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海外に広がるサムライ作品:海外に広がる嬉しさと懸念

2024年は、海外でサムライ作品が、良くも悪くも話題になった年と言えます。サムライ作品が増え、世界中で楽しまれるのは、歴史ファンとして嬉しいものです。一方で、海外で広まること特有の懸念もかんじています。
本記事では、今年1年で感じた、サムライ作品の海外進出について取り上げます。


2024年に話題になった海外のサムライ作品

2024年に、世界で最も話題になったサムライ作品は、『SHOGUN』で間違いないでしょう。アメリカにて制作されたドラマ作品で、日本の戦国時代がモチーフ。日本に流れ着いた船乗りジョン・ブラックソーン(モデル:ウィリアム・アダムス)の視点から、当時の日本や、将軍:吉井虎永(モデル:徳川家康)について描かれた作品です。リアルな歴史再現と映像技術、そしてストーリーの面白さで話題となりました。

このヒットには、海外の字幕作品に慣れがあると言われています。コロナ禍により海外でも在宅時間が増加。その時間が、今まで見ていなかったアジアの映像作品に費やすきっかけになったというのです。
『SHOGUN』以前にも、韓国が舞台のドラマ『イカゲーム』や、日本の『鬼滅の刃』をはじめとするアニメ作品もヒットしています。

この流れが、日本の時代劇である『SHOGUN』にも当てはまったようです。
他にも今年、海外で人気が出た作品には『忍びの家 House of Ninjas』があり、日本特有のモチーフを使った作品が人気になった年と言えるでしょう。

2024年に悪い意味で話題になった海外のサムライ作品も

2024年は、悪い意味でも話題になったサムライ作品があります。ゲーム『アサシンクリードシャドウズ』です。
フランスのゲーム会社ユービーアイ(UBI)ソフトが、2025年に発売予定のゲームソフト。アサシンクリードシリーズとして15年以上続いており、歴史の裏側で暗躍するアサシンとして、暗殺アクションが楽しめる作品です。そんなアサシンクリードシリーズの新作の制作の発表が今年あり、その内容が炎上したため、悪い意味で話題になりました。

炎上の焦点は、アサシン・クリードの主人公として、黒人の「弥助」を選んだことにあります。弥助は実在した黒人のサムライで、織田信長に仕えたとされる人物です。炎上の争点は主に以下の3つ。

【これまでのシリーズとの一貫性の欠如】
アサシンクリードシリーズでは、通常、架空の人物が主人公に選ばれてきました。しかし、日本が舞台となる本作では例外的に実在の人物である弥助を採用。この変更が、「他のシリーズと異なる扱いを受けている」として不満を招きました。

【弥助の扱いに関する誇張】
制作側は弥助を「歴史に名を遺す侍」として強調しましたが、実際の弥助に関する資料は極めて少なく、その活躍は歴史的に不明瞭です。一部からは「過剰な美化ではないか」との指摘もありました。

【文化的視点の対立】
日本を舞台にした作品で黒人侍を主人公に選んだことが「多様性への配慮を超えた不自然なキャスティング」と捉えられました。特に「ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)」の影響を強く感じるという声が一部で上がり、「日本文化の描写が歪められている」との批判につながりました。

【誤った情報の影響】
制作にあたって参照されたとされる、イギリスの歴史学者トーマス・ロックリーの著書や発言には、日本の文化や歴史に関する誤解を招く内容が含まれていました。例えば「坂上田村麻呂は黒人だった」といった発言は、事実ではなく、多くの混乱を生む結果となりました。

主に日本国内ではなく、海外で炎上した騒動です。

参考:https://www.levelman.com/some-people-are-above-the-law/

日本の歴史が海外で受け入れられる嬉しさ

これまで紹介したように、2024年はサムライ作品が話題になりました。歴史ファンとしては、サムライをはじめとする作品が作られるのは嬉しく、また楽しみでもあります。綺麗な映像で制作されたものが多く、実写作品であれば、日本の作品より派手なアクションも期待できます。さらに、世界の多くの人々が、日本の歴史に触れるチャンスが増えることも喜ばしいことです。

また、海外でも制作されることで、日本国内でもあまり知られていない歴史的ストーリーや人物が取り上げられる可能性も高まります。炎上してはしまいましたが、『アサシンクリードシャドウズ』での弥助の起用などは、まさにこの例といえるでしょう。

今後は、戦国時代以外の日本の歴史的背景にも焦点が当たる可能性があります。江戸時代や幕末の動乱期など、より広範囲な日本史を舞台にした作品が登場することを期待したいです。このような多角的な視点から、サムライ文化や日本の歴史を新たな形で世界に伝えることができれば、さらに多くの人々にその魅力が伝わることでしょう。

海外特有の問題に巻き込まれる懸念

世界的にサムライ作品が制作されるのは、うれしいことですが、懸念もあります。
1つは、「日本独自の価値観や文化をどう伝えるか」という懸念です。
日本の侍文化や武士道の精神、忠義や義理の概念が他国の価値観と異なり、その違いが理解されづらいです。また、将軍や国司など、日本特有の役職をどう説明するかも難しい問題に思えます。

鎌倉幕府滅亡から南北朝時代を描いたアニメ『逃げ上手の若君』を見た海外の人の感想に、次のようなものがありました。「なんでこの男の肌は白いんだ?(白粉を使っているキャラが登場する)」や、犬を射る「犬追物」を見て「可哀そう」などです。

このような日本特有の文化や、その時代の価値観をどううまく伝えるかが、大切になりそうです。

もう1つ、懸念があります。
ポリコレ(政治的正義)の影響」です。サムライ作品が海外で広がることで、しばしば現代の価値観や倫理観と対立する場面が生まれます。特に、歴史的背景や時代設定に基づく内容が、現代のポリコレ思想と衝突する可能性があるのです。

戦国時代や江戸時代の作品では、戦争や武士の暴力、階級差別といったテーマが描かれることがあります。これらのテーマが現代の視点でどう評価されるかは慎重に考慮する必要があります。日本国内で問題になった例は、『鬼滅の刃 遊郭編』です。「性に関することを子どもにどう説明すればいいか分からない」といった声が一部で上がりました。時代特有な人々の扱いが、視聴者によっては不快に感じられることもあるのです。

また、性別・人種・民族などを考慮したキャスティングを求められることが増えており、サムライ作品にも影響を与える可能性もあります。

このようにサムライ作品が海外で人気を博す一方で、現代の社会的な価値観やポリコレ問題にどう対応するかが、今後の作品制作における大きな課題となりそうです。製作陣は、文化的な背景や歴史的なコンテクストを損なわないようにしながらも、現代の視点を取り入れるバランスが求められます。

まだまだ広がりそうなサムライ作品

ここまで、2024年に話題となったサムライ作品について紹介しました。
これまでと比べ、人気となった作品や知名度が高い作品が多く制作されました。一方で、海外において異文化であるサムライを、どうすれば上手く・面白く伝えられるかが、今後のカギとなりそうです。
また、日本で制作されたサムライ作品や時代劇は、海外であまり注目を集めていないのが現実です。
日本制作のサムライ作品は、国内外のファンからの関心を集めるために、より多様なアプローチを考える時期に来ているのかもしれません。2025年以降には、これまでの枠を超えた新たなサムライ作品が登場し、世界中で愛されることを期待しています。

参考:『アサシンクリードシャドウズ』が炎上する理由 | JAPAN Forward

参考:『SHOGUN 将軍』なぜ海外で人気に? “違和感”の先にある美術設計と脚本構成力(リアルサウンド) - Yahoo!ニュース


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