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君が僕の【帆】で、僕が君の【錨】になればと思っていますよ

「あかねさんは、船をビュンビュン進める【帆】だよね」
恋人にそう言われた時、私は腑におちた。
ものすごい推進力で物事を進めていくからこそ、気づいたら元の場所には帰り着けないほど遠くに来てしまっていることがある。
「あかねさんとは逆で、僕は腰が重いから、(船が漂流しないように)重石の役割をする【錨】になれたらいいな」
彼はことあるごとにそう言って、暴走しそうな私にブレーキをかけた。

***

とある日、ルノルマンカードで趣味の占いをしていたら【船】のカード(No.3)と【錨】のカード(No.35)が隣り合わせで出てきて、思わず「えっ!」と声を出した。
たいていの占いでは、自分を【淑女】のカードに、相手を【紳士】のカードに見立てる。そして【淑女(自分)】と【紳士(相手)】のカード間の距離が、心理的な距離とされていた。
でも、私は彼に先述の発言をされてから【船】を自分に、【錨】を恋人に見立てることしかできなくなった。だから、自分と恋人の距離は〝ゼロ距離〟なのだと悟った。入籍に向けて話がトントン拍子に進んだのは、そのわずか数ヶ月以内のことだった。

***

記念日に結婚指輪を買いに行くと、とつぜん「裏に刻印を彫ることができます(数字とアルファベット大文字ならなんでもOK)」と言われた。
あまりの自由度の高さに、私が迷っていると
「入籍される日付と、お名前を入れる方がほとんどです」と店員さんが慣れたように告げた。
それでも優柔不断を発揮する私をよそに、彼はスマホで何か文字を打つと「これとかどうかな?」と言って画面を見せた。
そこに書いてあったのは

「SHIP」×「ANCHOR」

の文字だった。
ほとんどの人が入籍日を刻印するなか、私たちは入籍して何周年かすぐわかるように「入籍年」をアルファベットの前に冠することにした(入籍日は彼ゆかりの日であり、忘れることはないため)。これももちろん、忘れっぽい人間なりに記念の年を忘れまいとする、彼の案だ。

おじいちゃんおばあちゃんになって「SHIP」と「ANCHOR」のつづりがわからなくなって、たとえば2080年から入籍年を引いたら何年か?暗算できなくなっても、この刻印にかけた思いは忘れない。

私は一生あなたを牽引する帆でいるから、あなたは一生私を牽制する錨であってください。いざという時あなたが引き止めてくれるなら、安心して突き進んでいくから覚悟しといてね。

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寂寥の雨
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