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酒蔵記事を書くときのテーマ曲(日本酒専門誌・酒蔵萬流/記事別)

日本酒業界の超ニッチな専門誌「酒蔵萬流」。季刊誌(年4回)1冊につき7酒蔵+機器メーカー+コラム等を掲載。商品CM/商品写真一切ナシ。インタビュー相手は基本的に社長(或いは準ずる方)。読者は主に、蔵元さん、杜氏さんなど、実際に蔵の中で酒造りに携わる人たちです。

というのも、この雑誌は岡山の精米機メーカー新中野工業さんが、「情報が容易に取得できるようになり良い点ばかりでなく、流行にながされ、酒質が均一化され埋没していく欠点も加速している。蔵それぞれの個性を見直すため、川上にある酒蔵自身に問いかけていく」ことを目的として発刊されました。

8年目を迎えた「酒蔵萬流」は、先輩ライターおふたりが形作ってきましたが、新しい風を入れようと2年前に新人を投入。その1人がわたしです。

ライターの仕事は、現地を訪れる前の調査→現地での取材→テープ起こし→執筆、です。酒蔵さんへの取材は、だいたい仕込中の冬期間におこない、蒸米をとる前後の早朝(6~7時)から伺って、午前中いっぱい密着します。一語一句聞き逃さないよう、一挙手一投足を見逃さないよう張り付きます。大小、新旧、どの蔵が優れている、とかでなくそれぞれのやり方があり、素晴らしい個性を持っています。事情を抱えながら、解決に向けて動く姿をありのまま描いています。

「良さが伝わるよう、他の蔵の参考になるよう的確な記事を書きたい!!」と情熱をもって臨むものの、気持ちに技術が追い付かなくて、毎記事泣きながら執筆しています。。色んなタイプのライターさんがいると思いますが、わたしは心身丸ごとそこに入ってしまうタイプ(特にこの雑誌は)。「●●酒造さえいれば!君しか見えない!愛してる!」みたいな状態で書いています。

そんなわたしを応援してくれるのが、没入するためのテーマ曲。最初は、意識して設定したわけではなくて、自然とエンドレスリピートしていたのがキッカケでした。歌詞そのものが内容とリンクしている時もあるし、曲調がリンクしている時も。その時の個人的な気分や季節が影響しているものもあります。以下に挙げた曲にプラスして、葉加瀬さんの「情熱大陸」、スガ シカオ「Progress」はマストやる気ミュージックです。頭の中で番組のナレーションをイメージして執筆するの、おすすめです。

李白酒造 ▪2020年冬号 第24号

島根から世界の「定番の酒」を目指す

独り立ちして初の記事。知り合いの田中社長の所だったから、ホッとしたのを覚えています。「突出した個性を無くす」という田中社長の理念は、一周回ってかえって新鮮で今でも印象に残っています。元々好きな”やる気スイッチ曲”だったのと、国の成り立ち、酒の誕生に深く関わる島根県の酒蔵だから三味線の音色だったのかも。

ヤヱガキ酒造 ▪2020年冬号 第24号

日本酒、発酵機器、バイオを通じて日本の美学と日本酒のおいしさを伝える

製造と経営が完全に分離していて、今まで訪れてきた蔵と違うタイプだったから、書くのに結構苦労したヤヱガキ酒造さん。最終的には、播磨の酒蔵さんを特集した本の中で、長谷川会長が「私は婿だが、直系であるうちの息子(長谷川社長)は思い入れが深いらしい。自分の長男にも初代の名を付けた」という一文を読んで、不器用な表情の裏側に隠された深い愛情に触れて「ダーリンダーリン♪いろんな顔を持つ君を知ってるよ~♪」と聞きながら、一気に書き進めていきました。

廣木酒造本店 ▪2020年春号 第25号

「蔵元杜氏という憧れ」を創り出した慢心なく
今なお走り続ける「時代のパイオニア」

まさか取材であの「飛露喜」を訪れる日が来るとは。ライター人生もう終わっていいや(ダメ)とさえ思った回でした。しかも前乗りした喜多方で、たまたま鶴乃江酒造さんにお邪魔させていただいたら、その晩酒造組合のパーティがあるということで参加させて貰って、そこでたまたま数年ぶりに来た宮泉銘醸の義弘さんと会って、飲みに連れて行ってもらって。奇跡や運命を感じる夜でした。義弘さんのアドバイスのおかげで、翌日の取材もスムーズに。廣木さんは圧倒的な才能の持ち主にも関わらず、腰が低くて常に学び考え続けていて。あんなの凄すぎる。。本当に本当に頭が下がります。わたしの財産となった取材でした。

青木酒造 ▪2020年春号 第25号

一躍地元から羽ばたき 造り手の顔が浮かぶ「笑顔になれる酒」を届ける

以前から交流があった青木さん。改めて取材できるのか、と意気込んでいきました。話を聞けば聞くほど、アットホームであったかい雰囲気の酒蔵で。自身の意思で看護師を辞めて実家に戻ったちささんの愛嬌と営業力から、一躍表舞台に出てきた流れ。味わいを築いてきた杜氏さん。先代も押し付けない方針だったと言い、今では自主性に任せ見守りながら経営する優しい社長。人間にスポットが当たる蔵でした。執筆期間中、春も近かったことからこの曲。

林本店 ▪2020年春号 第25号

常に時代をとらえ、新しいアプローチで次代の酒を模索し続ける

社長なのに女人禁制といわれ蔵に入れてもらえなくて、古参の蔵人たちに全然話を聞いてもらえなかったとか。林社長のあまりに辛い孤軍奮闘していた過去のお話し、今思い出すだけでも「封建的な酒蔵では本当に事実としてそういうことがあったのだ」と、女性として苦しくなります。製造本部長の佐藤さんを紹介され相棒&相談相手になってくれたところから、一つずつ乗り越え築いてきた軌跡は「強い女性だなぁ」と胸が熱くなります。きっとこの頃「テセウスの船」のドラマにハマってたんだなぁ。

小玉醸造 ▪2020年秋号 第26号

秋田流生酛が生んだ、時代の先駆け「酒は天下の太平山」

ただひと言「華麗なる一族」!立派な建物を見て、小玉家の由緒正しい家系や歴史や、地域への貢献などを知ると「ハハー」とひれ伏したくなります。案内された応接間も、雰囲気があって緊張したなー。昭和時代に秋田で初めて首都圏に打って出て。その際起用されたコピーは「酒は天下の太平山」ですよ。すんごいと思いませんか。それなのに小玉社長はガッチリ酒造りに携わってきた現場の人。とても親切に優しく接してくれて、丁寧にご案内&ご説明下さいました。本当に育ちの良い人は総じて優しいのだ、と思い「仁のテーマ」であるこの曲を聞きながら、歴史の上に現在がある、と感じながら執筆しました。

君の井酒造 ▪2020年秋号 第26号

途絶えることなく培ってきた山廃技術を強みに
妙高の風土を世界に届ける

山廃のイメージがある「君の井」。ホーロータンクを日本ではじめて(何蔵かで)使い始めた蔵でもあります。1842年創業。歴史があるイメージでしたが、古い情報はあまり残っていなかったということで、田中専務が必死に掘り起こした。これは後々に効いてくる、絶対に超重要な財産になると痛く感動しました。控えめですごく気遣いされる田中専務は、過去一のたくさんの資料コピーを下さいました。実はコレがわたしの宝物になり、とても勉強させていただきました。酒蔵は清涼飲料水や他国から伝来した飲料とちがって、歴史の上に積み上げていく。常に先人たちと共に酒造りをしているのだ、と感じた回だったので、こちらもドラマ「仁」の主題歌。

大和川酒造店「弥右衛門」 ▪2021年冬号 第27号

福島を思い、喜多方の地に根をおろす「完全自給の蔵」を目指して

3.11をキッカケに、どでかい信念と夢を抱き、挑戦を続ける蔵。完全自給の蔵。見据えるものが大きくて、痺れました。壮大で、あまりにもカッコいい。社長、会長の兄弟から、杜氏、専務というご兄弟にバトンが渡っていく未来を想い「正義のための戦いは続いていく」…そんなこの曲を聞きながら書き上げました。

天鷹酒造 ▪2021年冬号 第27号

地域の安心・安全を守り、美しい田園を残すため「有機」に願いを託す

天鷹が美味しいのは知っていました。でも中でも「有機日本酒」って良さがわからなくて、とっつきにくかったんです。なんだろう?なぜだろう?輸出対応のためかな?って思ったけど、全然違いました。衛生管理に基準を設けて外部からの目を入れることで、徹底すること。地域の自然・資源を後世に残すため。だから有機なのだ、と明確に答えられた時、ぐうの音も出ませんでした。子供たち、孫たち、ひ孫たちの姿を思い描き酒造り/地域づくりをする姿から、自然とこの「to U」を聞いていました。

松崎酒造 2021年春号 第28号

気負いから解放された先に見つけた、自分らしい酒造り
駆け抜けてきた10年、そしてこれからの10年

特に思い入れのある酒蔵でした。同い年のまっちゃん。ライターになる前のただの日本酒好きだった私が、蔵に帰って酒造りして縁あって東京に出し始めたばかりのまっちゃんと試飲会で出会い話した時、目も合わせてくれず「嫌われてるなー」って思いました。その頃の話を彼の口から「県外に出るだけでも緊張して、どうしていいか分からなかった」と、10年弱越しに聞くことができました。同級生というだけで年齢や苦悩など、少しリンクする部分があります。時代背景を、計算しなくても理解できます。等身大の苦労を知り、今の圧倒的な酒質の良さ、堂々と喋る彼の変化を見ると、心のなかに春風が吹くような思いでした。お互いの10年に花束を、そんな曲です。

天領盃酒造 2021年夏号 第29号

類まれなるセンスを武器に 邁進する若き挑戦者

「肩透かしにあわないぞ!」という意気込みと、ワクワクする好奇心と少しのノスタルジーを持って佐渡島に行きました。酒造とまったく無関係の外資系企業から転身、24歳で酒蔵を買収した加登くん。以前六本木でおこなわれた「ホリエモン万博」でちらっとお会いしていたけど、取材となると手ごわそうだな、と。しかし心配をよそに、彼はすっかり杜氏さんでした。もちろん経営者としての明るい夢も抱きながら、使い勝手の悪い蔵で悪戦苦闘する等身大の様子に拍子抜けしました。日本酒を好きになった頃の自分を思い出し、どうしても応援したい、と情熱をかき立てられました。加登くんにはそういう力があります。

小江戸鏡山酒造 ▪2021年秋号 第30号

マイクロブルワリーの先駆者「川越の地酒を再び」
望まれ立ち上げた新蔵

日本酒業界に入った頃から知っている蔵。私がOLしながら副業でバイトしていた日本酒BARで、五十嵐さんが酒の会をしてくれたり。一気に全国的人気を獲得していく「鏡山」を見ていました。蔵も醤油蔵ごしに見たことがある。しかし設立された経緯を詳しく聞くと、綺麗ごとばかりでない事情も知りました。酒蔵あるあるです。記事には書けなかったことも沢山あります。サビに盛り上がりのある曲なのでその勢いに乗せて、蔵の方々が想像もしなかったブレイクの様子とか、その後の取り組み、これからの可能性を描きました。

泉酒造 ▪2022年冬号 第31号

神戸に「愛郷心」という灯りをともした復活蔵
従業員一丸となって成長し続けながら歩む道のり

2017年に一度、しっかりお話を聞かせていただいてる神戸の酒蔵。私は現在フリーライターのかたわら「播州一献」でも働いているので、同じ兵庫県の酒蔵ということで一緒に取り組みをすることもあって、直接会う機会は少なくともとても近しい存在です。取材前も「関さんなら安心」と和氣杜氏からメッセージもらい、期待に応えたい!!と気合入れて臨みました。想像以上に「会社一丸となって」いて、酒蔵とは思えないくらいフラットで優しい世界が広がっていて。優しい旋律、「僕らは~♪」から始まるサビ、未来にも繋がるような余韻を残したメロディのこの曲を聞きながら執筆しました。

白藤酒造 ▪2022年春号 第32号

仲睦まじい夫婦の姿と能登の風景が浮かぶ温かな味わい
「夫婦ふたりで酒を醸す営み」という幸せ

夫婦ふたりで酒を醸す姿と目にしてから、今後目指すべき姿をお聞きして「こういう生き方もあるのだ。蔵のあるべき姿や人の幸せはそれぞれ全く異なるのだ」と人生に思いを馳せました。もちろん個人の性格や野心の高さもありますが、地方の酒蔵のひとつの結論のようにも思えました。ふたりで歩みを同じにして進んでいくことは、どれだけ貴重なことだろう。未だに、心の中に問いを投げかけられ続けている気分です。

阿部酒造 ▪2022年春号 第32号

業界の常識にとらわれず「発酵を楽しみ、圧倒的にうまい酒を醸す」

1988年生まれの阿部くん。ペーペーだった私もいつしか、年下の蔵元さんを取材する機会が出てきました。ライターではあまりいないにせよ、後ろを振り向けばSNSなどで日本酒をPRする年下の子たちがいます。日本酒業界はもちろん右肩下がりを止められずにいます。人口や嗜好を考慮すればそれは仕方ないこと。だけど駆け抜けてきた若き自分を思い、彼らの存在を見て、将来をちょっとだけ楽観視してもいいかな、という希望を持てたりします。新しい価値観と考え方で、酒造業界を同世代に近しいものにしていく人たちがこれからもっともっと出てきます。「いやぁ~、こりゃあ痛快だねぇ!」と感じた取材でした。


私個人としてはこれ以外にも、たくさんの酒蔵さんのご協力を得て、様々なお仕事を手掛けています。なかでも「酒蔵萬流」は一層の緊張感と重圧があって、それでも楽しみなお仕事です。リリースされている分(最後2蔵は2022年4月春号掲載)で、15蔵を訪ねました。


ご興味のある方は、「酒蔵萬流」1冊880円(税込/送料110円)。年間購読¥3,520(税込/送料込)です。破格の内容。ぜひお申込みの上、永久保存版として熟読ください。次はどんな出逢いが待っているのか。ますます精進し技術力をアップさせて、酒蔵や日本酒の素晴らしさが多くの方に伝わるよう頑張っていきます。(END)

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