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プログラミング教室の運営、不登校支援のNPO理事長、オルタナティブスクールのカリキュラムディレクター。3足のわらじを履く元小学校教諭が実現したい、教育のあり方とは?

ITものづくり教室3rdschoolの取締役として、子どもたちに第3の居場所となるようなプログラミング教室を運営する慶徳大介さん。教室を立ち上げる前は、特別支援学校に3年間、離島で1年間の計4年間、東京都の公立小学校教員として働いていた。

現在は、3rdschoolの運営だけでなく、不登校の子どもたちを支援するNPOの理事長や、新しいオルタナティブスクールのカリキュラムディレクターを務められている。

慶徳さんが教員の道を離れても教育に携わり続ける理由は何なのか。慶徳さんのキャリアヒストリーと、教育にかける思いを聞いた。

自分に自信を持てる子が育つ場所をつくりたい

——まず初めに、慶徳さんのこれまでのキャリアについておうかがいできますか?

大学院卒業後、公立小学校の教員として、新宿区の特別支援小学校で3年間と、小笠原諸島の父島の学校で1年間の勤務しました。学校で働いている間、「自分でもいつか学校を作りたい」という思いが湧いてきて。さまざまな学校に視察に行っていました。

2018年には「3rdschool(サードスクール)」というプログラミングを中心としたITものづくり教室の立ち上げに参加し、現在は取締役をしています。現在はさらに、「Unippo(ユニッポ)」という不登校の子たちの居場所づくりに取り組むNPO法人の理事長をしたり、サイボウズ株式会社が立ち上げた「サイボウズの楽校」というオルタナティブスクールで、カリキュラムづくりや実際の授業も担当したりしています。

——3rdschoolとは、どのような場所なのでしょうか?

3rdschoolは、プログラミングというツールを通して、考える力を養い、その子の個性や才能を見つけていく教室です。

3rdschoolという名前には、子どもたちの「第3の学びの場」として、学校・塾とは違った方法で子どもたちの個性と才能を磨いていくような、学びのサードプレイスという意味が込められています。子どもたちが自分らしく、深く学べるように、この教室では一人ひとりの特性に合わせて内容や進度を変えています。

——教員として4年間働かれた後、退職されて3rdschoolの立ち上げに参画されたということですが、なぜそのようなキャリアを選択されたのでしょうか?

公立学校の教育はとても素晴らしいところがたくさんあって、その中で僕は早く管理職や校長になりたかったんです。とにかく当時は漠然と、もっと素敵な学校を作りたいと思っていました。

でも校長になるには、どんなに頑張っても20年くらいは時間がかかるという現実を目の当たりにして。30歳を目前にした僕は、「あと10年どのように過ごしたいか?」と考えたときに、一旦いろいろなことを脇に置いて、やりたいと思うことをやってみようと思ったんです。

そんなことを考えている中で声を掛けてくれたのは、大学院時代の後輩とその友人でした。3rdschoolには、僕以外に2人代表がいます。この2人から立ち上げの話を聞きながら「これからは、この人たちと一緒に過ごしたい!」と思ったので、3rdschoolの立ち上げに参画することを決めました。

先ほども少し触れましたが、僕は心のどこかに「いつか新しい学校を作ってみたい」という気持ちを持っていました。皆さんが想像するような一般的な「学校」という形ではなくとも、自分に自信を持って生きられる子どもが育つ場所づくりを実現したかったんです。だから3rdschoolの立ち上げは僕にとって、僕の理想を形にできるチャンスだと思い、参画を決めました。

好きから始まる学びが、その子を輝かせる

——慶徳さんは、2023年12月にプレ開校し、2024年4月より本格開校したオルタナティブスクール「サイボウズの楽校」の運営にも関わられていますよね。

サイボウズの楽校」は、既存の学校に馴染めなかったり、学校に行っていなかったりする小学生の新しい学び場で、サイボウズ株式会社が立ち上げたスクールです。

僕はこのスクールでカリキュラムづくりと、実際の授業を担当しています。

近くの本屋に出かけて、自分が学ぶ教材を
自分で選び、購入する様子

サイボウズは、「チームワークあふれる社会を作る」をミッションに掲げる会社で、楽しく働ける環境づくりを大事にされています。そんな会社が「今を楽しみ、未来も楽しみにできる、そんな学び場を作ってみたい」と考えて立ち上がったのが「サイボウズの楽校」です。

この学び場には、「わたしも、あなたも楽しい学び場」というテーマがあり、このテーマを基本軸として全ての授業を行っています。

サイボウズの楽校の授業は、国語、算数、理科などの教科学習から、近場を散歩したり宿泊型の旅を企画するといったもの、自分を表現する活動や余白をゆったり過ごす時間、探究する学びの時間まで、バラエティに富んでいます。

全ての授業において、自分と他者が存在するという考え方を前提に置きながら、「わたしも、あなたも楽しい」状態を作り出すことを大切にしています。僕は、この言葉をとても気に入っています。

——なぜ「サイボウズの楽校」の運営に関わることにされたのでしょうか?

学生時代に、身近な人で自らの命を断ちそうになった人がいました。実際は大事には至らなかったのですが、そのときに「何より大事なのは、命なんだ」と強く思うようになりました。

ここ数年、子どもが自殺者数の割合が高くなっています。そのことに、学校は少なからず影響を与えている。子どもが自ら命を断ってしまう前に、「学校に行けなくても、ここには居場所があるよ」と伝えたくて、2023年からUnippoというNPO法人の運営にも関わっています。

Unippoでは、学校と連携した学校内フリースクールと、地域と連携した学校外フリースクールの運営をしていたこともあり、これらの経験がだんだんと自分の中に積み重なってきていました。その結果ご縁がつながり、現在サイボウズの楽校の運営に関わっているという形です。

Unippoが大事にしている考え方は、
「ぴよぴよけんぽう」として校内フリースクールに掲示されている

——慶徳さんが、とても楽しそうに新しい学校づくりをされているのが伝わってきました。サイボウズの楽校を運営する中で、印象的なエピソードをお聞かせいただけますか?

以前サイボウズの楽校の授業で、詩をつくる学習に取り組んだときのことです。それぞれの子が好きなテーマで詩を書いて、PDFファイルにまとめるという授業だったのですが、ある子が「ウォーターサーバー」をテーマに詩を作っていたんです。

例えば、「常温の水と冷水を混ぜると美味しい。でも、温水と冷水を混ぜても美味しい」といったような内容の詩を作っていて。そのときのその子が、とてもいい表情で。その子は日頃からウォーターサーバーが好きで、いつもウォーターサーバーのあるところで何かやっているんですが…。

そうやって自由に表現することができたときの子どもって、こんなに輝くんだなと気づかされました。

サイボウズの楽校で活動中のひとコマ。
人生で初めて見た霜柱を観察している様子

子どもたちが、一歩踏み出すサポートを

——これまで慶徳さんは、学校と民間企業という違いはあれど、どちらも教育関係で働かれてきました。教育現場で働くやりがいを、どんなところに感じていますか?

僕のキャリアで経験してきた学校と民間企業は、どちらも教育に関わる仕事ではあります。その中で感じたやりがいは、似ているところと違うところがあります。

まず異なる部分で言うと、学校で働いていたときは、多種多様な先生と協働するという楽しさがありました。一方今は、そもそも学校現場ではなく、自分たちで立ち上げた小さな会社。学校にいたときには実現しきれなかったことにイチから取り組み、いろいろなことを試せるというのは、すごくやりがいがあると感じています。

自分に自信を持てる子どもが育つ場所に必要な条件ってなんだろう?そういった場所にはどんな仕組みやルールがあったら、皆が居心地良くいられるのだろう?というようなことをゼロから考えられるのは、やっぱり楽しいです。

慶徳さんは日々、子どもが何を見ているのかを丁寧に見つめている

学校と民間企業、どちらの教育現場でも共通するやりがいは、やはり目の前にいる子どもに向き合えることだと思います。

子どもと接しているとき、僕の中で、子どもと接する自分と、それを客観的に見て、子どもから発せられる表情や姿勢、雰囲気を読み取ろうとしている2人の自分がいるような感覚になるんです。そんな風に子どもたちと関わっていると、一人ひとり感情の表現の仕方が違うことに気づいたりして、それがすごくおもしろいですね。

——慶徳さんが教育現場で働く上で大事にしていることを教えてください。

自分自身の視野を広げていくことだと思います。実は3rdschoolとサイボウズの楽校は、同じ校舎の中で時間を変えて開校しているので、基本1日中ずっと同じ場所で過ごしているんですね。そうすると僕の仕事は全て1つの場所で完結してしまうため、どうしても自分の世界が狭くなっていくような感覚がある。

先生という仕事は、子どもたちや一緒に働く人たちといったように、誰かと関わることが根幹。多様な価値観を持つ人と関わりながら物事を進めることは視野が狭い人物には難しいと思うので、自分自身が視野を広く持ち続けられるように意識をしています。

——視野を広く持ち続けるために、今後挑戦したいことはありますか?

これまで、教育に対する自分の視野を広げるために、国内はもちろん、海外の教育現場にもたくさん訪れてきました。その体験は僕の視野を広げてくれたと思っているのですが、今は教育の世界の何かを見るんじゃなくて、もっとこの世界そのものに直接触れながら、教育というものに携わっていきたいと思っています。

例えばで言うと、ヒマラヤ山脈登山とか(笑)?。そんなことを、3rdschoolやサイボウズの楽校の仲間と楽しく話しています!

取材・文: 岩木 健譲| 写真:ご本人提供