最大公約数を獲得するマーケティングの終わりの始まり
この記事は、フィードフォースグループAdvent Calender2021の25日目です。
昨日は、弊社のクリエイティブチームの鬼才、西尾さんの「『推しは心のストロングゼロ』 崖っぷちに立たされがちなオタク新卒が生き残るためにやったこと」でした。迸るボキャブラリーの幅に感動すら覚えました。。。わが社の新卒のポテンシャル、恐るべし。。。
最終日25日目ということで若干プレッシャーがないと言ったらうそになりますが、最終日だからなんなのだ?という心持で自由に書きたいことだけど書きたいと思います。
そんな私は、2020年1月よりフィードフォースグループにjoinしたアナグラムの代表です。私の仕事はリスティング広告などを筆頭とする運用型広告の運用代行や、インハウス支援、はたまた、我々の立場だからこそ見えるデータを元に事業のコンサルティングなどをする企業、アナグラムの経営です。
そんな私が一番好きな仕事は「トリガー」を見つける仕事です。トリガーというのは、引き金です。人はなぜ行動するのかの"きっかけ"だったり、事業をより加速度的に軌道に乗せたり、正常な状態へ導くために最もレバレッジの効く"レバー"を見つけることだったりします。時にそれは運用型広告の話ではなくなることの方が圧倒的に多いわけでして、経営のアドバイスから資金調達について、PMFから採用戦略あたりまでは日常茶飯でして、つまるところ、お前は何屋さんなのだ?とよく言われますが、その話はまた次の機会に。
さて、今日は表題通り、「最大公約数を獲得するマーケティングの終わりの始まり」という話をしたいと思います。IT業界は定期的にSEOも殺しちゃうし、SNSも運用型広告も殺しちゃうし、ついにはマーケティングまで殺してしまうのか、と言われてしまいそうですが、安心してください。私はなにも殺さないし、殺すつもりもないのだ。2021年、多くのサービスを目の当たりにし、時代の潮流を感じる部分があるので筆を執ります。
車好きに特化した別荘、HC VILLAGEの衝撃
10年来のお付き合いで尊敬する経営者である株式会社TAKE FRONTIERの佐野さんにお呼ばれしまして、2021年秋ごろ、車好きに特化した別荘、HC VILLAGEに行ってきました。佐野さんはHC VILLAGEの発起人です。HC VILLAGEの構想は企画段階のだいぶ前から聞いてはいましたが、車に無頓着な私にはその良さが全くわからず、ほぅほぅほぅと、ただ毎回頷くだけだったんですが、実物を目の当たりにしてその意味がわかったんですね。あ、これやべーやつだと思って鳥肌が立ちました。
HC VILLAGEとは、「愛車と暮らす」をそのままに実現するのがコンセプトです。ガラスに囲まれたガレージはリビングやダイニングから愛車を眺められるような構造になってます。つまり、夜な夜な、お酒を飲みながら愛車を眺めるのだとか。ナ ル ホ ド ネ!ナルホドネ!!
大丈夫!大丈夫です。戻ってきてください。きっとこの文章を読んでいる人、9割9分の人が意味がわからないと思います。はい、正直に言います。私も全くわからん!!でも、現地に行って入居されている方たちとも交流し、分かりました。これはマジもんのヤバいやつです。こういった極端に趣向が強い方々が世の中には結構いらっしゃるじゃないですか?その方々の需要を満たすグレイトなサービスなんです。
実際にHC VILLAGEはリリースを出すや否や、たくさんの専門誌やメディアから取材が殺到し、瞬く間に入居者が埋まってしまい、現在は来年以降に出来上がる棟まで予約が殺到している状況です。いやー凄い!
※実際に私が訪れた日も、内見者の方がいらっしゃり、自然にバーベキューに参加されてました。だれかのお友達なのかと勘違いするほどに車の話盛り上がっており、まさか初見の人だとはだれもが思いませんでしたよ。
この手の高級車は環境に悪いのでは?という疑問
ただ一つ疑問が残ります。この手の燃費の悪そうな高級車は環境に悪いと思ってませんか?SDGsやESGなどが叫ばれる昨今において、私自身も少し時代に逆境している感覚を覚えたのは事実です。ところが次の瞬間、その疑念は払しょくされます。
所有者の方々に話を聞くと、この手の高級車を所有されている方というのは実際に派手に乗り回すような人というのはそれほど多くなく、どちらかというとレアであると、観賞用として所有される方が大多数を占めているということでした。車というより、骨董品扱いなんだそうです。要は、HC VILLAGEは一種の骨董品を楽しめる場を提供しているに過ぎません。
大分前の記事にはなりますが、実際に高級車の代表的なLamborghini社の最高経営責任者(CEO)Stephan Winkelmann氏は排出ガス規制「無視」を公言していました。
Winkelmann氏はさらに、同社の自動車の平均燃費は1リットルあたり約5キロメートル(市街地と高速道路の値を合わせたもの)だが、それでも環境に大きな影響を与えることはないと述べている。「われわれの販売台数は非常に少なく(2007年の販売台数はわずか2604台にすぎない)、当社の顧客の平均走行距離は、1年あたりおよそ8000キロメートル程度だ。ゆえに影響はとても小さい」と同氏は語った。
実際に置いてあった真っ赤なフェラーリ(我、無頓着故、詳しい年代とかは知りませんが億円はするそうです)のメーターを見たらかなり前の型のはずなのに数千kmほどでした。なお、去年は一度もガソリンを満タンにしていないということだったので、その稼働状況が伺えます。つまり、その辺を走っているハイブリット車や軽自動車なんかよりもガソリンを消費していない可能性が高いです。
HC VILLAGEの凄さとは?
本題いきます。このビジネスの何が凄いかというと、高級車を好む方々の需要を満たし、環境にも配慮され、強いコミュニティを形成し、経済をしっかりと回しているということに尽きると思います。
現代はコロナ禍も多少なり影響し、これまでの人間関係がより希薄になってきたこともあり、人々はどこかにより強い繋がりを求めだしています。HC VILLAGEでは"高級車"を媒介として強烈なコミュニティーを形成しています。そういった繋がりはより強い趣向性を持った方々にとってはかけがえのないものになるでしょう。
また、コロナ禍で経済が回らないヤバさはみなさんも痛感しましたよね?お金はその価値を半永久的に保存できてしまうことが最大の発明だと言われています。つまり、腐らないんです。その性質がある限り、経済を回すためには、お金をたくさんお持ちの方には決して貯め込ませずに、気持ちよく使っていただくことがとても大事なんです。
これらのことを環境にも配慮されながら達成してしまうというHC VILLAGEのビジネスモデルは今後のビジネスのあり方を考える事例としての急先鋒というか、代表的なものになりうるんじゃないかと思いました。骨董品扱いのものといえば高級車もそうですが、ワインもアートも時計もその代表的なものといえるでしょうし、そういったジャンルにまだまだ可能性があるのだなと痛感させられました。
何かをすり減らさない消費、お金を使ってよかったと思える経験をどうやって作っていくか?が、多くの事業分野において求められているんです。
消費はより細切れになり、趣向性が深いものが増えていく。グレイトビジネスの台頭が加速する(半ば確信あり)
ビジネスとは継続性だと教えられました。私は商売人の息子であり、自身もその端くれとして、常に近江商人が言うところの三方良しを生きる基盤にしています。三方良しとは、売り手良し、買い手良し、世間良し、です。三方の誰かが我慢している商売はどこかで必ずガタが来ます。だからこそ、この三方良しこそが、継続的に発展するビジネスの根幹だと思うのですよね。
HC VILLAGEはこの三方良しどころか、全方良しと言えるかもしれません。誰も損をしていない、誰も何も傷つけていない、何も無駄に消費していない。この手のビジネスは資本主義市場ではビッグビジネスとは呼べないかもしれませんし、爆発的な富を生み出すようなビジネスではないでしょう。けれども、私はこういったビジネスこそがグレイトビジネスだなと思います。
最大公約数を狙うビッグビジネスもいいですが、その為に三方の何かを犠牲にすることが本当に継続性があるのかは今一度立ち止まって考える必要がある時代だと思います。私はこういった細分化されたより趣向性が強く、誰も傷つけない、無駄に消費しないグレイトビジネスこそが、それからの時代に台頭するだろうという半ば確信があります。
補足
HC VILLAGEに限らず、さまざまなジャンルでこの手のグレイトビジネスが台頭してきています。私がもう一つ衝撃を受けたのは「推しに恥じない身体を目指す」というコンセプトでオタク女性トレーナーが個別指導を行うオタク向け女性専門パーソナルトレーニングジムの「Clara」です。
推しに…恥じない身体…!!全くわからん!!すごい!!(グレイトビジネスの共通点は、だれかの全くわからん!だと思います)
通っている方に聞く限り、入会者殺到しまくっているということでした。私はClaraに通うことが出来ませんので詳細は書けませんが、私にはHC VILLAGEもClaraも、昨日西尾さんが紹介した推しをイメージした香水を作ってくれるCelesも、全く同じグレイトビジネスに見えています。
みなさんが知っているグレイトビジネスもぜひ教えてくださいね!
2021.12.26追記
決めること、というのはコストだという人がいるように、世の中の大多数の人々は自分で決めることができないことを考えると、マスマーケットが終わることはあり得ない。こだわりを持った一部の人々が自身の趣向を満たすグレイトビジネスを自身で見つけ出し、一部のマーケットのみで徐々にマスから離れていくだけに過ぎない。
一方で、クラフトビール市場をみるとわかりやすいのだが、企業側もこの流れをみすみす見逃すわけもなく、大手の参入がそれらの領域に相次いでいくだろう。どんなジャンルでも特定のブランドが広がれば広がるほど、隙間をついたこだわりのブランドが表れ、新たな市場を作り出す。こういった一連の流れは歴史を振り返れば一目瞭然であり、これからも続くいていくのだと思うが、近年、その嗜好性は本物でなければ、マーケットに相手にされることはないだろう。昨今はそれがより顕著に表れていると感じる。