よるのいきもの(2022/01/28)
夜のいきものは 夜に目覚める
几帳面ではないから時間はまちまちだ
夜のいきものは 星を灯さない
月をまわさない 太陽を隠さない
夜のいきものは なにもしない
ただそこにいるだけだ
夜がくるから 起きるだけ
朝がくるから 眠るだけ
いきものだから 生きているだけ
夜のいきものは 人には見えない
排水溝のせせらぎと ネオンライトのまたたきを
血管に流して息をしている
ときどき 誰かが夜のいきものをみつける
そうして部屋に連れて帰る
月光を鋭くしたような蛍光灯の下で
夜のいきものは その人の
寂しく上下する 喉もとを見ている
ただ 見ている
夜のいきものと人とが 触れ合うことはできない
夜のいきものは 死ぬことはない
夜のいきものは 何もできない
生きるほかには 何もできない
何ひとつ他にできることはない
夜は 神様が作る
几帳面な彼は 世界の半分にフタを被せ
1秒ごとにそれを動かす
そうしてできた夜の中で そのいきものは息をしている
閉ざされた半球の 呼吸する宇宙のすき間で
息をしている 朝を待って
夜のいきものは 泣かない 吠えない
なぜなら意味がないからだ
夜のいきものは ひとりぼっちだ
それは人と 全く同じだ でも
夜のいきものは悲しまない
ただ ひとりで震えるだけだ
例えば冬天のシリウスが ストロボのように瞬く夜に
夜のいきものよ どうか震えてくれ
震え続けてくれ 私と一緒に震えてくれ
誰も 誰とも ひとつになることはない
ひとつとして生まれ ひとつとして死ぬ
私たちは永遠に孤独だ
暁に目覚め夕日の前に寝る王も
命のほとんどを寝て過ごす猫たちも
布団にくるまり絶望を育む少女も
みんな みんな みんな 同じだ
ひとりで震え続けよう ともに
そのことによってのみ 繋がれる可能性を信じて
夜のいきものよ 君は夜に震え
私は陽の光の下 その震えを引き受けよう
このどうしようもない 心のもだえを繋ぎ合わせて
昼と夜とを繋ごう 別々に ともに 生きよう
この空っぽな世界で
この夜と朝とのあわいで
2022.01.28 詩の礫Ladder #礫 に寄せて