見出し画像

「秋田『柴灯まつり』から感じる、日本酒の心」関友美の連載コラム(リカーズ6月号)

 全国の酒蔵が出品用の大吟醸を搾りはじめる2月。秋田県PRのため、インフルエンサーとして秋田県庁さんにご招待いただき、行ってきました。県内にある数蔵おうかがいした中で、男鹿市では新しくできたクラフトサケ醸造所『稲とアガベ』と、みちのく五大雪まつりのひとつ『なまはげ柴灯(せど)まつり』へ。クラフトサケについては別途お伝えするとして、今回は思いがけず心に残った『柴灯まつり』について記そうと思います。

『柴灯まつり』にて、山から下りてきたばかりのなまはげ

なまはげは秋田の伝統行事・・・という程度の浅い知識でしたが、調べてみると、秋田の中でも男鹿で生まれ男鹿にだけ残る伝統なのだそう。柴灯まつりは900年以上前から毎年1月3日に真山神社で行われている神事『柴(さい)灯(とう)祭(さい)』と、『なまはげ』を組み合わせた冬の観光行事。今回で60回目を迎えました。

そもそもメインを飾る『なまはげ』とは、無病息災・田畑の実り・山の幸・海の幸をもたらす来訪神です。1978年『男鹿のナマハゲ』として国重要無形民俗文化財に指定。2018年にはユネスコ無形文化遺産に登録されました。毎年大晦日の夜に、集落の青年たちがナマハゲに扮して各家庭を回ります。「泣く子はいねが~!親の言うこど聞がね子はいねが~!」「ここの家の嫁は早起きするが~!」と大声で叫びながら怠け心を戒めに来るので、迎える家では、昔から伝わる作法に則り料理や酒を準備して丁重にもてなします。

なまはげにもてなされるお膳(これに大量の日本酒が加わる)

翌年の大いなる実りを願うわけですから、気合いが入りすぎて、酒を大盤振る舞いする家もあるらしく、『なまはげ』はみんな徐々にベロベロに酔っ払っていきます。だから2人1チームで、せいぜい2,3軒の家庭を回るのが限界だとか。これが毎年ですから。男鹿に生まれた以上は大晦日に格闘技やお笑い番組を見たい気持ちをグッと堪え、他の予定を入れることなく、毎年青年たちは儀式を通して我が身に神をおろし、町内のみんなの安泰のため、体を張るのです。これが、男鹿の約85の町内で続けられているというから驚き!日本という島国は、こうして団結を深め、農業や漁業にいそしみ、歴史を重ねてきたのでしょう。

なまはげ太鼓のステージの様子

昨今では全国各地で、外から移住してきた人たちと地元の人たちとでトラブルになるケースが多発していると聞きます。一次産業に就く人が少なくなり、個の権利を主張する時代になった今、こうした習わしは一見すると旧時代的です。でもすべてを刷新した時、日本のアイデンティティはどこに残るでしょう。地方の町に伝統の継承を任せっきりで、都会での自由な暮らしに慣れながら日本の良さを語る自分に少し反省し、課題を残す旅となりました。それでも肌で感じ、伝え続けることに意味がある、と信じて次の日本酒旅へと移ります。
 

今月の酒蔵

菊正宗酒造(兵庫県)
兵庫県神戸市”灘五郷”に位置する、万治2(1659)年創業の酒蔵。現在に繋がる日本酒の歴史を形作ってきた。江戸時代より守りつづけた「生酛造り」で醸した酒は、旨味のある辛口。現在では化粧品事業も順調で、日本酒愛好家以外の多くの人々から、年齢や性別を超えて愛されている。2018年、130年ぶりにリリースした新ブランド「百黙」も人気で、「菊正宗」ブランドとは異なる華やかな香りが特徴だ。温故知新の精神を感じる、進化し続ける銘酒蔵のひとつといえる。

以上

庄司酒店発刊「リカーズ」連載日本酒コラム
関友美の「そうだ。日本酒を飲もう。」6月号より

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?