音で観るアニメ「小市民シリーズ」6話
さてはて難しい作品です。「小市民シリーズ」。
すごく繊細な作りです。
推理小説が原作とはいえ、推理は小道具のひとつに過ぎず、ストーリーに盛り上がる展開はない。
楽しむポイントはそこじゃないのでしょう。
それは、横長の独特の画角にも表れています。
映像作品として楽しめ、というメッセージだと、私は受け取りました。
特にこの6話は象徴的な話だと思いました。
なんと一話を通して主人公二人しか出てきません。二人のサシの駆け引きで話が出来ています。
つまり、まさにキャラと声優さんの演技と演出を楽しむための回。
それに、「シャルロットだけはぼくのもの」というサブタイトルがイカしてます。
そこで、今回は、その画と音を中心にして、色々と考えていきたいと思います。
基本的に作品全体を通してOPは別としてファンタジー要素を一切入れない実写のような画作りが特徴です。
下のシーンは、実は非現実の画です。
二人の動きを止めて、背景だけ実際にはいないはずの場所に短いカットで入れ替わるのです。この演出は作品全体を通して使われています。
<注:以下、ネタバレあります>
この時、よく聞くと蝉の音がだんだん大きくなっているのです。
そして現実に戻った時、絵が元の場所に戻るだけでなく、音も元に戻る違和感で「現実に戻った」と認識できるわけです。非常に微妙なのですが。
次は音とは違うのだけれど、気になったカットです。
ハンカチで汗を拭う、なんでもないカットですが、アニメで入れる意味を考えた時、「?」なのです。暑さを表現するには珍しくはないと思うのですが、文脈における違和感を覚えました。さらにこの後の小佐内さんのお宅の中でハンカチで汗を拭っています。
まさかこれがトリックを見破る(られる)伏線であるとは。
ケーキ屋さんの店内でのやり取りでは、残響音が違います。特に初期反射音に特徴があるようです。
もう一人の主人公、小佐内さんのお宅にて、電話のために部屋を出ていった小佐内さんに取り残された小鳩君。
横長の画角に変なパースの構図。彼の居心地の悪さを暗示するためのものかもしれません。
実写的な描写だからこそ、その違和感が強調されていると感じます。
あまり意識されない方がほとんどだと思いますが、エアコンに関するカットがいくつも出てきます。
そして、本当に微妙なのですが、エアコンが出てこないシーンの間でもエアコンの音が低く流れているのです。
視聴者がエアコンをつけていたら、いやこの時期(夏)絶対につけているでしょう。気づかないと思います。
ちなみに私はモニターヘッドフォンで視聴しました。
小佐内さんを待ちくたびれた小鳩君がシャルロットを堪能するシーン。
「甘いものはそれほど好きではない」という彼が、珍しくケーキに感動を覚えるのですが、グルメアニメかというくらいの尺の長さ、声優の梅田修一朗さんの演技の見せ所だと思います。
今回、小鳩君の心理や状況を文字で表すカットがいくつも出てきます。
その時セリフはない無音です。
基本静かな作風で、今回は特にそれが際立っていますが、無音が違和感なのです。なぜなら今までエアコンの音が低く入っているから。
あまり音楽に頼らない今回ですが、小鳩君がアリバイづくりをするシーンには音楽が入ります。
そしてそのアリバイを完成したところで終わります。
ちなみに「シャルロットは僕のもの」と決め台詞を吐くタイミングの間が絶妙。
この時の音楽の残響音(ディレイ)とかとても繊細なんですよ。その心理効果とか聞こえてないと意味がないと思うのですが。
ここでダメ押しのようにまたエアコン。
設定温度が27度と少し高めで、小佐内さんが設定温度を下げると小鳩君の髪が揺れ、エアコンの音が大きくなります。
これもまた伏線。
ここで小鳩君はアリバイのミスに気づきます。そこから不安を表現する音楽が流れ、途中からセリフの音声が消え音楽のみとなります。
そして、小鳩君がリカバリー工作を実行するときにSE(効果音)が入り、音楽が終わるとともにセリフ音声が復活します。
このように、今回は特に「音」がとても大事なファクターになっていると考えられます。
しかし、このリカバリー工作が裏目に出て、小佐内さんに犯行がバレてしまいます。バレた理由、それはハンカチでした。
「でも食べたことはあるんでしょ?」と反撃を開始します。
さあ、ここから声優、羊宮妃那(ようみや ひな)さんの演技が光りますよ。怖い。
ここで恒例の背景入れ替わり非現実シーンが始まります。
先ほどの蝉の声と同じように、両者のアップのカットごとに川の水の流れる音が大きくなり、突然途切れて現実のシーンに戻ります。
このわずかな間で小鳩君は反抗は不可能と判断し負けを認めるのですが、ここからのやりとりが気が利いています。さすがは小説原作。
回転する画面で、心の奥底を問い詰められる小鳩君。怖い。
そしてなぜかこれまで聞こえなかった蝉の声が遠くでしているんです。意味はわからないのですが。
そして、スプーンでカップを「キーン」と鳴らし、最後の質問をする小佐内さん。
2度目の「キーン」の音で譲歩条件を提案する小佐内さん。
これほど怖い「キーン」があるでしょうか。絶対支配者の暴力とすら感じます。
選択肢はない小鳩君。
この間もエアコンの音が。
ラストシーン。
二人が立っている位置で、残響音が違うんですよね。細かい。
さて、このアニメで、今回が重要だと思ったのは、このラストシーンのやりとりです。
この二人の関係性、とても普通の高校生のものとは思えません。
「小市民を目指す」という凡夫には意味不明に近い目的があってつるんでいるのは明示されてしましたが、それだけでこれだけいつも一緒にいるわけがありません。
でも、小鳩君がある意味でマゾヒストであることがこれでわかりました。
知恵比べで負けて当然なリスクテイキングするようなパーソナリティです。
しかも誰でも良いわけではありません。小佐内さんだからです。
一方の小佐内さんは物理的にもサディストです。
つまり二人の関係は精神性の高い性的倒錯によるものである、ということが判明したわけです。不気味なほどに世俗のかけらすら感じさせないのはそこから来るのでしょう。
シャルロットとはフランス語で「可愛らしい小物」を意味するらしいのですが、今回のサブタイトル「シャルロットだけはぼくのもの」は、小佐内さんから見た小鳩君のことなのかもしれません。
それにしても、演出が繊細すぎるような、映画館だったら通用するような。
この作品、広く一般的に低評価と聞いたことがあるのですが、さもありなん。
「わかる人にわかれば良い」という潔さを感じます。
以上、「小市民シリーズ」第6話の感想でした。