給食室の天使たち③
給食室の朝は早い。分かっちゃあ、いたが、
やはり早い。
6時半からの出勤のはずだが、早い者は6時前には、仕事を始めている。しかもサービス始業。
修行僧か。
初日、6時過ぎに「おはようございます!」と給食室を覗き込んで挨拶をしたら、Xさんに、ギロッと一瞥されてしまった。新入りが先輩より遅く来たら、気分は良くないだろう。
はぁ、、、何処も一緒だねぇ。
早く来て、遅く帰る。残業代は勿論付かない。
好んでやっている訳じゃないんだろう。
そうしないと、間に合わないのだ。
今日のメニューはカレー!給食の中の給食、キングオブ給食メニューだ。
どうやって作っているんだろう、、、
僕は先々の不安より、給食カレーの調理への興味が勝り、胸が高鳴ってきた。
新人の仕事は下処理。野菜を洗って、皮を剥いたり、異物がないか、一つ一つ丁寧にチェックする。
人参の皮剥き、玉ねぎの皮剥き、今までやってきたやり方は、容赦なく給食流に矯正される。覚悟はしていたが、やはり辛い。
そして人参でも玉ねぎでも、根も頭も躊躇なく、家庭や、個人の飲食店では有り得ない位、可食部も切り落として捨てる。ガラスープに出汁として加える事もあるが、申し訳程度だ。
多少の変色、“す“の入った部分、ヘタの近く、全部アウトである。
全ては、安全な給食を提供する為に、、、
チーフが時計を見て、ソワソワし始めた。
仕込みが遅れている様だ。
僕の所為だろうか、、、
柔和な笑顔はもう見る影も無い。
呆れた様な、侮蔑を込めたような視線を此方にチラチラと向けてサブチーフと何やら話している。
玉ねぎの皮剥きは、後2、3個で終わりそうだが、、、
チーフはおもむろに、玉ねぎを手に取り、僕に向かって言った。
「うーん、この玉ねぎは、腐ってるなぁ!」
チーフのわざとらしい台詞に三味線を弾く、サブチーフ。
「そうすっよね、チーフ!、玉ねぎ腐ってますよね!」
無論、新鮮な玉ねぎなのだが、チーフはニタッと笑い、ゴミ箱の底に玉ねぎをググッと突っ込んだ。
僕は、悲しくてたまらなかった。
続く