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ハート・オブ・金ちゃん


2020年、6月18日。

金ちゃんは亡くなった。

道端で血を吐いて倒れたらしい。

享年42歳。

金ちゃんとその奥さんは、当時僕が働いていた焼き鳥屋の常連だった。
共通の知人友人も多く、僕らは自然と仲良くなっていった。

金ちゃんはいつも、ベロベロに酔っ払っている。
町で金ちゃんに出会くわすと、ストロングゼロ片手に「オメェよう、あのよう、このヤロウ」と憎まれ口を叩きながら、戯れてきた。 

向こうから金ちゃんが、フラフラ歩いてくるのが見えると、サッと隠れたものだ。
ごめん金ちゃん。

めんどくさい部分もあったが、たまにドキッとする様な鋭いツッコミもする、頭の回転の早い人だった。仲間内では、料理と絵の腕前も凄いと評判だった。

金ちゃんは、音楽を愛する人だった。
忌野清志郎が大好きでカラオケのオハコは『スローバラード』だった。
いつもベースを背負って歩いていたが、
弾いている所は見た事がない。
弦が1本しか張られていないという噂もあった。

1度だけ、金ちゃんが奥さんと僕のライブに来てくれた事がある。
とても嬉しかったのだが、金ちゃんは飲み過ぎるとちょっとお行儀が、悪くなる時があるので僕は内心ハラハラしていた。
客席でケンカでもおっ始めたらどうしよう、、、
だが、金ちゃんは案外クールにライブを観ていた。
僕が演奏を終えて、挨拶に行くと金ちゃんは
何か言いたそうに僕の顔をじっと見ている。
いつもの金ちゃんとはちょっと違う雰囲気だ。
でも僕はなんだか、怖くて
「ライブどうだった?」
の一言が言えなかった。
すると、金ちゃんの方から
「山ちゃんてさ、アレだな、、、清志郎に影響受けてるだろ?」
と言ってきた。
強く影響を受けているかと言うと、ちょっと違う気がしたのだけど、金ちゃんにそう言って貰えたのが嬉しかったので僕は
「うん、清志郎好きだよ」
と言った。
金ちゃんは満足そうに笑ってくれた。

終演後、僕は来てくれたみんなを見送っていた。金ちゃんは、歩くのがとても遅いので、ひとり置いていかれてしまった。

階段の手すりに掴まって、金ちゃんはゆっくり下って行った。そして、ふっと立ち止まって、僕の方を振り返って言った。

「あのさ、お前ってさ、、、」

僕はドキッとした。

「えっ!?何?」

金ちゃんは、真剣な顔をくずして、ニヤッと笑い。

「何でもねぇよ!」

と言って、帰っていった。

金ちゃん、あの時、何て言おうとしたんだよ。

金ちゃんは感受性が強すぎたのかもしれない。ピュアゆえに傷つきやすく、1日1日を酔っ払って、どうにか乗り切っていたのかもしれない。
金ちゃんはズルくて薄汚い僕とは違う、黄金の人『ハート オブ ゴールド』だった気がする。

本当にまだ実感がないな。
東松原あたりをベース背負って、ふらふら歩いてそうだ。

仕事帰りの僕は、金ちゃんの愛飲していた、ストロングゼロを飲みながら、ふらふらと家路についた。

(告別式後に追記)

祭壇に飾ってあった、金ちゃんのベースには
ちゃんと弦が4本張ってありました。
金ちゃん、1弦ベースとか言ってごめん。

金ちゃんは大勢の仲間に見送られて、とても穏やかな顔で旅立ちました。

唯一の金ちゃんとの2ショット。2人とも髪型がおかしい。

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