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AAAS2025のOAセッションに登壇してきた
年明けにオープンアクセス(OA)関係の登壇が続いて、これで一息というイベントが、ボストンで開催されていた第191回米国科学振興協会(AAAS)の年次総会でのセッションだった。前回はちょうどコロナのパンデミック直前の2020年のシアトルに参加した。
成田からの直行便で前日入りし、初日2月13日の午後から最終日15日の午前中まで参加。トランプ政権になって種々、米国でサイエンスを進めるのに制限が出てきたタイミングでの開催とあって、開会式でAAASのCEOであるSudip Parikhのスピーチは、聴衆に向かって「何が人々の生活を良くしたか?」という事例を一つ一つ挙げて、聴衆に「Science and Engineer did it!」と唱和させるという煽り方。実際、NIH予算の間接経費が15%に抑制されたり、研究費が本来の研究そのものではなく、例えばダイバーシティ推進関係に使われたりしていないかの「審査」が終わるまで執行停止など、たいへんな状態になっているという声が米国研究者から聞こえている。
今年はジャパン・ブースが無かったのが残念。個別には研究広報ネットワーク(JACST)関係と日本学術振興会(JSPS)の展示があった。来年は、ぜひ復活してほしい。
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かたや中国はかなり真ん中に大きなスペースを取って展示していた。
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AAASは有名なScience誌を発行しているだけでなく、プレスリリースなどを二次媒体として拡散する部門EurekAlert! も傘下に備え、2日目は広報担当副学長の業務も兼ねて、EurekAlert! のJapan User Meetingに出てきた。
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3日目の午前中が自分が登壇するオープンアクセス関係のセッション。
Organizer: Meagan Phelan
AAAS/Science, Washington, DC
Co-Organizer: Kazuhiro Hayashi
National Institute of Science and Technology Policy, Tokyo, Japan
Moderator: Elaine Westbrooks
Cornell University, Ithaca, NY
Panelists:
Open Access in Japan: How We Try to Transform Scholarly Communication
Noriko Osumi, University Library, Tohoku University, Sendai, Japan
Open Access Policy and Strategy: A U.K. Perspective
Rachel Bruce, UK Research and Innovation, London, United Kingdom
Open Access Is Closed to Middle Income Countries
Alicia Kowaltowski, University of São Paulo, São Paulo, SP, Brazil
オーガナイザーにはScience誌のMeaganとNISTEPの林和弘先生、モデレータのElaineは図書館系、パネリストは私のほか、英国の研究費配分機関のRachel、ブラジルの研究者であるAliciaと、多様なバックグラウンドとなっていた。
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スライドはこちらに置いておきます。
結局のところ、「誰が知のインフラのコストを払うのか」問題であることと、グローバルサウスなど、そのコストを払えない国があることにどう対応するのか、そして高いAPCを払ってOAにするブランドジャーナルに頼らずに、プレプリント、リポジトリ、ダイヤモンドジャーナル(読むのも論文を出すのもお金がかからないジャーナル)を活用するのであれば、研究評価との関係をどうするのか、という点を解決しなければならない。どのようにしてhealthyでequityでsusteinableな研究環境で次世代を育てられるのか、ということについて、皆で考えることが必要だ。
日本のコスト問題として言えば、そもそも国立大学の図書経費は、文科省の運営費交付金に含まれている(「大学には図書館を備えなければならない」というのは、大学の設置基準に定められているのだ)。つまり、電子ジャーナルの時代になったときにも、ジャーナルを「読む」ための費用は、引き続き図書関係経費(本学では全学の経費と部局の負担分に分かれている)だが、そこに出版のためのArticle Processing Charge(APC)が派生することとなって、このAPCは研究費から支出されることとなった。したがって、両者を合わせて一括契約(Transformative Agreement、日本では「転換契約」と呼ばれることが多い)することになったとして、大学それぞれが支出するのであればそれはそれなのだが、合わせた状態で国が支援するというのは、きわめて筋が悪い・・・(文科省の中でも高等局と振興局などに分かれている)。さらに、日本の大学の規模は著しく異なるため、一律の契約にしにくい。大学群も国立大学、私立大学(私大協、私大連)、公立大学等に分かれていることに加え、高等専門学校や研究所群もある。
この学術情報流通問題解決のために、Open Access for Scholarly Empowerment (OASE)という組織が作られたのだが、さらにその先を考える必要が出ている。