見出し画像

泳ぐ

シーツの海、とは上手いこと言ったもので、それは一人だとしても二人だとしても、夢の中を泳いだ形跡である。何度洗濯をして平らに直したとしても、この世界から離れてそこを泳ぐことを人はやめない。その度に揺さぶられて、ついには立てなくなったりもする。

室外機から漏れる水の流れを眺めながら、青空に立ち昇る煙を眺めながら、寄せては返す思考の波を、静かに渦巻く感情を抑えられずにいる。
哀しくも寂しくもない、でも楽しくもない。
それは日が高く昇ろうとも、夜の果てに墜ちようとも、そういう時は止められない、仕方がないこと。

あと一時間もすれば、地に足をつけて歩かねばならない。水に浸かった重い身体を引きずり出して、一歩、また一歩。泡になれなかった人魚が、声を失ったまま外の世界へ放り出されるみたいに。
そんなロマンチックなもんじゃない。

あと三時間もすれば、こんなこともすっかり忘れてしまうのだから。

#記録

:・❇︎ Thank you for reading ❇︎・: 最後まで読んでくれてありがとう