『あさがおと加瀬さん。』の良さに最近気付いた。
どうもみなさんこんにちは。
百合好きの民、二橋千手(ふたはしせんじゅ)と申します。
普段は『小説家になろう』にて百合小説を書いたりしております(https://mypage.syosetu.com/1318403/)。
今回は、百合好きであれば知らぬ者がないあの人気作、『加瀬さん。』シリーズについてちょっと語ってみようかと思います。
今さら私ごときがやらずとも、その良さはあちこちで語り尽くされているのではないかと思いますが、せっかく考えたことなのでつらつら書かせていただきます。
ご存知の方も多いかと思いますが、まずは『加瀬さん。』シリーズについてざっくりと。
同シリーズの著者は高嶋ひろみ先生。
新書館『ピュア百合アンソロジー ひらり、』にて掲載されていました。
その後、同誌休刊に伴い連載場所を移しながらも、現在に至るまで続いています。
単行本は2019年6月末現在、
・『あさがおと加瀬さん。』
・『おべんとうと加瀬さん。』
・『ショートケーキと加瀬さん。』
・『エプロンと加瀬さん。』
・『さくらと加瀬さん。』
……の計5巻。今後の続刊予定もあるそうです。
さて、その内容はと言いますと……。
「隣のクラスの加瀬さんは、陸上部のエースで美人の女の子。緑化委員の内気な女の子・山田は彼女が育てているアサガオの前で加瀬さんに声を掛けられて……!?」
(『あさがおと加瀬さん。』あらすじより引用)
……まあ、王道のガール・ミーツ・ガールとでも言いますか。
平凡な女の子(と自分では思っている)主人公・山田さんが、ひょんなことから陸上部のスター・加瀬さんと仲良くなる、というのがおおざっぱな筋書き。
……正直に申しますと、私、最初にこの作品を読んだ時、さほど面白いとは感じなかったのですよね。
百合に目覚める前に触れた作品だからかもしれない……。当時の私には百合受容体が足りなかった……!
……と、まあ、かつての私の愚かしさはともかく、『ひらり、』連載中は断片的にしか読んでいなかった『加瀬さん。』シリーズを単行本で改めて読み直した時、その面白さに気付いたのです。
そしてここからようやく本題に入ります。
『加瀬さん。』シリーズのどこが魅力的なのか……!
まずこの作品は、基本的に山田さんの一人称視点で話が進行します。
この山田さん、植物が大好きで、そのことに関しては自信を持っていますが、それ以外の面ではかなり自己評価が低め……というか、卑屈な部分があります。
そんな彼女が学校の有名人である加瀬さんと仲良くなったとしたら……?
……まあ、想像はつきますよね。
「わたしなんかが加瀬さんのそばにいていいのかな……」
「加瀬さんにはもっとふさわしい人が……」
……ってなっちゃいますよね!!
ですが、そうしたことを恐れる山田さんに対し、加瀬さんはまっすぐに踏み込んできます。
山田さんはその助けもあって劣等感を克服し、少しずつ加瀬さんと打ち解けていくんですね……!
この辺の流れがもう最高なんですよ!!
その後も山田さんは、加瀬さんと自分の差に不安を覚えたり、加瀬さんのとあるウワサを耳にして嫉妬したり……と、様々なことに悩みつつも一歩一歩進んでいきます。
このあたりの描写がまた……。初恋の甘酸っぱさがたまりません!
こういう言い方が正しいのか分かりませんが、『加瀬さん。』シリーズは少女漫画的というか、悩める等身大の少女が奮闘する姿がとても魅力的なんですね。
時に落ちこんだりしながらも、頑張って前に進む山田さんの姿はとても応援したくなるといいますか……。
そう、つい声援を送りたくなる主人公、それが『加瀬さん。』シリーズの魅力の1つだと思うのです!
……と、まあ、ここまでずっと主人公の山田さんについて書いてきたわけですが。
もう1人の主人公と言うべき加瀬さんはどうなのか?
……そこに、当シリーズのもう1つの魅力が潜んでいます。
この作品が山田さんの一人称形式であることは先に述べた通りです。
山田さんには豊富なモノローグ描写があり、その心模様は読者に筒抜けです。
しかし、加瀬さんの内心はその行動より読み取るほかありません。
そしてそれをすると、『加瀬さん。』シリーズの別の顔が見えてくるのです……!
素直にこの作品を読むと、山田さんの甘酸っぱい恋模様を描いた青春物語になります。
加瀬さんに恋する山田さんの視点から見ると、キラキラした世界がそこにはあるのです。
加瀬さんはスタイルがよく美人で、おまけにカッコよく、さらには優しい……。
……ですが、加瀬さんも人間です。山田さんがあれこれ悩むのと同じように、彼女にも彼女なりの欠点(?)があったりするのです。
実は、その内心が読み取れるシーンがあちこちに……。
・更衣室で山田さんをガン見
・山田さんの二の腕を見せられて赤面
・山田さんの太ももに目が行く
・自分の水筒から山田さんがお茶を飲むところをじっと見る
・私服の山田さんの背景に花を幻視する
・山田さんが靴を履くところを見てやはり太ももに目が行く
(以上はあくまでも一例)
……他にも、「修学旅行のお風呂で……」とか、「山田さんの水着姿に……」とか、「初めて訪れた山田さんの部屋で……」などなど。
……わっかりやすいなあ、おい!
ネット上では「中学生男子みたい」などと言われる始末。
気になる方はTwitterで「加瀬さん」と検索してみましょう、検索予測に「加瀬さん ◯欲」とか「加瀬さん 童◯」などと出てくるはずです……。
……これに対し山田さんは今どき珍しいほどピュアな女子高生で(たぶんキスより先がよくわかってない)、その山田さんの視点で読む本編だと意外と気付かない……というか、流されがちなこれらの要素。
しかししっかり読むと、加瀬さんのどうしようもなさがはっきりと浮き彫りになってくるんですね……!
まあこればっかりはしょうがない、完璧な人間なんてどこにもいないんですよ!
……念のため言っておくと、加瀬さんが山田さんをそういう目でしか見てないってことではないです、いちおう。
加瀬さんが山田さんに惹かれるに至った理由もちゃんと本編で描かれてますので!
ともあれ、人並みに欲望を抱えている加瀬さんですが、なにせ相手がピュアすぎる山田さんなもので……、空回りすることも多くあります。
その様子はいっけんコミカルですらあり、私個人としては、山田さんの視点のみに注目していた1周目よりもさらに楽しめた、といっても過言ではありません。
なにせ山田さん視点の加瀬さんは完璧美人すぎて親しみにくいのに対し、加瀬さんの内心に思いを馳せると途端に人間臭く感じられてくるのが面白いところ。
……そしていつしか、そんな加瀬さんを応援したい気持ちが湧いてきたのです。
そう、山田さんのあまりの純粋ぶりになかなか進展できず、自分でもどうにもならない欲望に振り回されてしまう加瀬さんを、とっても応援したくなってきたのです!
これこそが『加瀬さん。』シリーズ最大の魅力!
メイン2人がどっちも応援したくなってしまうところなのです!
その方向性は多少違いますが、「応援したい」と感じるのは、キャラクターがいずれも魅力的だからこそ起こること……。
そのキャラクターの魅力こそが本作の1番の強みだと私は感じました。
……というようなことを、先日、熱に浮かされながら、つらつらと考えていました。
早く寝ろよ。
余談
気付けば2人の魅力について語ったっきりで、その関係性についてはあんまり触れてませんでしたねー。
私個人が百合的にイチオシしたいのが、単行本第4巻『エプロンと加瀬さん。』
文化祭において、山田さんが抱えていた嫉妬、加瀬さんが抱いていた不安、2人それぞれの悩みがあらわになり、お互いの理解を深めて関係がまたひとつ進展するこの展開が最高にエモいんですよ!
もし未読の方がいらっしゃったら、ぜひ!
……ちなみに、この作品でもう1つ好きなのがモブ男子の描写。
一部を除いて顔が「へのへのもへじ」……。
「お前らの作画に割く労力はねえ!」と言わんばかりの主張、シビれました……!
そりゃ百合作品において男なんぞどうでもいいし、そこに時間を使うぐらいなら百合カップルの関係性の描写をより深めるべきですよね!
さすがは高嶋先生……!
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