『情熱大陸THE TEAM』【医師 生坂政臣/総合診療科】
知られざる「チーム」の情熱に迫る特別シリーズの第一回目が、この【医師 生坂政臣/総合診療科】でした。
「セカンドオピニオン」という言葉は今では当たり前のように使われていますが、一度受けた診断を改めて別な医師に診てもらうというのはそれなりに勇気が要るような気がします。
でも何箇所も病院を廻っても診断がつかないという状況は、相当精神的には不安なことですよね。
どこの病院でも診断がつかない患者さんにとっての"最後の砦"が、千葉大学 医学部附属病院の【総合診療科】。診断に特化した「セカン ドピニオン外来」で、なんと総勢21人の医師が「チーム」で診療にあたるそうです。その「チーム」を率いてきたのが生坂政臣医師。
この診断の方法が、各医師たちによる「問診」と「身体診察だけ」というのにまず驚きました。普通の病院なら、何はともあれ「検査」からスタートですからね。
診療時間の長さにもビックリしました。普通の病院の「問診」なんてわずか数分というイメージしかありませんが、こちらはなんと長ければ2時間を超えるケースも。
患者さんの振る舞いすべてが【総合診療科】の医師たちにとっての情報源。患者さんの表情や言葉、匂いや汗、呼吸数はもちろん、趣味や家の間取りまで「問診」してその原因を深掘りする…根気の要る作業ですよね。
でも生坂医師の「必ず原因を突き止める」という信念に期待する患者さんたちの気持ちが、仕事に対するモチベーションになっていたことは間違いない感じがしました。
40代女性のケースは「体のふらつき」という訴え。整形外科や内科を廻ってもお手上げ。ある女性医師は着ている服のタバコ臭さに着目し、本人が喫煙しないということで“副流煙“が一つのキーワードに。
足のだるさを診るのに、何度も歩いてもらってだるさを数値化。一度休むとだるさがリセットされるということは、筋肉ではなく血流の問題ではないか?と。導きだした診断名は、タバコの煙や歯周病などが原因で発症する「バージャー病」四肢の血管が閉塞する病気。
生坂医師は、患者さんの言っていることがバラバラにみえるようでも、最後にはまるでパズルのように全部がハマっていくと。トータルで考えるからこそできる診断だということがよく分かりました。医師たちの“観察眼“が武器になっているわけですね。
70代男性のケースは「体に力が入らない」という訴え。かなり痩せてしまっていて気分の落ち込みもあることから、″うつ病″も視野に。
初診の時からさらに体が硬くなっていると訴えるものの、筋力の衰えはなさそうな動き。「疲れやすく関節が硬いけれど筋力はある」。楽しみがあるかどうかを尋ねて、日常に楽しみがあれば"うつ病"の可能性は低い…考えられる要素を一つ一つ消していく。
そこで浮かび上がった診断名は「副腎不全」。関節の痛みや筋肉痛とか患者さんの訴えとも一致するし、再度の血液検査でもそのような結果に。7時間におよぶ「問診」で解決に導かれ、投薬治療でその男性は回復に向かったそうです。
「両ふくらはぎのつり」を訴える車イスの中学生。半年前、陸上大会前にふくらはぎがつってからその頻度が増えて、今では学校にも通えなくなっていると。痛み止めを飲みきるけれど、良くなっている感じはしない…。
つま先立ちはできないのに、踏み込むことはできる…この矛盾に気づいた医師たちは彼の「心」の問題に行きつきました。
「人の脳は、痛みの記憶に縛られていることがある」
彼の診断名は「身体症状症」。体の症状に強くとらわれるようになり、見合わない苦痛や日常生活への支障が出るという病。まさに「脳」や「心」と「身体」が連動している証拠であり、医師たちの説明によって本人が納得したからこそ「脳」の呪縛がとかれ、少年は普通に歩けるようになり痛みもなくなりました。
ずっと悩んできた患者さんたちにとっては、まるで魔法のような感覚でしょうね。
「チーム」全員でカンファレンス(ディスカッション)をするシーンは興味深かったです。【総合診療科】という名前通り、あらゆる角度から一人の患者さんを深掘りするという感じでした。
さまざまな専門分野の医師たちがタッグを組んで、それぞれの視点から患者さんを診療して一つの結論に絞り込んでいく様は爽快感さえ感じられました。
「謎はすべて解けた!」という感じでしたね(笑)。
病気には文字通り「バイオロジカル(身体の問題)」の原因以外に、「サイコロジカル(心理的問題】」や「ソーシャル(社会・環境的問題)」な要素が大きく影響を及ぼすこともあるという生坂医師の言葉に納得でした。
今入院中の母はまさに「心」が「身体」に影響を及ぼしていると感じられます。「心」のストレスが軽減されれば、「身体」も復活していけるのではないかと私は感じています。
いわゆる「診断難民」と言われている人たちは、心理・社会的に修飾されて本当の原因が解りにくくなっているそうです。
サイコ、ソーシャルで考えると、残りが器質疾患(バイオ)になる…。バイオロジカルで生じている症状と引き算してあぶり出されるという考え方は、【総合診療科】ならではだと感じました。
生坂医師は65歳(現在は66歳)で、今年の3月退任されました。自らの経験から日本における【総合診療科】の普及に尽力してきましたが、手間ひまがかかり、幅広い知識を必要とする【総合診療科】の医師を目指す医師が少ないという現実はあるようです。
でも″生坂マインド″を受け継ぐ若い医師たちは着実に育っています。「チーム」で一つの答えに行きつく【総合診療科】の力を必要とする患者さんたちは数多く存在しているはずです。
「患者を一人の人間として全体で見つめる…医師の原点かもしれない」
最後のナレーションのこの言葉が心に響きました。
将来的にぜひとも【総合診療科専門病院】を立ち上げてほしいと、生坂医師にはお願いしたくなりました。