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【為政者の心得2】答えは、「管子」にあり。まずは六興から始めよ。

「徳に六興有り。義に七体有り。礼に八経有り。法に五務有り。権に三度(さんたく)有り」

管子(上)、遠藤哲夫著、株式会社明治書院、1989年、167ページ

中国の古典「管子」には、政治を正す5つの段階、「徳」「義」「礼」「法」「権」が記されています。為政者が善政を実現するためには、これらの段階を踏む必要があるとされています。具体的には、天下の王となるか否かは、人心を得るか失うかにかかっており、人心を得るためには人民の利益を優先させるべきであるとして「徳」が挙げられています。また、人民の教化は「義」と「礼」によるべきであり、「法」によって臣下や人民に任務を与えるべきだとされています。

約2700年前、斉の宰相として長く活躍した管仲は、「論語」の中でも孔子から「桓公は諸侯たちをまとめる時に武力を使わなかった。これは管仲のおかげだ」と評されています。この知恵は、現代の政治にも応用され、驚くべきものです。

では、善政を行うための第一歩である「徳」について見ていきましょう。
管仲は、「徳」を興すためには6つの手法(六興)があると述べています。

1 人民の生活を豊かにする(人民の厚生)

 耕作地の開墾、宅地造成、植林整備、勧業、励農、住宅の建設など

2 経済の発展

 物資開発、物流整備、道路補修、交易の奨励、旅行者の宿泊整備など

3 水利をよくする

 堤防や貯水池の整備、河川の浚渫、船着場や橋梁の整備など

4 政治を寛容にする

 力役や租税軽減、刑罰の減免など

5 人民の危急を救う

 高齢者扶養、孤児や一人暮らしの方への救済、病人への施療、災害救助など

6 人民の困窮を救う

 困っている方への衣服や食料提供、経済的な救済措置など

いかがでしょう。
これら六興は、国や地方行政において、現代でも重要な施策として位置付けられています。しかし、これらが単に機関の部署として存在しているだけでは、人民からの評価は得られません。

1に「人民の厚生」と記しました。「厚生」とは、「生きることを厚くする」と書き、古くは為政者が人民の生活を豊かにすることを意味していました。

管仲は生産力の向上に重きを置き、特に農業の発展を通じて国力を強化することを重要視していました。現代社会は、Society2.0の農耕社会からSociety5.0の先進テクノロジーを活用して経済発展と社会的課題解決を両立する人間中心の社会へと進展しています。つまり、現代社会は、引き続き、管仲が生きた時代の農業や林業政策も必要ですが、新たな時代のテクノロジーを駆使し、人民を豊かにするための産業政策が求められています。私は、管仲の言葉に触れ、これからの政治や地方行政、そして企業について、未来に向けた人間本意の社会でありながら、先端技術を活用し、今の時代も変わらずに「人々の厚生」を追求していくべきだと再認識させられました。

また、福祉政策に力を入れることも重要であり、特に少子高齢化が進む我が国においては、若者に対する雇用対策の充実や子育て支援の強化が求められています。
人々が安全・安心して豊かに暮らし、持続可能な社会を構築していくために、約2700年前の管仲の言葉は、私たちの政治や地方行政、そして企業の原点となり得ると思いました。

国づくり、地方づくりは、まず、「徳」を持って六興から始めるべきです。
私は、特に多くの課題を抱える政治や地方行政に対し、管仲が「人民のために仕事を行いなさい」と初心に帰ることの戒めをしてくれているように感じました。


管子

『管子』は古代中国の思想家、管仲に帰されるが、実際には戦国時代の多くの学者によって書かれたとされる文献です。法家、道家、雑家の思想が混在しており、経済や政治、哲学に関する幅広い内容が含まれています。特に「倉廩満ちて礼節を知り、衣食足りて栄辱を知る」という言葉は有名です。現存する76篇は、経言、外言、内言、短語、区言、雑篇、管子解、管子軽重の八類に分類され、社会経済史や農業技術史にも貴重な史料とされています。

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