#2 「1+1が未知数なアッサンブラージュ」(後編)
薄井 僕らもお酒の設計を他人に任せたことがなかった。初めての試みだから、他社のしかも異業種とのコラボは。もちろん、自分もテイスティングしてイケると思っているんだけど、それでも初めての試みだから、お客さんの評価は一番気になったよね。
鈴木 うちのチーム内では「アッサンブラージュは神々の遊び」って呼んでるんですけど、あんなに面白いことないんで。でも難しさも実感しました。
薄井 たとえば?
鈴木 アッサンブラージュの時は、常温で。お酒のいい面も、悪い面も出るっていうことでやるじゃないですか。自分の中ではいつもリリースする時の季節をすごくイメージして、その季節にどういう味わいだったら嬉しいかなっていうのをゴールに、自分の中で仮説を立ててやるんですけど、それが冷やして飲んだ時にどうなるのかっていうのが最初難しい部分はあったんです。
薄井 確かに季節は大事。やっぱ洋服もシーズンがあるからさすがだな。夏にアッサンブラージュした時と秋にした時では、お酒を飲んだ余韻が違うから。
鈴木 日本の四季の美しさはものすごく貴重な財産なので、そこにそった提案っていうのができたらいいなっていうのは思っていますね。それと基本的に仙禽さんのお酒って甘酸っぱい元祖みたいな、すごく特徴的なお酒なので、その良さを、僕ら素人がよりわかりやすくするっていうか。季節感と仙禽さんのキャラクターを誰でもわかる形にしたいみたいなことは考えていますね。でも、私自身、お酒は好きでもそこまで立ち入って、他の方から評価されるってことが初めてだったのでものすごく緊張しましたね。特に初リリースされた時は、本当に自信がなくて、自分では美味しいと思ってたんですけど。
薄井 しかし、のっけからものすごく好評だった。S N Sで、ユナイテッドアローズと仙禽コラボのお酒がきっかけで日本酒にハマりました、とかっていうのを目にするとすごくやって良かったなみたいなね。
鈴木 我々もお酒の面白さを伝えたかったので、今まで飲んでなかった方が振り向いていただけるっていうのはすごく嬉しいですね。
薄井 売り場での反応は実際どうでした? アルコール飲料を販売したことがないなりの大変さはあったと思うんだけど。
鈴木 ユナイテッドアローズは洋服屋っていうイメージしかないので、なんで酒なのっていう突拍子のなさもあるし、仙禽さん流行っているから食いついてきたな、とかそういうふうに思われたくなかったんです。だからで、ちゃんとマイナス5度に設定ができる特注の冷蔵ショーケースを店内に設置して、きちんといい状態で提供しようと。でも洋服屋がやっているので、ハードル低く、気軽に楽しんでいただけたらなと思って。お酒よくわからないんだけどっていう方々にもこれを機会に手にしていただけたし、思っていた日本酒と全然違った、美味しいっていう反応が多かったです。
薄井 店に並んでまで買いに来てくれたとか。
鈴木 最初の頃は想定をはるかに超えて。初めてだったので我々もわかんなかったので、ものすごい行列ができて3時間くらいで売り切れちゃったりとか。私自身びっくりしました。それは仙禽さんの力なんですけど。
薄井 限定のスニーカーとかさ、限定のTシャツが欲しくて学生の頃めっちゃ並んだことあるけど、酒で洋服屋さんに並ぶってないからね。
鈴木 我々はお酒のワクワクする、めくるめく面白い世界の入り口でいいなと思っていて。全国に素晴らしいお酒がいっぱいあるので、そういったところを掘っていただくきっかけを提案する存在でいれればと。もちろん仙禽さんを買いたくて来ていただく場合もあって、初めてユナイテッドアローズで買い物したという方もいらっしゃるので。新しい方と今までの顧客様といろんな方に伝わっていくいい取り組みだなと思っています。
薄井 そこって多分、お互いがお互いの今までの大事にしてきたお客さんを入れ替えるって言い方も変だけど、流れを変えていく。今まで洋服にしか興味ない人、お酒に興味なかった人がこっちにきてくれたり、その逆もあったり、そういう効果ってすごくいいですよね。
鈴木 すごいありがたいですね。お酒だけでなく、今日一緒に着ているコラボレーションTシャツとかも。こういうのがあったら嬉しいみたいなので書き込みをしていただいたこともあって。お酒のコラボを機にお互いの良い部分がいろんなカタチになればと。弊社も30年以上経ちますけど、そもそものセレクトショップの原点は、アメリカのカルチャーだとかヨーロッパの洋服とか、当時日本にはほとんど入ってきていないような時代に始まったんですよね。それに魅了された創業のメンバーとかが直接買い付けに行ったりとかして、こんなにすごい良い服とか良いものがあるんですよって。自分が好きで好きでしょうがないものをお客様に勧めるっていうのがセレクトショップの成り立ちなのかなと思うので、扱っているアイテムがお酒であっても、セレクトショップの本来あるべき姿と大きくは変わらないですかね。単にバイヤーが買い付けるだけじゃなくて、世界中に飛び回っていろんなものづくりの作り手さんと実際にコミュニケーション取って、ご一緒したいなっていうのが根本的な動機としてありますね。
薄井 洋服で世界中回って、例えばイタリアだったらナポリに行って、ワイシャツ一枚の背景を見るために手縫いの職人さんに会いに行くみたいな感じで、貴至さんはうちの酒蔵に来られましたからね。僕らが麹を作って発酵させて、その前に設計があって、どういう味になるのかっていう設計図があって、細かい仙禽にしかない技術をそこにぎゅっと閉じ込めてお酒が出来上がる。その一連の背景に入って一緒に作業してくれていたじゃないですか。やっていることは洋服もお酒も多分一緒なんだと思いました。
鈴木 商いをやっていく上では当たり前のことで、特別なことをやっているイメージはなかったですけど。一緒に麹をふったり、火傷するんじゃないかってほど蒸した熱々のお米を冷やす作業とか、一緒になってやらせていただいたんですけど、そこまでさせていただけたのは本当に感謝しています。またいつでも行きます。
薄井 これから、そのまだ時代的にどうなっていくかわかんないけど、アフターコロナのお洋服のあり方、お酒のあり方、その辺って何か考えている?
鈴木 弊社の理念として日本の生活文化のスタンダードを築いていきたいっていうのが創業当初からの会社の考えではあるんですけど、今後、もっともっと拡大していって日本全国で色々な取り組みもやっていきたいですし、可能であれば海外とかでも日本酒の面白さとかを伝えていきたいなって思いもあって。ゆくゆくは「ジャパニーズパブ」として海外でそういった角打ち的なところも出店したいなっていうのは考えたりはしてますね。
薄井 僕たちのお酒の業界も今ガラッと変わり始めていて、流通がすごく変わっていく時代だし、ユナイテッドアローズがお酒を扱うなんて誰も思ってなかった。僕たちも今までの日本酒だけを深掘りして、日本酒だけを造っていけば良い時代でもなくなってきている。もっといろんなことをやりたい。一次産業から二次産業まで、僕たちでやっていこうというような、そんなイメージをしています。その中の一つが日本酒であって、そこにはシードルがあったりワインがあったり、ビールがあったりするかもしれないし。
鈴木 面白いですね。酒蔵ではなくて、美味しいお酒カンパニーとしていろいろと展開されていくってことですよね。ぜひ他の種類のお酒でもご一緒できたら嬉しいですね。
次回(#3)に続く。