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ブルックリン物語 #10 誰かが私を見つめてる “Someone To Watch Over Me”

最近、なんかの弾みで僕は街で出会う見ず知らずの人の顔を注意深く見ていることに気づかされた。

地下鉄のドアが開き飛び乗ったとき。さっと車両を見渡すとほぼ満員でその面子を、僕は一瞥したのだと思う。見てないようでしっかり把握したのだと思う。瞬時に。

その中の一人が僕にこう目で挨拶を返したのだ。

「はい、ご機嫌いかが。僕は君の敵じゃないからね。大丈夫なんだよ」

その目は確かにそう言っているようだった。だから僕もよっぽどジロジロ見たのかなと少し反省したのだ。確か夜道を歩いていて、これと似たようなこともあった。そのとき僕は向こうからやってくる誰かの顔をかなりしっかりと見たのだろう。その人はぎこちない笑顔を作りながら、

「はい、元気かい。僕はきみに危害を加えたりはしないからね。いい夜を」

そうでも言いたげに必死で口角を上げていた。

NYの人たちは一見、クールで無関心のようで他人をよく観察していると思う。

一列に横になって手をつないで、道を通せんぼしながら歩くメキシコ人の家族、コンパクトを食い入るように見つめて化粧に勤しむアフロアメリカンのお尻の大きな女の子、スケートボードで渋滞の車の合間をすいすい抜けていくダボダボシャツの白人の男の子。みんな自分の行動にだけしか興味がなくてそれに全神経を集中させているようで、実は意外に他人のことをしっかり観察&チェックしている。

ギターセンターという楽器屋がある。ここで僕は譜面からキーボードまでよく音楽一般の買い物をする。いつだったかもう忘れたが、かなり前に僕を担当してくれたグレッグという男がいた。イタリア系でタトーが腕にも首にも派手に入っていたのをわずかに覚えていて、キーボードを買った僕がタクシーに乗る場所まで付いてきてくれたのだ。無骨だがロックバンドをやっていて、親切でやさしい妻子持ちの男。

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