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あれはそう、僕が何も知らないウブでわがままな自分がいた時だった。もちろん今だってそうだ。
けど世界の素晴らしさを知っているということではない。

「『愛』とは何か」

そう問い続けていた自分がいた。

誰かと夜な夜な身体を重ね、乾きを満たせない自分がいた。
寂しい、とかではない。
ただ何か、「本物」を探していた。

それを追い求め時が過ぎた。
僕は新大学生になり、酒、煙草、パチンコ、女遊び。
そんな俗なことに満ちた空間に僕はまた身を投じた。

そんなことは昔に遊び尽くし、こんなもんなんだと納得して、この乾きを満たさせてくれない世界の寂しさを知っていた。

しかしはそうとも知らず、まわりはこれからの生活の素晴らしさを思い描き、心を踊らせていた。

「今日から俺は」

そんなことが丸わかりな顔をしていた。
見ててこっちまで楽しくなるような強ばった顔だ。

「楽しそうでいいね」

冷たい目で見てる自分がいた。
そのお遊戯の結末を知ってるからだ。
何も希望はない、ただ一人なんだと言うことを思い知らされる、そんなつまらないものでしかないのに。

そんなことを心に抱き、入学式を終えた。

「会いませんか?」

それは大学が始まって情報を集めるための大学垢での会話だった。
お互い哲学科で同じクラスってだけあって、その共通点から自分たちの話をし、もちろん過去のことは交えず、ただ他愛のない話をしただけだった。半分脳死のようなものだった。

しかし彼女は他の垢の人と違って、なにか分かり合えるものがあって、気まずいといえるものがなかった。

「是非とも会いましょう」

色んな女性と身体を重ねた僕だが、その下心はなくただどんな人か、興味があった。それだけだ。

次の日僕らは顔を合わせた。
マスクを着けた彼女の顔はとても可愛らしくて、その丸顔に溢れる幼さ、しかし目元の大人っぽい色っぽさがあるそんな彼女が僕には刺さった。
正直当たりだと思った。そんな人だった。

話を交えたが、ネットとどこも変わらず物腰柔らかで、こっちが質問すれば楽しい内容を広げてくれて、話してて楽しかった。

当時の僕は否定したが、
この時、僕は恋に落ちてた。

それからというもの彼女は

「どこか行きませんか?」

といい2人で過ごす時間を作り、そして気づけば僕もそれを提案してた。
そして2人会えば空気は違い、優しい気持ちになれた。
自分が自分でない、形を失った何か、ふわふわした気持ちになっていた。
身体を重ねたいつかの女とは違う、なにか綿菓子のような甘くてふかふかしたものがふたりを取り巻いていた。

「もっと会いたい」

いつしかそう思う自分がいた。

ここまで誰かのそばにいて優しい気持ちになれて、
そして緊張をするという自分がいるということを信じられなかった。

こんな廃れた自分がいて、何もかもに見切りをつけ、
世界に絶望したはずなのに。

嬉しかった。
自分は人間だったんだ。
世界に見放された「モノ」ではなかったんだ。
感動できる心を持った一人の人間なんだ。

そんなことを知れて僕の世界は変わった。

生きててよかった。
大袈裟かもしれないが、そう思った。
心の底から思ったんだ。

そして彼女と、そんな優しい自分と出会えてから1週間が経ち、僕はまた彼女のそばにいた。

今日は大学内にあるカフェに集まって、お互いのことを話していた。
どんなことをして過ごしていたのか、どんなことに興味があったのか、部活は何してたのか、友達とは何をしていたのか。
そんな周りからすれば他愛のない話。
しかし僕からすれば最愛の人の過去を知れるだなんて、こんなにも楽しいことがあるのか、そう思い話していた。


夜になり、人で溢れかえる構内は静まり返っていた。




「あたし、色んな人に股を開くの。」

「、、、え?」

この子は何を言ってるんだ。
今まで話していた彼女は清楚で、こんな仄暗い時間を過ごしてきた自分とは違う、きらびやかな世界を生きてきたであろう人がそんなことをしてたなんて。

がっかりなどはしなかった。
ただ、動けなかった。

彼女がそんな人だなんて、思いもしなかった。
今書いてても言葉にできない、それくらい驚きだった。

しかし、どうだろう。
今の彼女にそんな痴情に満ちた生活が似合う人として見えるだろうか。
今の彼女はそんな薄情な人で、本能で人を裏切るような人に見えるだろうか。
今の彼女は僕みたいに生きることに絶望を抱いて、歩むことを拒むように見えるか。

そうではない、
彼女は変わったのだ。

常に前を見て、雨が降り足元がぬかるんで歩めなくとも、その1歩を踏みしめその先を求める強さがそこにはあった。

その時、彼女に教わり、彼女に伝えた。

「過去は変えられない、誰にも。神にだって。
 けど、未来は違う。
 これから変えようと思えば変えていける。
 そう思えたなら未来だって変わるさ。
 大丈夫、君ならできる。」

彼女は顔を上げ、その目元には涙が流れていた。
僕の言葉ではない、彼女の生き方が彼女を強く、そして僕を支えていることを教えられたなら。
彼女の力になれた、それだけで嬉しかった。
それで充分だった。

彼女はまた口を開き、

「あたし、生きててよかった。」

「俺もだよ。」

「ありがとう。」

「俺が1番言いたいのに、、、はは」

そう僕は笑った。
こころからの笑顔だった。


「あなたみたいな人が傍にいてくれたらな」

「大丈夫だよ。そばにいる。」

「え?」

 「初めて会った時から、君のことを想ってたよ。
  じゃなきゃこんな言葉はでないよ。」

そういったのがとても照れくさかったが、
彼女は涙をこぼして笑みをくれたのを見て

「こんな俺でもいいんだ」

って思えた。

夜空は暗く、春の夜の寒さが走った。
しかし僕の目に映ったそれは色鮮やかなもので、
あたかもオーロラを見ているような、そんなものだった。




、、、僕の隣に他の人がいても今でも思い出す、
あのオーロラを。


※この話の雰囲気、タイトルは
僕が敬愛するFoo Fightersの「Aurora」からお借り致しました。
良ければ聴いてみて下さい、とても染みます。

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