私的推薦盤~青木智仁『Experience』
最初に採り上げるとしたら、これしかないというのが青木智仁の『Experience』。私が最も敬愛するベーシストである。
わずか2枚しかアルバムを発表していないが、レコーディングに参加した数となると本当に枚挙にいとまがない。
なぜ彼を知ったかと言うと、原因は私の性格にある。私は生来の貧乏性で、中学からレコードやCDを買うたびに、そのクレジットまですみずみと見る癖があった。誰が参加しているのか、このギターは誰が弾いているのか、などなど、とにかく名前を見るのが日常だった。その時によく見かけた名前の一人が青木智仁だったのである。一番印象に残っているのが、角松敏生の「Tokyo Tower」だった(青木智仁が角松敏生の盟友であることを知ったのはそれからしばらく経ってからである)。
その後、Nobu Caineでの活躍などを通して彼の活躍は知ってはいたのだが、2000年に発売された『Experience』を「ベースマガジン」で知って即購入。1曲目の「Finger Tough」から度肝を抜かれた。キレのあるホーンセクションから始まり、怒涛のベースラインに圧倒され、2曲目の「Bottom Line」の豪華絢爛なサウンドにため息が出て、あとはもうあっという間に全部聴き通してしまった。参加ミュージシャンもまぁ豪華だこと。本田雅人と勝田一樹のサックスバトルが聴けるのは他にあるのかと思うくらいだし、あの渡辺貞夫も参加している。当然のことながら角松敏生も参加している。ボーカル曲は1曲だけ。「Come on, Come over」は、男性二人のデュオ(その一人の近藤房之介のバンドでも青木智仁の姿が見られた)。他にも一流どころのスタジオミュージシャンがずらりと並び、彼の人脈のすごさが窺い知れる。もっともこの人脈も、彼が職人肌のミュージシャンとして幅広く信頼されていたからこそ構築されたものに他ならないわけだけれども……。
残念なことに2006年6月に急性心不全で49歳の若さで亡くなられた。その数日前に行われたライブは私も会場に足を運んでいる。彼が使用するベースAtelier Zの社長いわく、秋には新曲をひっさげ、数日間ライブを行ってアルバムも発表する予定もあったのだとか。オープニングで演奏された「Chicken Wings」はたった一回しか聴いていないのにいまだに耳に残っている。つくづくアルバムで聴きたかったというのが偽らざる本音である。
Four of a KindやSourceといったユニット名義のものもあるし、彼が亡くなる前に発表された角松のアルバムではほぼすべてに参加している。ハイパーサックス奏者、本田雅人のアルバムやライブでも欠かせない存在だった。今でも昔の音源を掘り起こせば随所で彼の音源に触れることができるのはありがたいのだが、やっぱり私はこの『Experience』は彼の作品として一つの集大成だと信じて疑わない。ファンク色あり、ブルース色あり、フュージョン色ありと、インスト好きの私には何年たってもまったく色あせない作品なのである。
トップ画は、私が所有するAtelier Zの青木智仁モデル、M245とM265FLである。