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角田裕毅、ポストシーズンテストで示したフィードバックの価値

F1シーズン終了後、ドライバーたちはそれぞれ新たな挑戦に備えるが、その中でも特に注目を集めたのが角田裕毅のポストシーズンテストだ。舞台はアブダビ、ヤス・マリーナ・サーキット。このテストで角田は初めて本格的にレッドブルのマシンを走らせ、そのフィードバック能力でチームを"感心させた"と自信を示した。

このフィードバック能力こそが、彼にとって非常に重要なターゲットだった。レッドブルはすでに角田の"速さ"についてはある程度評価している。しかし、彼の技術的な理解力やエンジニアとのコミュニケーション能力に関しては、これまで懐疑的な見方が存在していた。だからこそ、今回のテストは彼にとって、チームへの信頼を築く絶好の機会だったと言える。

技術フィードバックへの評価

テスト後、角田は「彼らがいかに僕のフィードバックに感銘を受けたかについて、たくさん耳にした」と語った。その言葉には自信がにじむが、これは決して自己満足ではなく、トラックサイドのエンジニアだけでなく、ミルトンキーンズのファクトリーから遠隔で支えるエンジニアたちにも高く評価された結果だった。

「この分野は僕にとって重要なターゲットだった。レッドブルはすでに僕の速さにはあまり問題がないと理解していると思う。むしろ、彼らがもっと注目しているのは、フィードバックやチーム内での振る舞い、そしてマシン内での行動といったことだろう。それが彼らにとって最も未知の部分だったんじゃないかな」。

「だから、そのことを意識しながら、僕はいつも通りフィードバックを続け、できるだけ詳細に、そして徹底的にコミュニケーションを取ることを目指した」。角田はこう述べ、今回のテストで徹底的に技術的な意見を伝えることを意識したという。

この言葉からもわかる通り、レッドブルは単に速いドライバーを求めているわけではない。彼らは常にテクノロジーの最先端に立ち、競争力を維持するために細かな技術的改善を追求している。そのため、ドライバーのフィードバックは開発サイクルを支える極めて重要な要素だ。

レッドブルとRBの違い

興味深いのは、角田がレッドブルとRB(レーシングブルズ)のアプローチの違いについて言及したことだ。「2つのチームはかなり異なっているけど、いくつかの共通点もある。特にポジティブな雰囲気という点ではね」と彼は語る。RBではイタリアらしい"友好的な"雰囲気があり、レッドブルでは"エネルギッシュ"なパブのような雰囲気があるという。一見、軽いコメントのように思えるが、その本質は技術的なプロセスの違いにある。

「エンジニアリングプロセスについて1つ例を挙げるなら、レッドブルは僕がするコメントをさらに深く掘り下げるんだ。僕が言ったことを見逃さず、さらに詳しく掘り下げるための質問をして、もっと具体的な部分を探ろうとする」。

「エネルギッシュなイメージがあるけれど、彼らは非常に徹底的で細部までこだわるんだ。ある意味では、この精密さは日本人にしばしば見られる細部へのこだわりと一致していると思う」。

「また、みんなが自由に意見を出し合い、遠慮なくコメントを交換するエネルギーを強く感じた。それは僕たちのチームにそれがないというわけじゃないけど、2つのチームの違いが少し出ている部分だと思う」。

この徹底的な姿勢こそ、レッドブルがチャンピオンチームたる所以だろう。角田自身もこの精密さを"日本人らしい細部へのこだわり"と重ねている。

このプロセスに対応することで、角田は自身の能力を証明すると同時に、トップチームにおけるドライバーとしての重要な適応力も示したのだ。

昇格の現実と可能性

しかし、今回のテスト結果が直ちに角田の昇格を意味するわけではない。現時点での本命はリアム・ローソンだと見られており、ペレスの去就が注目される中で角田がシートを勝ち取る確率は決して高くない。それでも角田は「チャンスは50-50」と冷静に語りつつ、今の状況に感謝の意を示している。

「もちろん、レッドブルで走れたら一番嬉しいけど、僕は今の状況でたくさんのサポートを受けていることにすごく感謝している」。

「どのチームにいるかは関係なく、僕がやるべきことは変わらない。レッドブルだけじゃない。VCARBが開発で彼らを追い越すことだってあるかもしれないし。絶対にレッドブルじゃなきゃいけないわけじゃないんだ」。この言葉には、角田のプロフェッショナリズムが表れている。彼はレッドブルでのチャンスを追いつつも、現状のRBでのパフォーマンス向上に全力を尽くす覚悟だ。

興味深いのは「VCARBがレッドブルを追い越すこともあり得る」と語った点だろう。角田の視線は、単に自らのステップアップだけでなく、RBチームそのものの成長と成功にも向けられている。これは、自身の努力がチーム全体の強化につながるという、彼のドライバーとしての成熟ぶりを示している。

鈴鹿での夢と未来

角田は「何が起こるか分からないけど、僕はただ良いパフォーマンスをしてポイントを獲得したい。鈴鹿で表彰台に立つことが究極の夢だ。でも、それを達成するためには、いつかもっと良いマシンと良いチームを作る手助けがしたい」と語った。そのためには"もっと良いマシンと良いチーム"が必要だと理解しており、その目標に向けて辛抱強く努力を続ける決意を示した。

「その時が来るまで、みんなに辛抱強く待ってもらえたら嬉しいね」。

このコメントは、彼のF1キャリアが単なる結果至上主義ではなく、持続的な成長を目指していることを物語る。そして、その成長過程の一つとして、今回のレッドブルでのテストがあったことは間違いない。


角田裕毅にとって、今回のレッドブルでのポストシーズンテストは単なる"テスト"ではなかった。彼は技術的なフィードバック能力を証明し、トップチームが求める"ドライバーとしての資質"を示したのだ。

昇格の現実は依然として厳しいかもしれない。しかし、角田の姿勢と成長は、F1における日本人ドライバーの未来に確かな希望をもたらす。そして、鈴鹿での夢の実現に向けた彼の挑戦は、まだ始まったばかりだ。

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