花束みたいな恋
📷: 部屋に飾っていた今は亡きドライフラワー
※ネタバレあり
映画「花束みたいな恋をした」を観た。
普段恋愛モノは映画館で観ないが、ドラマ「Woman」以来坂本裕二さんの書く脚本が好きで、さらに予告編の雰囲気がよかったので久しぶりに映画館で恋愛モノを観ようと決めた。
予告から切ないストーリーだということはわかっており、一人で寂しさの余韻に浸るのは嫌だなあと思ったこと、京王線沿線が舞台であったり大学〜社会人カップルと言った要素が自分達と似ていたことから、ちょっと嫌そうな恋人を半分無理矢理連れて行った。
結果、私は着けていたマスクが涙でべちょべちょになるくらい泣いた。
エンドロールでAwesomeCityClubの勿忘が流れていたら、きっと寂しさの余韻に浸りすぎて一日中グズグズしてしまっていたので、あのポップな音楽がちょうどよかったかもしれない。
きっと恋愛をしたことがある人なら、誰しもが共感し得る映画だと思う。
初っ端からサブカルチックなフレーズや作家さんの名前がたくさん出てきて少し身構えもしたが、自分の好きなものを相手が好きだった時の感動や趣味を共有できる嬉しさは深く共感できた。
二人が幸せそうにデートをする場面は、なだらかで平和で一見退屈そうにも思えるが、「こんなことも恋人とだと楽しいよねうんうんわかる」という気持ちになった。
予告映像で「(二人が参列した)この結婚式が終わったら、別れるから」と言っていたので、前半幸せそうに過ごす二人を見ながら、こんなに幸せそうで仲良しなのに後に別れを選ぶんだよな…と悲しくなってしまい、海ではしゃぐ二人を見ながら泣いた。
焼きそばパンを一緒に食べる二人を見て泣いた。
すれ違っていく二人を見て泣いた。
別れを決断した二人の表情を見て泣いた。
過去の自分の経験や今の自分の状況と共通するようなセリフが多かったからだろうか。
自分でもなぜこんなに涙が出てくるのかわからなかったが、感情移入するには十分すぎるほど人間らしさがよく出ている映画だった。
どちらかと言うと絹ちゃんの立場に自分を重ねている事が多かった。
「花束みたいな恋をした」
花束みたいな恋、とはなんだろうか。
私は花が好きだ。
道端に咲く花も好きだが、誰かからもらうお花は嬉しいありがとう!といった気持ちが合わさってより一層大好きだ。
飾ってあるだけで、部屋がなんだか明るくなった気がする。
ふと視界に入るたびに嬉しくなる。
わざわざ私のためにお花屋さんに買いに行って、お花を選んで、贈り物用ですって伝えたのかな…などと嬉しい想像が頭の中で繰り広げられる。
たとえばバラが咲くときは蕾がゆっくりと開き始め、花びらが少しずつ広がり、そして外側から一枚ずつ花びらが落ちていく。
最初は白っぽかった蕾が、花びらを落とす頃には若干茶色がかっていたりする。
花を咲かせる過程において、バラは絶えず姿を変えている。
花が美しいのは、いつか枯れてしまうことがわかっているからだ。
もちろん花そのものも美しいが、いつか消えてしまうという尊さ、そしてその儚さは余計美しく感じられるのだろう。
漢文や古典に出てくる「無常」と言う言葉が一番似合うのは、やはり花だと思う。
花びらは一度広がると、二度と元の形に戻らない。
私はもらったお花を長く楽しむために、枯れ始めるとドライフラワーにして飾る。
とても綺麗だし長く飾る事ができて良いのだが、やはり咲いていた頃の美しさがそのまま続くわけではない。
全く別の物である。
そんな儚い花たちをできるだけ長く綺麗に愛でるには、花それぞれに十分な手入れが必要だ。
劇中、絹ちゃんと麦くんは二人で暮らすため、小さな努力を毎日重ねていた。
観客にしかわからないような、本人たちは気づかないような小さな努力も二人はしていた。
絹ちゃんは就活がうまくいかず広告代理店勤めの両親に反抗する気持ちもあってフリーターになり、麦くんは夢を追ってフリーターとなった。
安定した仕事に就いているわけではないが、駅から徒歩三十分の距離を二人で歩くのは幸せだったし、二人の日々はとても充実して見えた。
しかし、それぞれの親からのプレッシャーは麦くんに重くのしかかった。
結果、麦くんは夢を追うのを一旦辞めて企業の営業職に就いた。
絹ちゃんも簿記の資格を取って、アイス屋さんよりもお給料のもらえる事務の仕事に就いた。
二人とも、二人で生きるために就職をした。
しかし、麦くんは仕事の忙しさに追われて絵を描く時間がなくなり社会に染まった。
激務に耐え、好きだった漫画や本を読む時間も無いまま働いた。
絹ちゃんは家で一人の時間が増えた。
生活習慣が違ってしまったが、お互いの時間を尊重していた。
仕事中の麦くんを邪魔しないようゼルダの伝説を小さな音でプレイしたり、お茶を淹れてあげたり、時間がある分絹ちゃんは努力ができた。
しかし、麦くんは自分のことで精一杯になってしまった。
一緒にみにいこうと約束していた舞台の名前さえ覚えてはいなかった。
二人で生きるためという目的は同じで、努力し合っていたはずなのに、すれ違ってしまった。
二人で一緒にいるためなら夢を捨ててもいいと思った麦くんと、贅沢はできなくても夢は捨てずに楽しくいたかった絹ちゃん。
どちらも正解なのに、努力してもどうにもならないことがこの世にはあった。
誰も悪くない。
時間が経つのとともに花が姿形を変えていくのと同じように、自然に価値観が変わってしまったのだ。
絹ちゃんが歯科事務を辞めて好きな事を仕事にしたいと言ったとき、価値観が変わる前の麦くんなら賛成していたのではないだろうか。
絵を描いて食べていく、という夢を追っていた麦くんなら十分絹ちゃんの気持ちが理解できていたはずだ。
辛い思いをしながらやりたくもない仕事に就いている麦くんに取っては、好きな事を仕事にするというのは叶わぬ夢だったのだろう。
些細なことから喧嘩になった二人だったが、麦くんはプロポーズとは呼べないような何かの手段としての求婚を勢い余ってしてしまう。
映画を観ていた私は、この瞬間に「あ、今終わってしまったな」と悟った。
何が?と聞かれると言葉で表すのが難しいのだが、二人が積み上げてきた努力が、絹ちゃんの望んでいなかった声のトーンでの「結婚しよう」によって、一瞬にして粉々になって飛んでいった。
そんな気分だった。
お互い言いたいことはたくさん募っているはずなのに、二人がすぐにお茶を飲みながら仲直りをしてしまうシーンは、消化不良でモヤモヤとした気持ちになった。
仲良く過ごすためにお互いが我慢をして口をつぐむと見せかけて、面倒なことを避けているように見えた。
一つ不満や不安を話してしまうと止まらなくなってしまうし、付き合った当初とは変わってしまった自分たちを認めないといけなくなる。
変わってしまった自分たちを受け入れ、認めることはすごく難しい。
二人はこのままではいけないことを少しずつ気づいていたのだ。
だからこそお互いを受け入れ、自分の変化を認め、たくさん話してこの先の二人の未来を修正する必要があった。
二人で生きるというのは、大変な作業だ。
どんなに丁寧に手入れをしても、枯れてしまう花束。
そんな花束みたいな恋をしていた二人。
何度も通ったファミレスで別れを告げようとした時、まるで付き合い始めた時の自分達のような初々しいカップルを目にする。
麦くんが「やっぱり別れるのやめよう」「結婚しよう」と止めようとしていたが、そのカップルの会話を聞いて何も言えず絹ちゃんと共に黙り込んでしまう。
もうあのカップルのように、あの頃の自分達には戻れないということを痛感したのだ。
麦くんの「やっぱり別れたくない」「結婚してなあなあになりながら一緒にいる夫婦だっているんだから」と別れを止めようとした時、きっぱりと拒んだ絹ちゃんは強いなと思った。
もしも私が絹ちゃんだったら、麦くんの話を聞いて揺れてしまうだろう。
四年間で育んだ情に引き留められてしまうと思う。
だが、絹ちゃんは強かった。
絹ちゃんを最後まで離そうとしない麦くんも強かった。
愛するということは花のように儚いものだが、人を強くさせることもできる。
私は強くなれているだろうか。あるいは誰かを強くさせることができているのだろうか。
きっとこれはこの映画を観た全恋愛中の人が思った事だと思うのだが、映画が終わり劇場が明るくなる瞬間「今隣にいる人を大切にしよう」と思った。
自分の人生この先どうなっていくかは誰もわからない。恋人と自分、二人の人生などなおさらだ。
麦くんと絹ちゃんのように、幸せでいようと努めてもすれ違ってしまうことがあるかもしれない。
どちらかが病気になってしまったり、いなくなってしまうことがあるかもしれない。
別れを告げる日がいつか来てしまうかもしれない。
エンドロールを眺めながら、半分無理矢理連れて来られた恋人は、隣で何を考えたのだろうと気になった。
劇場を出る時に聞いてみると少し退屈だったと言ったので、やはり恋愛モノはつまらなかったかなどと思っていた。
自分だけが映画を観ながら色々考えさせられたのかなと思うと若干寂しいような気持ちもした。
そして寝る前、映画を観てから何時間も経った時に
彼がふと「観てよかったな」とつぶやいた。
その言葉を聞いて、「観てよかったな」と心の底から思った。
彼の頭の中を覗けるわけではないし、何を思って言ったのかはよくわからない。
ただ、彼が「観てよかった」と思ったのだということを言葉にして伝えてくれたことを私は嬉しく思った。
たとえいつか(80歳位?)終わりがきてしまっても、花のように素敵な思い出をたくさん束ねいた、大きな花束みたいな恋になりますように。
💐
ちなみに、ピンクのバラや赤色チューリップが好きだけど青っぽい花束が好みです。
一度しか観ていないのに、セリフが頭から離れないなあ。
はな恋、恋愛をしたことのある同年代の男女全てにオススメします。
よんぴ