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冬の匂いがすき。

朝方の、生命を感じないあの瞬間は、特に好き。

生き物がみんな、足元で暖かくなるのを待っているかのような。桜の花びらが、みんなで体を温め合っているかのような。

そんな季節の。

朝の匂いなのに心の暖かさを感じない。
ツンとした冬の匂い。
色のない香り。

あの瞬間がずっと続いたらと、冬はよく考える。
社会人になった今も、そう感じていることに今日の朝ふと気づいて、これを書いている。


そういえば、小学生の頃も似たようなことを感じていた。

小学生の頃、朝方に"落ち葉はき"をさせられていた。それは、小学校に登校したら、5年生と6年生がみんなのお手本だからという理由で"落ち葉はきをする"という一種の行事のようなものだった。

僕はそれが好きだった。

特に体育倉庫の裏によく通っていた。落ち葉の下で、暖をとるダンゴムシを探すためだ。"冬なのに生きている"ということに、見つけるごとに感動していた。

あの頃の僕は本当に純粋だったと思う

ノコギリクワガタを育てていた幼い頃の僕の中では、虫は冬になると死ぬというのが常識だった。それが、落ち葉という布団にうずくまって静かに生きていることに感動していた。

誰かの当たり前は、誰かの中では当たり前ではなくて、当たり前だと思っていることも、本当は当たり前じゃなかったりする。

それを幼い頃の僕は、分かっていたのかもしれない。その考え自体が大人になった時に、当たり前になることだったなんて、その時は思っていなかっただろうけど。

最近、小学校、中学校、高校と、戻れるならどこに戻りたいかと質問をされた。

僕は小学校と答えた。

席替えとかクラス替えが楽しみで
給食の、きな粉揚げパンが楽しみで
サンタクロースがプレゼントをくれて
休み時間にはサッカーボールを追いかけて
体育の時間が楽しみで
はしゃぎすぎて先生に怒られて
手を繋ぐのがドキドキするような子が1人いて
虫取りかごと虫網を持って蝶々を追いかけた

あの時間が、どうしても忘れられない。
忘れるべきことではないんだろうけど。

もう戻らない、自分の人生かも分からない、
いつ過ぎ去ったのかも、もはや分からない。


あの時間に戻りたい。

そんな一言にまとまるような、
まとまってしまうような
冬の匂いがすき。

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