見出し画像

料亭の真実(中編)


今から20年以上前、僕がアルバイトをしていた料亭でのお話。前編と後編でまとめようとしたのですが、次から次へと、怨念、怨恨、トラウマエピソードが浮かんできたので、今回は中編として発表させていただきます。

ウラミィ〜マァスゥ〜

煮方の補助という、微妙なポジションを与えられた次の朝、僕はだんなさんに呼ばれた。
「山田君、この包丁使って」
築地の有次(ありつぐ)の刃渡り30センチほどの牛刀を渡された。新品だ。
え?くれんの?
ラッキー♪じゃなくって、、、

もう後には引けない。

そして僕の仕事量は凄まじく増えた。

おっと、その話の前に煮方のKさん、という人物を紹介しておこう。

まず、板長のI氏「だんなさん」の息子である。そうなんです、はい。

ヘビースモーカーで、しょっちゅう裏にタバコを吸いに行く。魚が大嫌い。やたら濃い味が好きで味音痴。
はぁ、自分で書いていて、ずっこけそうになる。

お世辞にも段取りの良い方ではない。

だんなさんに、吸い地(お碗や煮物などの基本になる汁)の味見をしてもらい、味が薄いとか、足りないとか言われると、すぐに味の素や顆粒だしを加えてごまかす。

韓国人の留学生のアルバイト達に差別的な事を平気で言う(書く気もしない位酷い言葉)。
何故家業を継ぐ事になったのだろうか。
とにかくこんな感じの人物だ。

毎日死ぬ程忙しかった。
飯を炊く、酢飯を炊く。芋を剥く。葉物、ネギ、あらゆる野菜を切り刻む。巨大な鍋で茹でる。自分の背丈より高く積まれた発砲スチロールにギッシリ詰まった芝海老を剥く。梅酒を漬ける。ラッキョウを剥いて漬ける。白味噌、赤味噌を炊く。筋子をバラしてイクラの醤油漬けを作る。
9時から働く条件だったが、最終的には7時半に出勤していた。
ただ忙しいなら、充実していたとも言えたのかもしれない。

しかし、これらの作業を煮方のKさんとコンビでだんなさんからの罵声を一日中浴びながら行うのは本当に辛かった。体調を崩す日もあったが、休んだら負けだと思い(今は間違った考えだと思っています。。)、意地でも仕事に行った。

ある日、カレーを仕込むようにだんなさんに言われた(和食の料亭だったが本当に色んな料理を出していたのです)。

カレー担当の僕は、張り切って大きな鍋一杯に玉ねぎを刻んで炒めた。飴色になるまで3時間は炒めるのだ。

炒め終わると、煮方のKさんに味付けをしてもらうのだが、その日のKさんは一層味音痴になっていたらしく、お得意の大量の味の素と顆粒だしをぶち込み始めた。

僕は心の中で(やめてくれ!)と叫んでいた。3時間一生懸命炒めた、美しい飴色玉ねぎが、目の前でカレーではなく危険な化学物質に変わっていくのだ。

そして次の日のランチ後。
またKさんが、だんなさんに怒られている。
僕はイヤな予感がした。
Kさんは僕を呼んでこう言った。

「山田君!カレーがしょっぱいってお客さんが言ってるよ!何入れたの?」

いやいや、アンタが1番よく知っとるだろう。
このヤロウ。やってくれるじゃん。

僕は悔しさを堪えて何も言わずに、下を向いていた。
だんなさんは小さな声で「気をつけてね」と言ってその場を離れた。
だんなさんは分かっていたのかどうか、、、今となっては確かめようもない。息子のミスと認める訳にはいかなかったのだろうか。

とにかく自分のミスを人に押し付けるような、クズには絶対なるな、という教訓を心に刻みました。

さて、中編はいかがでしたか?
次回はようやく後編。『料亭の真実』の最終回です。とんでもない事が次々起こるクライマックスにご期待ください!

実は今も築地有次の牛刀を愛用していたりして。
もちろん後に自分で買った物です。
『女囚さそり』のテーマソング。 男だって恨みます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?