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聖地

コンビニで買ったアイスを公園のベンチで食べていると、溶けたアイスが棒をつたって、人差し指に垂れてきた。

ゆっくりしていると、溶けて無くなってしまう。
けど急ぎ過ぎても拒否されるように頭が痛くなる。
「なんかアイスって、恋愛みたいだな」
そう思いながら、溶け始めたアイスを慌てて食べて頭がキーンとした。
いまだにアイスをうまく食べれない私はきっと、恋愛も下手なんだろうなと思いながら最後の一口を頬張った。

昔から私が読んだりする恋愛作品は、ほとんどが結ばれずに終わったり、別々の道へさよならをする物が多い。
それが影響しているのか、私は恋人と別れた時に「美しい」と感じてしまう。

基本的に私は、完璧な物が好きではない。

とんでもない美人さんの目鼻口の黄金比に感動するのではなく、そういう人の顔にあるホクロだったり、
近未来都市の背の高い建物やコンクリートに囲まれた街の中にある古びた赤いポストだったり、
そういう完璧を壊す部分に私は美しいと感じる。

それをこじらせてしまったせいなのか、私は恋愛において「別れ」を美しいと思ってしまう。
結婚願望もない私は、新しい恋人と付き合った日ですら、この人とはどんな別れをするんだろう。
それまでにどんな事が起きるんだろう。
そんな事に期待してしまってる。
要は変態だ。

そして私は今明大前駅の公園に来ている。

坂元裕二の「花束みたいな恋をした」の麦と絹は明大前で出会った。
カツセマサヒコの「夜明けの若者たち」の僕と彼女も明大前で出会った。

私の大好きな2人が書いた作品は明大前を舞台にしている。
俗に言う、聖地巡礼だ。
ちなみにその2つの作品のカップルも最後には別れる。

明大前にくればなにか起きるかなーって、空飛べるかなー?くらいの期待で来てみたが、なにも起きる気配はないまま時間が経っていく。
空なんて飛べるわけないんだから、何か起きるわけもない。
最近何も起きない結果、このnoteは2週間更新されなかった。
きっと私の人生を担当した脚本家さんは寝不足で私の人生を適当に書き上げて、編集者さんは片手間にその脚本を確認して、倒産寸前のキャスティング会社が私を選んだんだろう。
そりゃこんなもんな人生に仕上がるわけだ。

このまま帰るのもなんか負けた気がするから、下北沢まで歩いて洋服でも買って帰ろう。
そう思い、適当に決めたお店に入る。
なんとなーく服を見ていると、店員さんが私の視界に現れた。
イヤホンをしている私に声をかけてくる時点で、この店員の攻撃力は私の守備力を上回っていた。
白旗の代わりに私はイヤホンを外す。
どうやら私に似合いそうな服を持ってきてくれたようだ。

けど私は天邪鬼なのかわからないが、人に勧められた物は興味がなくなる。
映画も音楽も。
でもこの状況は逃げられないから、その服を渡された私は試着室に避難した。
追い込み漁の魚になった気分だ。

渡された服を着て鏡を見ると、似合っている気がした。
なんだかいつもと違う雰囲気の自分。
衣装を着たみたいにわくわくしていた。
「これ買います!」
そう言ってレジまで案内された私は、お財布をどこかに忘れたことに気がついて、慌てて携帯のPayPayで支払いをした。
別にお財布との別れに「美しい」なんて思うわけがない。
私の人生の脚本家さんよ、やっぱりあなた寝不足だから1回ちゃんと寝てから書いてください。

帰り道、前に職場の人にお勧めされた音楽を聴きながら電車に揺られていた。
家に着いたら、この間友達にお勧めされた映画も見てみよっと。

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