小澤メモ|Sb|スケートボードなこと。
8 アトリエ PUBLIMOD ラボ。
パリの夏。
2019年の夏、パリで写真撮影をしていた。現地フォトグラファーのバンジャマンはデジタル全盛の時代に、いまだにフィルムで撮影する。感材費が別途でかかろうとも、こちらは彼の写真を求めているのだから、フィルムでバンバンと撮ってくれたらいい。帰国後、すぐにレイアウトを組んで製本しないといけなかったので、パリでは毎日撮影後にラボへ現像しに行った。そして、翌日のディナーには前日のベタ焼きを見ながら、みんなで写真をセレクトした。バンジャマンは、数年前から難病を患っていて、筋力的に手先がふるえたりしていたが、常にポジティブで、よく喋りよく笑った。シャッターを切るときは、ふるえが止まり、ピントもコントラストもバッチリの写真を撮った。(すごいな)と思った。彼は、どんなに疲れても、決して投げやりにならないし、良い光、良い時間を求めて、撮影を続けた。そして、どんなときでも撮影を楽しんだ。
パリのラボ事情。
このときの撮影でバンジャマンのアシスタントをしていたのはスケーターのチャック。いつもいつもチャックというわけではないようで、それがグラフィティアーティストのときもあったりする。基本は、みんなフィルムカメラを持っていて、写真を撮るのと、スケートをするのと、おしゃべりが好きで、バンジャマンのことを大好きなやつらがアシスタントをするらしい。バンジャマンとチャックのかけあいはウィットに富んでいて、口が減らず、必ず美味しい食べ物の話が盛り込まれていて、楽しかった。(いいコンビだな)と思った。バンジャマンとチャックにくっついて、彼らの馴染みのラボへ行った。オーナーもちょうどいて、いろいろ話をすることができた。芸術の都と呼ばれたパリで、現在、デジタルだけでなく、アナログ・プリントをしているラボは3軒ほどしかないらしい。
アナログ撮影。
オーナーは、自らもフィルムで写真を撮るので、アナログ・プリント、もしくはフィルム撮影したものを現像しデジタル納品することは、ずっと続けていきたいという。今まで、アナログ部門はファッションブランドの写真が大半を占めてきた。それが軒並みデジタル化してしまったために、このアトリエ PUBLIMOD ラボのアナログ・プリントの最大のクライアントは、バンジャマンになったと笑っていた。ファッションに取って代わって、パリではスケート写真を撮る人々がアナログ・プリントを支えているともいって、また笑った。メイクするのが難しいスケート写真は、フィルムを何本も無駄にしかねない。だから、デジタル向きだったりする。しかし、パリでは、長くシーンを引っ張ってきたバンジャマンのアナログ・プリントを見て育ってきたパリっ子スケーターがたくさんいる。そのため、カメラに興味を持ったスケーターの大半がフィルムカメラで撮影し、みんなアトリエ PUBLIMOD ラボへ現像しに来るのだった。こんなところからも、OGからネクストジェネレーションへ、受け継がれているものがある。確かに、コロナ禍でロックダウンしたパリにあっても、バンジャマンたちは、そのアナログな製作工程で素晴らしいプリント写真を残した。そして、ロックダウン明けにショーウインドウに大判を貼り付けたりブックレットにしたりして発表していた。コロナ禍になって、自粛生活に倦んできていたある日、「ロックダウン下でもアナログなクリエイティビティは死なない、やれないものはないよ。いつもモチベーシオンをありがとう、セン!」、そんな手紙とともに、彼から写真が送られてきた。2019年の夏、バンジャマンが撮ってくれた、モノクロームのポートレートだった。8
(写真はバンジャマンに連れられて行ったアトリエ PUBLIMOD ラボ/2019年)
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