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プロサッカー選手のアンチドーピング対策

プロスポーツチームでメディカルスタッフとして活動していると必ずと言って良いほどドーピングの問題に触れます。

問題の大きさは様々で日々のドーピング管理から、実際のドーピング検査などいろんなシュチュエーションがあります。

このブログではプロサッカーチームのトレーナーからみているサプリメントのドーピング対策について書いていきます。

&CAREは宮城県仙台市でスポーツに特化した治療、リハビリ、トレーニングなどのサービスを提供しております。
アキュスコープ治療も行っておりスポーツで起きた怪我の早期復帰治療も提供しており、肉離れ・足首の捻挫などを早く治すよう努めております。
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Jリーグのドーピング

主にプロサッカーチームで活動してきているのでサッカーの現場のお話しとなります。

Jリーグでのドーピングは
2007年の我那覇選手(当時:川崎フロンターレ所属)
2016年の千葉選手(当時:サンフレッチェ広島所属)
2022年のシュヴィルツォク選手(当時:名古屋グランパス)
などが有名です。
(※アンダーバーはリンクあり)

  • 我那覇選手は「冤罪」だったのですが、それを証明するためにかなりの時間と労力がかかっておりキャリアに大きな影響与えています。

  • 千葉選手は「うっかりドーピング」でサプリメントに表示外の禁止薬物が入っており陽性となってしまいました、意図的な摂取ではないという事が証明できたため我那覇選手ほどではないですがキャリアに影響を及ぼしております。
    日本人でドーピング違反となるケースの多くがこの千葉選手のような本人の意図とは関係のない「うっかりドーピング」です。
    プロスポーツ選手として活動する上で、このうっかりドーピングに対していかにリスクマネジメント出来ているかが重要となります。

  • シュヴィルツォク選手はアジアチャンピョンズリーグ(ACL)の試合後検査で陽性となっております。
    名古屋グランパスを退団する事態にまで発展しました。
    スポーツ仲裁裁判所(CAS)へ上訴し結果的には意図的な摂取ではなく千葉選手同様にサプリメントに表示成分以外の成分が入っており「うっかりドーピング」で陽性反応へと繋がってしまいました。


選手からすると
「表示成分以外の成分が入ってるなんて知らないよ!」
「大丈夫って言われたから摂ったのに!」
と言うところだろう。

しかし
一度ドーピング検査で陽性と出てしまうと何らかのネガティブな影響が選手にのしかかります。
結果的には上記の例にあげた3選手は引退することなくプレイを再開する事が出来ています。
が所属チームを失ったり、一定期間プレイ出来なくなったり、裁判にお金がかかったり、濡れ衣を着せられたり、成績を剥奪されたり、クラブに制裁があったり、いろいろと問題を起こした張本人となりメディアに取り上げられます。

2016年、私がJ1リーグでトレーナーとして活動していた時に千葉選手のドーピング陽性問題が起こりました。
たしかJリーグトレーナー部会か医学員会からアナウンスがありサプリメントの摂取はリスクがあるので避けるようにと周知されました。
クラブは大手サプリメントメーカーと契約しておりトップチームのクラブハウスにはホエイプロテインやアミノ酸、ビタミン、カルシウムなど多くのサプリメントが準備されており選手がいつでも摂取出来る環境がありました、そして練習・試合直後に選手それぞれにあったサプリメントを摂ってもらっていました。

それを止める…
こんなに準備をして
メーカーと契約をして
選手に勧めておいて

リスクがあるから止める、なんて言えるのか?と当時は思いましたが実際にサンフレッチェ広島で起きた事象を考えると止めるべきなんだなと。
クラブ、監督、コーチに説明して理解してもらうの大変でした。

クラブは契約を交わしてしまっているし
指導者陣は選手に飲ませている身

これを「やっぱりなし!」
と言う事なので大事でした。

この千葉選手の件を境にJリーグクラブでサプリメント提供をしているチームはおそらくなくなったと思います。全クラブ辞めたはずです。
そして「サプリメントの摂取は自己責任」という文章をよく目にするようになりました。
日本代表でもサプリメントの提供が廃止になっております。おそらく現在もです。

JFAのホームページから抜粋
画像にHPのリンクあり

今まで試合の時にロッカーに並んであったサプリメントが羊羹やカステラなどに変わっていき、食品から摂取するようにという意向になりました。


アンチドーピング対策

〜第三者認証機関〜

我那覇選手は注射が原因なのでサプリメントが問題ではありません、アスリートが摂取するサプリメントには第三者機関の認証を受けている事が多いです。

そこには認証マークや証明書などが存在します。

おそらく千葉選手もシュヴィルツォク選手も認証マークをメディカルスタッフが確認して摂取していたと思います。

ここでトレーナーの視点で気になるのがどこの認証機関の検査を通していたかです。
国産か外国産かも話題に上がるかも知れませんが日本人の信頼度は高いかも知れませんが、ドーピング検査を受けているのは日本人だけではありません。(でも国産の方がなんとなく安心ですよね)
国産と書いていても原材料は国外と記載されている事が多々見られます。

認証検査機関はいろいろあります。
当時の国内ではJADAがほとんどでした。

このマークが付いている製品はJADAが検査をした製品

多くのサプリメントにはこのJADAマークが付いており、私たちトレーナーはJADAマークが付いている製品なら大丈夫だよ!と選手に指導していました。
なぜならドーピング検査を実施する組織がJADAなので、そこの認証があるなら大丈夫!という事でした。

そりゃそうですよね。
ドーピング検査をやっている人達がドーピング対策を行っているので。当時は当たり前だと思っていました。

ところが
2016年の千葉選手の件の後からJADAマークは徐々になくなりみなくなりました。

そして第三者認証機関という言葉が出てきました。要するに検査を業態とした企業が安心を担保に有償で詳しく検査して認証マークを発行しているのです。
そのような第三者認証機関が世界にはいくつか存在します。

LGC社
LGC社
BSCG

最後のこのサイトは分かりやすくまとめてくれているのでもう少し丁寧に知りたい人はオススメです。
もちろん他にもまだ認証機関は存在します。

また認証マークではなく証明書のような形で検査結果を公表している製品もあります。

それが
「アンチ・ドーピングのためのスポーツサプリメント製品情報公開サイト」
です。

例えばこれ

大塚製薬から出ているボディメンテドリンクもしっかり検査を通して禁止薬物が入っていないという事を定期的に検査を行って公開しています。

このサイトを見て頂けると分かるのですがサプリメント工場のクオリティも評価しています。

それがGMP
見た事がある人も多いと思います。

https://www.jhnfa.org/kenshoku_gmp.pdf

ドーピングは
何が安心で
何がリスクなのか
難しい問題です。
コンタミネーションがある以上どんな製品にもリスクがあると思います。
ですが向き合って競技をしなければなりません。


現場でのエピソード

トレーナーは選手に相談されます。
これは大丈夫ですか?
これ飲んでいいですか?
と言った具合にいろんな製品について聞かれます。
中には思いもよらない製品について聞かれる事も。

これまで聞かれた例で印象に残っているエピソードをいくつかご紹介します。

◉ウコンの力
お酒を飲む方なら知っているかと思いますが肝機能の働きをサポートしてアルコールの分解をサポートして二日酔いになりにくいという製品。
ウコンの力にはsuperやカシスオレンジなどいくつかのシリーズがあります。
superなんて何となく何か禁止薬物が入ってそうだし心配になっていろいろ調べました。
そもそもウコンの力を借りるほどお酒飲まないでよ!と思うのですが。心配になって相談してきていると思うのでそこは調べます。
現在はインフォームドチョイスの認証を得ていますが当時はまだなく、試合の前泊ホテルで深夜までいろいろ調べた記憶があります。

画像にHPリンクあり

ウコンの力を販売しているハウス食品さんはスポーツサプリメントではない健康食品にインフォームドチョイスの認証をつけている印象があります。

コンビニで目にするコレもインフォームドチョイス
画像にHPリンクあり

ハウス食品さんの全ての商品に認証マークがあるわけではないのでそこは注意が必要です。
このメーカーは安心という考えではなくこの製品は大丈夫かな?と考えて下さい。
他にもこのようなパターンは多くあります。

◉認証マークが付いているが…
選手に相談されたサプリメントを見てみると認証マークが付いているが見たことのないマーク。
調べてみると自社で検査を行って禁止薬物が入っていなかった事を証明していました。
これでは消費者は分かりません。
配合しているのが自社で検査しているのも自社…第三者機関が検査するから信憑性が高い安心な製品になると思うのですが、それらしいマーク付けてホームページに安全謳う文言を掲載していました。選手はこれでは分かりません。
「認証マークついてるのになんで飲んじゃダメなの?」となります。
メーカー側が掻い潜ろうという思惑を感じてしまうのは私だけではないと思います。
なぜこう言った事が起こるのかと考えると第三者認証機関に検査を出すには当たり前ですが費用がかかります。
認証機関によって費用はまちまちですが、より厳しい検査、検査頻度によって費用がかかる事が容易に想像出来ます。
より厳しい安全なマークを得るには大きなお金がかかるという事です。

こう言った背景を見てしまうとハウス食品さんのようにスポーツサプリメントではないのにインフォームドチョイスの認証得ているのをみると何だか好感がもてますね、流石ハウス食品さん!と
またサプリメントの安全性だけでなく上記に記したようにどんな工場で作られたかも気にして見た方が良いと思います。GMPマークがその基準になってくると思います。

アスリートは摂取するものに制限がある事を理解するべきです。

現役生活中はそのところを肝に銘じて活動しなければなりません。

私が必ずチェックするのは
その製品自体に認証マークがあるのか
GMPマークがあるのか
まずここをみています。

この2件は印象に残ったエピソードでした。


スポーツサプリメント

今回のブログで↑このような言葉を使っていますが、世の中には多くのサプリメントが存在します。
アスリートはパフォーマンスを向上させたいという思いからサプリメントを摂取すると思います。そのようなサプリメントを「スポーツサプリメント」と考えていますが、パフォーマンスの向上以外を目的にサプリメントの摂取を行うケースもあります。


最近、話題となったのが

小林製薬の紅麹コレステヘルプが有名です。
健康被害の問題があり、有名になってしまいました。
一般的なサプリメントでこのような問題が起きてしまうことを考えるとアスリートが摂取するサプリメントはより繊細な製品を選ぶ必要があります。
アスリートはパフォーマンスを向上させる事が目的であって、健康被害が出るなんてもってのほかです。

このようなサプリメントを見るたびにいつも思うのが、なぜ病院で処方を受けて薬を飲まないのか。保険を使って3割負担で支払った方がコストもかからないはず。
ましてや効果を考えても薬よりサプリメントが効果があるとは思えない。
安全性も国が保証しているから出回っているのに。

自社の安全基準で作られた製品より、
第三者認証機関が評価した商品の方が安全ですし、
日本国が安全を保証した薬の方が(ドクターが処方した薬の方が)安全だと考えます。

&CARE


そのようなスポーツサプリメント以外のサプリメントの相談を受けた時の返答は
以下

サプリメントはどの製品でもリスクがある、そのリスクを下げるのが認証マークやGMPマーク。それらがない物を摂取することはオススメ出来ない、リスクマネジメントの観点から同じ成分で認証マークがある別のサプリメントまたは自然食品で摂取するように努める。
そうでないのなら病院を受診して安全な薬の処方を受けて服用するべき。

&CARE

プロスポーツ選手は有名になればなるほどいろんな人が周りに関わってくる。その中にはきっとサプリメントを紹介してくれる人もいると思います。その意図には本心から良いモノだと思って勧めてくれる人(ドーピングの詳しい知識がないが)や知名度を利用して製品の広告PRに利用したいと考える人などいろんな人がいます。(たまにマルチもみうけられる)
アスリート本人がしっかりとした知識を持って活動する事が重要です。
特に個人競技の選手は周りに相談出来る人がいない可能性があるので注意して欲しいです。


各競技のドーピング検査の頻度

あの競技の選手が飲んでいたから
あのスポーツチームが広告になっているから
で判断するのではなくしっかり成分が安全か確認する事。

上記に少し触れましたがドーピング検査の頻度が各競技団体によって違う事も知って欲しい事実です。
当たり前に検査を実施するにも費用がかかるのであまり裕福ではない競技団体ではドーピング検査が行われないなんてことも。
そうなるのその競技団体に所属している有名なチームが広告になっているサプリメントが安全とは言い切れません。
検査を受ける事がないのでドーピングに対する認識レベルも低くなってきます。

一方では
年間何度もドーピング検査を受ける環境がある競技団体はどうでしょうか?必然的にドーピングに対して神経質になってきます。検査の頻度が多ければ多いほどうっかりドーピングで陽性となる可能性が高くなります。

これに気づいたあるエピソードがあります。
格闘技RIZINの件です

記事によるとRIZINでは2015年以前はドーピング検査は行われていないという事だと思うのですが、費用だけでなく色んな理由が原因でドーピング検査が行われていない競技や興行がある事を選手たちも知って欲しいと思います。

あの選手が飲んでるから
あのチームのスポンサーだから

だから大丈夫という考えはやめて下さい。
広告スポンサー契約をしていても、もしかしたら摂取していない可能性も考えられます。

記事にも少し触れられていますが
プロ野球はNPBがドーピングの管轄を請け負っています。
通常はWADAまたはJADAの規則に則っ検査実施しますがNPBは加盟していません。

この記事は有用だと思いました。

一方Jリーグ(JFA)はJADAのもとで検査を実施しています。

全ての競技団体のドーピング検査を調べたわけではないのですが日本の2大スポーツである野球とサッカーだけみても違いがある事がわかります。

プロ野球選手とドーピングについて話す機会があったのですが、認識の違いを感じました。
サッカー界では漢方薬も避けるべきとなっていますが、プロ野球選手は漢方薬を普通服用していました。
それは筋痙攣(足がつる)に対して効果があるとされている漢方薬の芍薬甘草湯です。
プロ野球選手が試合前に飲んでいることを教えてくれましたが、サッカー界では漢方薬は禁忌となっているので飲めません。


また一時期話題となったのど飴

龍角散は大丈夫、禁止薬物は入っていないのですがのど飴も全て安全というわけではないので要注意です。文中で触れられていますが浅田飴には禁止薬物が含まれています。

南天のど飴も禁止薬物が含まれています。

コンビニやドラックストアに普通に売ってある誰でも手に取って買える商品にも禁止薬物は含まれているので注意が必要です。

ちなみにこのサイト↑有用です。
「データインデックス」でよく調べています。
それとグローバルDRO、こっちは主に薬の検索ですがデータインデックスはのど飴のような商品も載っていることがあるので助かります。
アプリでdinxも使っています。

あと基本は
毎年更新されるこの表をベースに考えています⇩

https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data/supoken/doc/anti_doping/anti-doping-med-list_2025.pdf

この表は更新されるたびにチェックして常に見れる環境にしています。


「飴ちゃんあげるわ!」
と言われて食べた飴に禁止薬物がなんて事もあり得る話です。要注意!!

プロスポーツ選手は大変です。
競技が持っている影響力が大きければ大きいほどドーピング違反が隣り合わせだと思いますので自覚を持って欲しいと思います。

そう言った意味では
オリンピックやワールドカップなどの世界大会ではドーピング検査が行われる頻度が多くなります。
リンク、添付したURLの内容の中にもあったかと思いますが世界大会では競技会検査と競技会外検査があります。
競技会検査の頻度も多くなっています。

サッカーで言うと
代表選手は抜き打ちで検査がある事も
急に仙台の自宅に検査員が来たなんて事もあります。
朝練習場に来たらスーツを着た知らない人(検査員)が数人いた事もあります。
代表選手だからという事ではないですがよりドーピングへ意識が求められます。

ドーピングについて相談したい時は各自治体にスポーツファーマシストがいるので相談が可能です。

団体競技であれば所属先にトレーナーやドクターなどのメディカルスタッフに相談が出来るかと思いますが、個人競技で相談先がない場合活用してみると良いかも。

こんなのもあるみたい


ドーピング陽性となってしまうと
頑張ってきたのに成績が剥奪されたり、競技が続けられなくなる可能性もあります。
日本では意図的の禁止薬物を摂取する人はあまりいないと思いますが、多くの原因である「うっかりドーピング」にどれだけ注意を払えるかが重要となります。

アスリートはドーピングの意識を持って行動しましょう。


&CAREでは
スポーツで起きる怪我の治療を行っております。
仙台市にお越しになれる場合はご相談ください。

遠くても出張治療も可能です。

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