人生に必要な「冗長性」という概念

先ごろ引退した、鶴のような美しいフォルムだった大型旅客機ボーイング747の開発者の自伝を読むと、良い旅客機にとってもっとも大切なコンセプトは「冗長性」だそうです。

冗長性。要するに「ムダ」とか「余分」ということです。上の本では、冗長性の例として飛行機のエンジンと燃料タンクを結ぶパイプを1本ではなく、もう1本予備のパイプを設けておく例が紹介されていました。予備のパイプは事故などの緊急事態の時しか使わないので、見方によってはムダといえばムダです。

誰でもムダは嫌いです。お金も時間もかかります。自分の得にならない人間関係もできれば切り捨てたいことでしょう。

ところが、人生何が起こるかわかりません。例えば仕事においてチャンスをもたらしてくれるのが、実や職場であまり好きではなかった人や、クセがあって手のかかる依頼人だったりします。また、リストラされた時に自分を救ったのが、やめようやめようと何度も思いながら続けていた習い事であったり趣味であることもあるのです。ある売れっ子の税理士は、実家の稼業が倒産した時に助かったのは、家族で集めていた趣味のレコードや文学書が高く売れたことだと振り返っていました。

また、「余計な配慮」というのも冗長性の一つかもしれません。夏目漱石は、帝国大学の講師をへて国民的作家と、華々しいキャリアを積みましたが、長い間コツコツと奨学金を返済していました。そして、締め切りより少し早めに入金していたそうです。また、漱石の妻、鏡子については、漱石の弟子が遊びに行くと、必ず2切れ皿にお菓子を出してくれたと弟子が述懐しています。

こうして考えてみると、冗長性というのは「他人に配慮したムダ」そして「必要か不必要かを即断しない余裕」といったものなのかもしれません。


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