ワシントン大学のDEIプロジェクト
東北大学が連携しているワシントン大学は、種々の面でダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)が進んでいます。同大学DEIのもっとも中心はマイノリティ支援であり、そのオフィスとしてOffice of Minority Affairs and Diversity (OMA&D)があります。それとは別途に、米国国立科学財団(NSF)の資金を得て推進しているADVANCE Center for Institutional Changeや、Alene Moris Women’s Centerも活動しています。今回の連携アカデミックオープンスペース(AOS)プログラムのキックオフとして行われたDEIセッションや担当者への個別訪問により、その活動の一端を知ることができました。
ADVANCEの方はNSFが2001年より開始したプログラムで、「Not fix women, fix institutes」というミッションのもとに、とくに女性の参画が少ないSTEM系へのサポートとなっており、UWの場合は工学系(10専攻)、環境系(6専攻)、Arts & Scienceの中のScience系(9専攻)という3つの部局が対象となっているとのこと。現在、これらの3つの部局のDean(学部長・研究科長に相当)は皆、女性です。
全米においてこれらの理工系分野の女性研究者比率が2001年の8%程度から、2021年では18%程度に向上する中、UW自身とADVANCEの支援により、UWの工学系では14%から27.5%に増加しました。UWのような大きな大学でこれだけの数字が伸びたことは画期的と言えます。
活動としては、キャリアパスへのアドバイスや離職防止が中心となっており、さまざまなワークショップ等が定期的に開催されています。本学の女性研究者支援も、さらにきめこまやかにするための参考になります。また、継続的な資金投入が必要であることも学びました。
Women’s Centerの方は、どちらかというと”いわゆる文系”が母体となっており、また地域のコミュニティとの連携を大事にしたジェンダーエクイティに関わる活動を展開しています。例えば「Leadership Academy」というような講座を市民に向けても開き、女性のリーダー参画を促しています。また「Making Connection」という取組みでは、高大連携プログラムとして大学進学やそのための奨学金獲得に繋げるアドバイスを行っています。このMCプログラムを受講する生徒の多くは有色人種であり、エスニシティの観点でのダイバーシティ推進も担っていると言えます。そのため、Women’s Centerはキャンパスの中でもとくに地域に近い端のところに立地。さらに、リカレント教育の推進や反人権的な動きを抑制するためのポリシー策定等を行うというミッションも担っているようです。
このセンターのAssistant DirectorであるSarah Nguyễnさんの経歴が興味深く、自己紹介スライドによれば、修士課程では図書館学と情報科学を学び、現在、UWの情報科学専攻でGraduate Research Assistantとして研究も行っているようです。その分野は、人種とジェンダーに関するデータの公平性(justice)、アーカイブ、図書館、情報技術とそのミスコンダクト、さらにmovementとdanceという、非常に多才な方でした。HP上でお名前の後に(she/they)と記していることも印象的でした。
WUのダイバーシティ支援の中心であるRicky Hall副学長との面談では、OMA&Dの非常に複雑な組織図を見せられ、支援がきめ細かいことがよくわかりました。
さらに今回、UWの障害者支援についても学ぼうと思い、コンタクトしたのはDO-IT Centerという組織のProgram ManagerのScott Bellman先生という方でした。UWはキャンパス外にも多数のビルをアセットとして保有しているようで、訪れたのはテクノロジー系の部署が入っている建物。ただ、Bellman先生は風邪気味で実際には技術員のAndrea Manoさんを交えてのzoom meeting。
DO-ITの名称は「Disabilities, Opportunities, Internetworking, Technology」の頭文字で、創設されたのはSheryl Burgstahlerという、もともとは数学者の女性研究者。なんと30年前にインターネット技術が出回り始めたときに、さまざまな障害を持った子どもたちを高等教育の機会に繋ぐという目的で設立されたという先見性に驚きました。
ここでの活動は高大連携が中心で、当初はNSFの支援だったものが、ワシントン州からの継続的な支援に移行し、DO-IT Scholarship等、オンライン授業等でプログラミングを教えて、大学進学までを見守ります。受講生となればiPad等のデバイスやソフトが支給されるため、人気が高く選抜の倍率は厳しいのですが、多様な子どもたちの才能を伸ばそうとする姿勢は、日本に欠けていると思いました。
障害を持つ学生・教職員の支援組織としては、別途Disability Service Officeがあり、さまざまな支援を行っています。
ちなみに、同じ名前の組織DO-IT Japanが日本にもあるのですが、中心となっているのは東京大学先端科学技術研究センター(先端研)の近藤武夫教授。DO-IT Japanでは「Diversity, Opportunities, Internetworking, Technology」の頭文字でした。先端研の熊谷晋一郎先生によれば、「ディサビリティ」は、障害者自身の能力の欠如を問題にするのに対して、「インペアメント」という、組織やシステムが障害者に適していないことを指摘しておられるので、ディサビリティという言葉を避けたのか、あるいは、むしろニューロダイバーシティを意識した組織のあり方を示すのかもしれません。このプロジェクトを推進する近藤先生にも、いちどお話を伺ってみたいと思います。