だが、それがいい!花の慶次〜雲の彼方に〜悪役列伝
天に愛されるとは。仲間とは。美学とは。この腐りきった令和の時代に聞いたふうな口を聞かぬための「漢の」処方箋。
原作 隆 慶一郎 漫画 原哲夫 集英社
さて、今回ご紹介の漫画は知らぬものとていない、一度読んでしまえばトリコにならぬ男はいない怪作、花の慶次です。
本作の魅力はとにかく主人公前田慶次。秀吉があらかた天下を取り、戦国時代が終焉していく中で、「下剋上」であった社会も次第に窮屈になっていきます。
そんな中で何よりも「いくさ」を愛し、常在戦場のいくさ人として、また自由と洒落を愛する歌舞伎者として奔放に生き抜く彼の強さ、鮮やかさ。
それは「天に愛されしもの」のみに許される生き方として、天下人秀吉からも羨望されるほどなのです。
そして本作の魅力はそれだけではありません。慶次の周りの超人的キャラクター、そして彼らのリアクション、これがまた最高なのです。
慶次は確かに魅力的なのですが、彼はほとんど半神人、今風に言えばチート主人公です。
故に周りの「凡人」たちは彼の生き様に驚愕し、翻弄され、強烈な反応を示し、惚れるか憎むか、またはその両方です。
戦国時代ですから、凡人と言っても一癖も二癖もあるやつばかり。我々から見れば充分超人なんです。そんな超人たちが、読者に代わって七転八倒のリアクションを見せてくれます。読者はむしろ、そんな凡人たちにこそ感情移入し、最高に痺れるのです。
さて、そんな本作、はっきり言ってどこを読んでも面白い。コミックス、完全版、コンビニ版、文庫版などを含めてなんと8回も出版されているんです。読んだことのない方はもう早く読んでくれとしか言いようがない。魅力を語るとキリがない。
なので今回はあえて、花の慶次に登場する個性的な悪役を軸に、本作の魅力を紹介してみたいと思います。
前に述べたように、慶次はほとんど半神、チートキャラです。ならばそれに相対する敵も、フツーのキャラでは全く力不足。
そこで慶次に釣り合うように「これでもか!」と言わんばかりにブーストされた特濃の悪役たち。
それも原哲夫先生の圧倒的な画力により、北斗の拳の世界顔負けの鬼気迫るツワモノ揃いです。戦国時代っていいなぁ!完全に目が〇〇ってます。
では早速行ってみましょう。
1 クツワ七郎兵衛
トップバッターはクツワ七郎兵衛。彼は慶次の愛する巨大な乗馬「松風」を、慶次より前に捕獲しようとして蹴られ、それ以降この名で呼ばれるようになります。
その恨みは骨髄に至り、慶次を松風ごと葬ろうとするわけですが、アッサリやられてしまいます。
そんな彼、特筆すべきはやはりこの「目つき」ですね。一目見て「ヤバい」人です。絶対近づいてはいけないオーラを醸し出しています。
しかしそんな彼も、武士としての矜持は持ち合わせており、その最期は慶次と松風も認めるものでした。
2 四井主馬
さて二人目はこの男。四井主馬。加賀忍軍の頭領として慶次や松風の命をつけ狙い、その度にコテンパンにやられてしまいます。
とにかく卑怯、陰湿、邪悪の化身のような男ですが、様々な漫画の中でも、次の1ページほどに圧倒的にキャラクターの邪悪、異常、執念を表現したものを知りません。慶次に腕を切られた後に泣き叫ぶシーンなんですが、忍びの頭領のクセに子供のように泣きじゃくる姿、自分が先に手を出していながらの逆恨み、新たな武器の動きに急に笑いだす幼児性、「かくんかくん」というマヌケな擬音と義手の動き、泣き笑いからの「ぶっ殺してやるわ!」もう全てが異常。原哲夫先生ホント凄い。
3 甲斐の蝙蝠
続いて甲斐の蝙蝠。凄腕の忍びであり、完全にイッてしまっている男です。まぁ目を見ればわかりますよね。芥子を食わせた蝙蝠を食べて身体増強、痛みを感じずに戦うという反社っぷり。更に慶次に惚れ、同居することになった蛍という女忍の上忍であり、蛍を支配して慶次の命を狙うとんでもない人でなしと思いきや…実は芸一筋に生きたウブな変態。戦国時代のヤンデレガチストーカーでした。
本作でも一二を争うヤバい男ながら、何故か爽やかな読後感を与える意外性に富んだロマンチストでした。
4 奇染屋店主岩熊
デカーい説明不要ッッ!
多分本作で一番デカいです。しかも武士ではなくなんと商人。なのに武士を武士とも思わぬ傲岸不遜な態度と薩摩武士への横暴は本当に憎たらしく、それだけに慶次にやられる様は爽快。
どー見ても破綻してるサイズなのに何故か納得させられてしまうのはやはり原先生の気魄ゆえか。
そしてその後の意外な展開もかなりアツい。戦国時代は商人もアツいのです。大好きな悪役です。
5 京の材木商 伊勢屋
京の材木商伊勢屋。なんとまたしても商人です。慶次と敵対する北条方の忍びに依頼され、なんと金の力で慶次たちを籠絡しようと試みます。
拝金主義の権化というと割と良くある設定なんですが、やはりここも原哲夫先生の鬼気迫る画力により、圧倒的説得力として慶次たちに迫ります。出会いからダメ押しまでの流れが絶妙かつ圧巻。
年取ると「あっコレはやられてしまうわ」と思わざるを得ない迫力です。もちろん慶次には全然通用しないんですが、なんか謎の敗北感を味合わせてくる恐ろしい男です。岩熊とは違った形での商人魂を見せてくれました。
6 風斎
風魔の忍び風斎。コイツはガチの強敵なんですが、とにかく怖いのはこの表情です。上目遣い、長いまつ毛、そしてベッタリ張り付いたような口だけの笑み。一目見て超ヤバい異常者だと感じさせられます。なんで原先生はこんなにヤバいやつを描くのか上手なんでしょうか?
ちなみにコイツは瞬間催眠術を使うんですが、その時の眼力は漫画なのに本当にクラクラします。しぇあ!
7 石田三成
皆さんご存知、嫌われ者の石田三成です。どうでしょうこの表情。一コマで「他者の威を借りて人を人とも思わぬクソ冷血行政官僚」っぷりが伝わってきますね。そして当然のように慶次によって酷い目に遭います。スーッとしますねホント。
ただ、酷い目に遭うだけでなく、それなりに見せ場もあるオイシイ男です。
実は本作、同じようなクソ行政官僚キャラとして千道安と前田玄以の二人がいるんですが、三成が一番ナイスなので省略しました。
さて、いかがでしたでしょうか。多分伝わってると思うんですが、どいつもコイツも一目見てヤバいんですよね。ヤバいということは魅力的ということ。こんな奴らがどう慶次と関わり、その魅力を発揮するのか、是非とも本作を読んでみてください!