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角田裕毅、レッドブル昇格はならず:矛盾に満ちたF1界の現実
リアム・ローソンがレッドブルのシートを獲得し、2025年シーズンに向けてマックス・フェルスタッペンのチームメイトを務めることが決定した。しかし、この決定の裏側には、同じ昇格候補であった角田裕毅が昇格を逃した事実がある。角田のこれまでのパフォーマンスやレッドブルの政治的背景を考慮すると、この選択には単なる成績以上の要因が絡んでいると言える。本稿では、ローソンの昇格に至る理由と、角田が直面する複雑な現実について掘り下げる。
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ローソンの昇格――実力と可能性が評価された背景
リアム・ローソンは、2023年にアルファタウリで代役として参戦した際、シンガポールGPでの9位フィニッシュなど限られたチャンスを最大限に生かしてきた。2024年には、レッドブルでシーズン後半に参戦し、アメリカGPとブラジルGPで9位に入賞。特にアメリカGPでは、フェルナンド・アロンソを相手に果敢な守りを見せ、彼のレースクラフトとメンタリティが高く評価された。
さらに、ローソンの昇格を支えたのは、レッドブルジュニアプログラムの一員としてのキャリアだ。チーム代表のクリスチャン・ホーナーは、彼が若手育成プログラムの成功を象徴する存在であると強調し、そのメンタル面の強さや技術的な適応力を賞賛している。昇格の背後には、単なる実績以上に、将来の可能性を重視するレッドブルの哲学が反映されている。
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昇格を逃した角田裕毅――実績と「政治的な壁」
一方で、角田裕毅が昇格を逃した背景には、複数の要因が絡んでいる。角田は2023年から2024年にかけて、アルファタウリでのレースで予選成績、ポイント獲得の両面でチームメイトを上回り、安定感のある走りを見せてきた。しかし、それでもなお昇格に至らなかったのは、いくつかの理由が考えられる。
最大の要因は「政治的背景」だ。角田はホンダの支援を受けてF1キャリアを築いてきたドライバーであり、純粋なレッドブルジュニアプログラム出身ではない。この点が、レッドブル内部での評価に影響を与えた可能性がある。特に、ホンダとの提携が2026年に向けて終了することが決定している中、角田が「ホンダのドライバー」と見られることで、昇格の道が狭まったのは間違いがない。
さらに、クリスチャン・ホーナーが最近になって角田を昇格候補として言及するようになったものの、それ以前は一貫して昇格を認める発言を控えていたことも注目に値する。これは、チーム内での評価が十分に高まっていなかったことを示唆している。
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実力と「選ばれる理由」――F1の複雑な世界
F1におけるドライバー選びは、単なるパフォーマンスだけで決まらない。過去の日本人ドライバーの例を振り返っても、実力だけでシートを掴んだ者はごくわずかだ。F1とは、実力だけでは選ばれず、しかし実力がなければ生き残れない、矛盾に満ちた競争の場である。
角田が昇格を逃した背景にも、この複雑さが関係している。彼の速さや実力が認められていないわけではないが、F1のチームには成績以外の要素――チーム内の政治、スポンサーシップ、戦略――が大きな影響を及ぼす。それゆえ、彼が予選やポイントで上回っていても昇格できなかったことは、F1という難しい世界を表している。
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フェルスタッペンのチームメイトという難問:ローソンの挑戦と試練
ローソンの昇格は、彼にとって大きなチャンスであると同時に、極めて難しい挑戦でもある。過去にピエール・ガスリーやアレクサンダー・アルボンが苦戦を強いられたように、「フェルスタッペンのチームメイト」というポジションはF1で最も厳しい仕事の一つだ。
ローソンが直面する課題の一つは「経験不足」だ。フルシーズンを戦った経験がないままレッドブルのトップチームに加わることで、いかに速やかに適応し結果を出すかが問われる。また、若さゆえの精神的な不安定さが長期的な安定成績を阻むリスクとして懸念されている。
恐らくローソンの契約はペレスほど手厚くは保護されておらず、結果が求められるプレッシャーの中でシーズン前半戦を乗り切る必要がある。これは、彼がシートを維持する上で非常に重要な期間となるだろう。
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角田の未来――次なるチャンスへの道
一方で、角田裕毅にはまだ未来への可能性が残されている。ローソンがシーズン序盤で期待された結果を出せなかった場合、角田がその代役として昇格する可能性は十分にある。現在、レーシングブルズでローソンの後継者と目されているイサック・ハジャーを昇格させるのは、さすがにリスクが高いと考えられているため、角田が現実的な選択肢となるだろう。
角田に速さがあるのは、予選成績のデータが裏付けている。しかし、それをどう決勝レースの結果に結びつけるかが、来シーズンの最大の課題だ。予選での速さはF1ドライバーの重要な要素だが、決勝でポイントを持ち帰れなければ評価されることは難しい。
これまでのレースで角田は、安定したペースを維持しながらも、レース中の戦略変更やトラブルに対応しきれず、順位を落とす場面が見られた。特にレース終盤におけるレースクラフトやタイヤ管理の向上が、次のステップへ進むために必要不可欠である。
リアム・ローソンの昇格と角田裕毅の昇格見送りは、F1という競争の本質を浮き彫りにしている。実力だけで選ばれることはないが、実力がなければ生き残れない世界――それがF1のリアルだ。角田にとっては、来シーズンがその真価を問われる年となるだろう。
予選での速さを決勝の結果に結びつけることで、彼が再びレッドブルのシート争い加わるか、実力で他のチームのシートを獲得することができるか。角田が次のチャンスを掴むために、どのような進化を遂げるのかが注目される。