![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/120582233/rectangle_large_type_2_c943259b2c035fd79110feb274f3da28.png?width=1200)
綿帽子 第十三話
「点滴が一つ減った!!」
何が減ったのか内容は分からないが、気分は少し良くなるものだ。
血圧が100を越えて安定するようになってきた。
まだ時々100以下に落ち込んだりもするのだが、段々と落ち着いてきたようだ。
少し前に先生から心臓のエコー検査の結果を聞いた。
「少々心臓の動きが悪くなってるようです」
「でも、心配するほどのことじゃありませんから」
そう言って先生は立ち去った。
果たしてそれをどう捉えたら良いのだろう。
言葉通りに素直に受け止められたら良いのだが、入院中に物事全てを良い方向に捉えるのは困難を極める。
どんなにポジティブになろうとしても、この白い空間の中では全てが無駄に思えて仕方がないのだ。
夕方またお袋がグレープフルーツを持ってきてくれる。
今の全ての癒しはグレープフルーツであり、俺はそれを昨日から引きずっている。
夜中に心臓の動悸が来て、ナースコールを押した。
しばらくして夜勤の看護師さんが来てくれた。
顔馴染みの看護師さんなので、安心はしたものの苦しいのは変わらない。
看護師さんに脈を測ってもらう。
「ああ〜これは苦しいね、これだけ速いと苦しいよね。ちょっと待って、直ぐに先生を呼んで来るから」
そう言って看護師さんは部屋を出て行った。
「良かった、それにしても苦しい」
「早く先生来てくれないかな、あの看護師さんで良かった」
「もう少し待てば楽になる大丈夫だ」
心の中で何度もそう呟いた。
しかし先生は来ない、待てども待てども先生は来ない。
「看護師さん一体何やってるんだろう?出て行ってから大分経つよな、いつまで待てば良いのかな」
「でも、先生だって忙しいよな、苦しいけど頑張って待とう」
そう思って俺は必死に耐えた。
段々と苦しさで全てがどうだっていいように思えてきたけれど、俺は待った。
それでも先生は来ない。
もう一度ナースコールを押してみるが返事はない。
ここで、俺はようやく気が付いた。
この記事が参加している募集
私の記事をここまでご覧くださりありがとう御座います。いただいたサポートはクリエイター活動の源として有意義に使わさせていただきます。大感謝です!!