、かつこの分野の実務家でもあり熱意も高かったこともあり、かなりの生徒が満足しているように見えた授業だった。中の良い友人も「今までで最高の授業でした」とLecturerに話に言っていた。

<課題論文1>

授業でも触れられていたが、学習介入(所感:トレーニングやコーチングという意味のはず)によって、自己効力感や短期記憶を高めることができることを整理したレビュー論文。メタ認知の開発やストレスマネジメント、目標設定も価値があると主張。

Doyle, N. E., & McDowall, A. (2019). Context matters: A review to formulate a conceptual framework for coaching as a disability accommodation. PloS one, 14(8).

<課題論文2>

これも授業で触れられていた論文。コーチングを失読症の人に実施したところ、短期記憶、組織スキル(コミュニケーションやチームワークなど)、時間管理などが、読み書きにおける困難さよりもテーマとなっており、仕事のパフォーマンスが高まったことを発見した。

Doyle, N. & McDowall, A. (2015). Is coaching an effective adjustment for dyslexic adults? Coaching: An International Journal of Theory, Research and Practice. DOI: 10.1080/17521882.2015.1065894

<課題論文3>

青年期にADHDと、成人後の、肉体的障害、精神的障害、反社会的パーソナリティ障害、仕事上のパフォーマンス障害、金銭的ストレスの関係を調べた論文。どれも普通の人より高くなることがわかったので、早期に診断することを提案している。

Brook, J. S., Brook, D. W., Zhang, C., Seltzer, N., & Finch, S. J. (2013). Adolescent ADHD and adult physical and mental health, work performance, and financial stress. Pediatrics, 131(1), 5-13. 

<課題論文4>

英国心理学協会のレポート。ウェルビーイングと生産性についての研究をまとめたもので、長過ぎるため読めず…。イギリスではこうした協会で研究者や実務家が活発に活動し情報発信し、政策などにも活用されている点が、日本との違いとして感じられる。これはこれで考察の興味の対象ではある。

Weinberg, A. & Doyle, N. (2017). Psychology at work: improving wellbeing and productivity in the workplace. British Psychological Society.

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