何が何でも「愛国」に仕立てたい、戦時下の絵本
表題と冒頭の写真は、1942(昭和17)年8月25日発行の大日本雄弁会講談社の絵本「間宮林蔵」です。長野県の現・白馬村にいた、当時の国民学校の児童だった息子に教師の母親が買い与えたものです。本屋などないので、取り寄せて購入していました。
しっかりした絵で、樺太探検の様子を伝える、まずまずの展開です。ただ、小さいころ神社にお参りしたときに「お国のために役立つ人間になりたい」ーと誓ったという挿話があり、かなりこれは無理筋ではないかと。
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通商交渉の不成立で生じたロシア兵の上陸場面も出てきますが、ただ、乱暴なロシア兵の攻撃という一方的な描写となっています。
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物語の最期では、樺太が島であることを確認したことに続いて「日本人のえらさを世界に示しました」ととってつけたように書いてあります。いや、間宮林蔵がえらいし、明治政府が打倒した幕府が探検させたのですが、そんなことはお構いなし。とにかく「ニッポン偉い!」なんです。
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そして解説文。間宮林蔵以前に外国で唱えられた樺太の島説は、完全に無視しています。都合の悪いことは隠蔽する、というお家芸。さらに地図をシーボルトに渡すなどしたシーボルト事件についても、「烈々たる憂国の至誠から出たこと」など、勝手な解釈を展開していて、なんだかんだで、最後はまたもや「俯仰不屈の愛国者間宮林蔵」と、脈絡なく形容しています。
戦時下では、とにかく「愛国〇〇」というように、とにかく愛国とつけておけばいいという商品があふれました。
どうやら、愛国とつけておけばいい、というのは、商品だけではなかったようです。当時の偉人本は、とにかく愛国者で天皇に忠節を尽くさねばならなかったのです。絵本から、そんなことを刷り込んでいったのですね。