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産総研、0.9 V以下の電解電圧で水から水素を製造する手法を実証:注目ニュース✨

発表日:2024年11月5日

産業技術総合研究所(産総研)が、従来1.23V必要だった水の電気分解を、わずか0.9V以下で実現する技術を開発しました。この成果は、水素製造コストを大幅に削減し、水素社会の実現を加速させる可能性を秘めています。

この記事では、この技術の詳細について詳しく説明していきたいと思いますので、ぜひ最後まで読んでみて下さい!

光触媒―電解ハイブリッドシステムによる水分解反応の概要

技術革新がもたらす水素製造の新時代

現在、グリーン水素の製造コストは1Nm³あたり約1,000円と言われていますが、本技術の実用化により、理論的には約30%のコスト削減が可能となります。これは、政府が2030年に目標として掲げる製造コスト30円/Nm³への道筋を示す重要な一歩となります。

なお、グリーンという色が名前に入っていますが、水素そのものに色が付いているわけではありません。色の由来については、アンモニアの記事で説明しているので、良ければ読んでみて下さい👇

技術の核心:光触媒-電解ハイブリッドシステム

本システムの革新性は以下の3点にあります:

  1. 二段階エネルギー変換プロセス
    太陽光エネルギーを化学エネルギーとして一時貯蔵し、必要時に水素製造に利用する独自の仕組みを構築。これにより、天候に左右されない安定した水素製造が可能となりました。

  2. 高性能光触媒シートの開発
    酸化タングステン(WO3)系光触媒を用いた大面積シート(330cm²)の開発に成功。10,000時間以上(太陽光照射約7年分相当)の耐久性を実証し、実用化に必要な長期安定性を確保しました。

  3. 革新的な電解システム
    従来のPEMセルを改良し、0.9V以下という低電圧での水素製造を実現。これにより、電力コストを従来比で最大30%削減できる可能性を示しました。

光触媒シート(25 cm2)を内包した反応槽の(A)外観写真および詳細構成、(B)PEMセルと組み合わせた流通型反応装置、および(C)0.9 V印加した条件での水素生成由来の電流値の試験結果。

実証実験が示す実用化への期待

野外実証実験では、日射量の変動下でも安定した水素製造が確認されました。特筆すべき点として:

  • 光エネルギー変換効率0.31%を達成(従来技術と同等)

  • 生成された化学エネルギーの2ヶ月以上の長期保持を確認

  • 理論値の98%という高い水素生成効率を実現

光触媒シート(330 cm2)を内包した反応槽を用いた実証実験の評価結果。

世界における位置づけと今後の展望

現在、世界の水素製造技術開発は、主に電解効率の向上に焦点を当てていますが、本技術は太陽光エネルギーの直接利用という新たなアプローチを提示しています。これは、特に日照条件の良い地域での水素製造に大きな可能性を開きます。

本技術開発は、2050年カーボンニュートラル実現に向けた重要な技術革新であり、日本の水素社会構築における重要なマイルストーンとなることが期待されます。実用化へ向けた取り組みが着実に進められており、2030年代での実用化を目指した研究開発が進められています。

専門用語解説

  • 光触媒:光エネルギーを利用して化学反応を促進する材料

  • PEMセル:固体高分子電解質膜を用いた高効率な水電解装置

  • Fe³⁺/Fe²⁺イオン:エネルギー貯蔵媒体として機能する鉄イオン

  • グリーン水素:再生可能エネルギーを用いて製造される環境負荷の少ない水素

  • カーボンニュートラル:CO2の排出と吸収が均衡した状態

#グリーン水素 #技術革新 #産業技術総合研究所 #脱炭素化 #水素エネルギー

参考文献


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