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NEW DAYS ★ プチDAYS★ブルックリン物語

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ブルックリン在住の大江千里が日々の暮らしを綴る6000字前後の読み応えあるエッセイ。「NEW DAYS」も仲間になりました。単行本『ブルックリンでジヤズを耕す 52歳からのひとり…
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2016年5月の記事一覧

ブルックリン物語 #10 誰かが私を見つめてる “Someone To Watch Over Me”

最近、なんかの弾みで僕は街で出会う見ず知らずの人の顔を注意深く見ていることに気づかされた。 地下鉄のドアが開き飛び乗ったとき。さっと車両を見渡すとほぼ満員でその面子を、僕は一瞥したのだと思う。見てないようでしっかり把握したのだと思う。瞬時に。 その中の一人が僕にこう目で挨拶を返したのだ。 「はい、ご機嫌いかが。僕は君の敵じゃないからね。大丈夫なんだよ」 その目は確かにそう言っているようだった。だから僕もよっぽどジロジロ見たのかなと少し反省したのだ。確か夜道を歩いていて

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ブルックリン物語 #09 ボタンとリボン "Buttons and Bows"

どうしてそれほど無愛想な顔が出来るのだと聞いてみたくなるほど態度の悪い店員がいる。それも1軒や2軒じゃない。 そもそもアメリカ社会にはチップ制度があるわけだから、その値段分レストランなんかではもっともっと愛想良くてもいいのじゃないかとぷんぷん腹をたてる筆者。頼んだお皿がやっと来て、さあこれから食べようとする時に、「これもう片していい?」と聞かれたことなど何度もある。つまり「自分の仕事を自分の都合で早く片付けたい」わけだ。 お金を払って少しテーブルでまどろんでから席を立つと

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ブルックリン物語 #08 マイ・ファニー・バレンタイン "My Funny Valentine"

5月の第1日曜日は母の日。日本ではこの日、お母さんにカーネーションを贈るイベントがある。 NYではバレンタインに男性がお母さんや大切な女性に花束などを贈る。だから、年が明けるとどこもかしこもピンク色に変わる。バレンタインの商戦が始まるからだ。 日本のように、バレンタインに女性が愛を告白するというような風習はない。どちらにせよ、大切な人に思いを伝える日という意味では素晴らしいと思う。むくつけき男達が一様に神妙な顔で花を買うために無言で長い列に身を委ねる図は、どこか滑稽でこれ

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