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もうすぐ9月1日。そこで、入手しやすい関東大震災の参考書などをご紹介

 間もなく防災の日、2024年から見て101年前の1923(大正12)年9月1日、関東大震災の発生した日です。わざわざ少し早いこの時期にこの話題に触れるのは、近年の震災に伴って起きた朝鮮人らへの虐殺事件を矮小化して、できれば相手に責任があるように押し付けようとする風潮があることです。事実を直視するには、きちんと研究、調査してきた人の本をまず読むことです。そこで一番にオススメするのがこちら「関東大震災時の朝鮮人虐殺とその後ー虐殺の国家責任と民衆責任」(山田昭次著・創史社2012年初版発行。2200円+税)です。

「関東大震災時の朝鮮人虐殺とその後ー虐殺の国家責任と民衆責任」

 まずは、朝鮮人の日本への往来などから始まって通史をきちんと知ることができますし、近年の情報であること(例のトンデモ本より後だ)も良い点です。10月の警察発表の問題点も厳しく指摘しています。この本を入門書として引用本などを読んでいけば、より深見が増します。
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 次に、どうも釈然としないけど、トンデモ本やトンデモ解釈に反論がうまくできないという方、そもそも何がおかしい話なのか、という方に向けては「トリックー『朝鮮人虐殺』をなかったことにしたい人たち」(加藤直樹著・2019年初版発行ころから 1600円+税)が良いと思います。

「トリックー『朝鮮人虐殺』をなかったことにしたい人たち」

 否定論を否定するという手法は、南京虐殺の本でも見られます。相手の主張はどんな目的で行われどんな資料を使い、そしてそれらはどんな資料や手法で突き崩せるか、を学んでいくことで、本当に何があったかに逆に近づく方法で分かりやすいものです。こちらも最近の本ですし、値段も手ごろです。

 いずれの本の筆者も、昔から関東大震災の朝鮮人虐殺について研究や調査をしてきた方なので、分かることは分かる、分からないことは分からない、ときちんと整理して提示しています。

 また、本を買うのは面倒という方には、直接朝鮮人虐殺を扱ったわけではありませんが、関東大震災の全貌をまとめる中で、流言の伝搬や朝鮮人虐殺も扱った「内閣府中央防災会議報告書 1923関東大震災【第2編】」なら、ネットでも読めますので、こちらは手軽なうえ、専門家による精緻な分析も同様に行われていますので、普通に関東大震災を学びたいという方にもお勧めできます。これだけのものがありながら「歴史家がひもとく」などと、よほどのことがなければ言えるものではないと思います。
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 ところで、私は関東大震災発生後一か月に発行された大日本雄弁会講談社の「大正大震災大火災」という本を収蔵しております。この本には、「機敏なる当局の措置」の項目で「四、鮮人保護」という項目を立てています。ほかには当局からただ働きさせられた朝鮮人団体の活動を取り上げているのみで、虐殺に関しては一つも触れていません。では「保護」には何が書かれているのか。

大正大震災大火災
目次にはしっかり「鮮人保護」
該当個所

 表題までは確かに合っています。しかし、中身は5行のみで、しかも徴発令や軍隊の出動で治安回復とあるだけで、表題と中身が全く合っていません。このころは、まだ朝鮮人関連の記事掲載が認められておらず、その影響から題字だけはつけたものの、中身を書けなかったということでしょう。

 逆にこちら、翌年の震災の日に発行されたいわゆる震災美談を集めた「大正震災美績」(東京府編纂)では、警察官や町長、市井の人たちが、自警団や近所の人らに襲撃されそうになった朝鮮人や中国人を保護した話題が多数掲載されています。まるで、虐殺事件を糊塗する勢いですが、かくまったことがわざわざ美談として集められていることから、推して知るべし、でしょう。

「大正震災美績」

 最後に、過去を知ることは将来に再び過ちを犯さないために必要であり、周囲の国々や国内の外国人との友好関係を築く上でも、きちんと知っておかねばならないでしょう。あやしそうな話はうのみにせず、ぜひ、しっかりした研究者や実践者の言葉に耳を傾けてください。
 これは、戦争の話とも完全に通じることです。自分も過去を直視することで未来の道をしっかり歩みたいと思って居ますし、それが一番の道であると信じています。

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