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一人っ子からの芽

咳をしてもひとり。そう私は一人っ子。
時代とともに過ごした、一人っ子の恨みは昭和の哀愁が漂う。気取ってみた。

鍵っ子だったので、両親が帰ってくる夜7時までは基本的に1人で過ごす。夏休みはヒマなので嫌い。実家は町内の端っこにあったので、夏祭りに呼ばれる事も無し。結果、する事が無いので本を読む。勉強はしない。

冬、寒く凍える中を学校から帰宅する。当然、誰もいないので自宅は真っ暗闇。自宅とはいえ怖い。子どもには酷だ。
包丁を握って、自宅をチェックした事もある。二階でカタンと音がしたら、誰かがいるんじゃないかと怯えた。
「そこにいるのはわかってるんだからね!」
なんて、叫んだりして。泣ける。
庭に誰かが潜んでいる気がして、鉛筆やらバッグやらを暗闇に投げつける。泥棒を撃退したつもり。
翌朝、庭に文房具の花が咲く。

可哀想ねえ。寂しいねえ。よく言われた。
別に、一人っ子だからって寂しいなんて思ったことないなあ。面白いよ。ずっと私は言い返していた。母が悪く言われている気もしたから。

そんな暗黒の思いがあるから、メジャー町内のど真ん中に家を建てた。町内会、婦人会、夏祭り、廃品回収当番、ゴミ当番何するものぞ。
やりましょう、やりますとも。
お祭りの神輿だって、玄関に来てくれる。法被だってちゃんと事前に配布される。憧れの法被よ。やっと普通だ、なんて思った。

一人っ子は寂しかったか?
寂しかったかな。私はね。でも今は寂しくないよ。老後は気になるけどね。

娘が保育士を目指すらしい。保育所で私が迎えに来るまで、寂しくないようにずっと側に寄り添って遊んでくれた、先生のようになりたいそうだ。
責任ある大変な仕事だよ。でもとても嬉しく思うよ。