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小澤メモ|NOSTALGIBLUE|思い出は青色くくり。

25  牡蠣が好きなんですよー。

歳を取りましたので。
最近食べてないなあ、生牡蠣。去年、モン・サン・ミシェルでムール貝は食べたけれど、一緒にすすめられた生牡蠣はやめておいた。歳を取ったなと思う。そこならではのモノを喰らう。これは旅の醍醐味のひとつ。ありがたいことに、国外へ旅に出ると、日本食が恋しくなるタイプではなく現地のものをひたすら食べることができるタイプ。だから、なんでもイケる方ではあるのだけれど、生の牡蠣については我慢するようになった。飲料水はじめ食品衛生上で留意するのはもちろんだけれど、それでも運悪く、何かに食あたりすることはありえる。牡蠣が特別やばいわけじゃない。牡蠣がとても悪いヤツなわけじゃない。しかし、友人や周囲の人間で、生牡蠣にやられてえらい目にあったという事実が増えてきたのが気になっている。

歳を取ったからこそ味わいたいですが。
それで、牡蠣が特産物の町、北海道の厚岸に行ったときも、葛藤の末、やめておいた。連れの仲間たちが、ガツガツと手に取り、ちゅるっといって、すかさずビールで流し込んでいくのを横目に、牡蠣フライと焼き牡蠣を美味しくいただいたのだった。旅先で、すぐそこでとれた生牡蠣ですよ、なんて言われたら、たまらなくなる。伊丹十三監督の映画『たんぽぽ』で、白いセットアップにボルサリーノな役所広司さんが、食べてた生牡蠣。海女役の洞口依子が潜ってとってきたばかりの生牡蠣。鋭利な殻で指を切って流れる鮮血。何もかもがフレッシュに過ぎたシーン。めちゃくちゃ美味しそうだった。もともと、生牡蠣が好きだったし、よく食べた。オイスターバーとか最高だ。フランスなんかは、年間で相当数の人が牡蠣にあたって悶絶するという。そして、それでも年間でひたすらみんな牡蠣を食べているという。そうでありたい。そうでありたいが、そういうわけにもいかない事情。

カキアン・ルーレット。
とくに撮影旅行中に万が一、生牡蠣にあたったら目も当てられない。スケジュールはすべて狂ってしまう。(食べた個数に対する分解量とか分解率も関係あるみたい)1個だけとかって、たしなむ程度でやめておければいいけれど、好きなのでどんどんいってしまう。それだから余計に怖い。昔、とんねるずの番組、食わず嫌い王コーナーでゲストの竹中直人さんが言っていたことが、頭にずっと残っている。どうしても牡蠣が食べれなくなってしまったという話。元々は、牡蠣が大好物だった。それで、先輩のショーケンこと萩原健一さんの自宅に招かれたとき、竹中さんが牡蠣に目がないということで、先輩はわざわざ生牡蠣をたくさん用意して、振舞ってくれたという。たしかにうまかった。たしかに牡蠣は大好物だった。調子に乗って、どんどん食べた。それを見た先輩は、遠慮しないでどんどん食えと言ってくれる。さらに食べた。幸せだった。帰宅後、地獄が待っていた。大あたりしてしまって、ずっとずっと悶え苦しんでいたという。それから、牡蠣が食べれなくなってしまったという。恐ろしくなってしまったという。

昔話をよく覚えているもの。
生牡蠣はいつも食べたらあたるわけじゃない。でも、食べたらあたることがけっこうある。そして、美味い。まさにロシアン・ルーレット。生牡蠣のジャックポットが、もし旅先で出てしまったら、それこそ命取り。臆せば死ぬぜ、『ピンポン』のペコのような気持ちになるには歳を取りすぎたオッサンは、どうしてもディフェンシブになるのだった。そうそう。ディフェンシブになっておいて丁度いいってことを裏付ける出来事をひとつ。会社勤めをしていた若い頃、忘年会で同じフロアの面々と飲み屋に入った。乾杯後、隣の部署の先輩が、「牡蠣が好きなんですよー」と言って、生牡蠣をオーダーした。それに反応した副社長が、「そうか、そうか。じゃあ、じゃんじゃん頼んで食べなさい。遠慮は無用だ」と、先輩に言う。

後略、ナマガキ先輩。
なぜ、昔のパイセン系っていうのは、どんどん食べさせたがるのだろうか。歳を取り食が細くなったかつての食い道楽たちは、食べ盛りの人にたんと食べさせることで、若き日の自分の姿を懐かしんでいるのだろうか。年代的に、戦時中で食うのもやっとだったという歳でもないだろうに。とにかく、そのとき思った。(それはやばいぞ、竹中直人になるぞ、気をつけろ)と。ご機嫌取りなのか、本当に好き過ぎるのか、どっちかわからないが、先輩は生牡蠣をやんちゃに食べていた。しばらくすると、「牡蠣が好きなんですよー」しか言ってない気がした。言っては食べ、ビールを飲んでいた。(先輩、もう酔ったのかな)と思った。その後、先輩はちゅるっとやった生牡蠣をそのままリバース。1個いったら、たちまちカーニバル。リバースのサンバが鳴り響く。竹中直人さんもこんな風に苦しんだのかなと思いつつ、とにかく先輩を介抱したのを覚えている。それは、かれこれ20年以上も前の話。先輩、元気だろうか。こちらもだいぶ歳を取り、おかげで生牡蠣にビビっている日々です。25

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