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<灯台紀行・旅日誌>2020年度版

<灯台紀行・旅日誌>2020年度版

福島・茨城編#11 日立灯台撮影1

岬を下りた。小名浜の市街地を抜け、常磐道いわき湯本インターへ向かった。むろんナビの指示に従ってだ。この間、二、三十分かかったのだろうか、高速に入るまでが長かったような気がする。あとは、日立北を過ぎてからの、断続的なトンネル走行だ。少し気を使ったし、難工事だったのだろうな、などとも思った。<どこまで行っても日立>という言葉も頭に浮かんできて、走りながら、思い出し笑いしていた。

若い頃、生活のために、軽トラの運転手をやっていた。時々、日立や北茨城へ行く仕事が回ってきた。行きは、荷主が高速代を負担してくれる。だが、帰りは出ない。したがって、のんびり一般道を走って帰ってくる。当時、常磐道は、日立南太田あたりまでだったと思う。あとは、6号線を行くしかない。ナビなどない時代、地図を見ながら走っている。日立という文字が出てくると、着地がそろそろだなと思う。ところが、そこからが長い!日立の市街地は、六号線沿いに、延々と続いている。<どこまで行っても日立>の所以だ。

配車センターでの、退屈まぎれの雑談で、この話になると、運転手はみな経験しているから、中には、面白おかしく、この言葉に抑揚をつけて、おどけて見せる奴もいる。狭い部屋が、どっと笑いに包まれる。もっとも、首都圏から日立辺りまでの仕事なら、御の字で、帰りの高速代が出ないとしても、悪い仕事ではない。むろん、運転手たちはそれを承知しているから、笑いの種にもできるわけだ。もっとシビアな仕事なら、その方が多いのだが、冗談も出ないし、話題にさえしたくない。

常磐道下りを、日立南太田で降りた。たしか¥1500くらいだったと思う。運転手をやっていたころは、料金所で払う高速代が、いちいち気になっていた。だが、今は、ほとんど気にもならない。と、どこかで見たような光景が目の前に広がっていた。正面に海が見える。日立灯台は、もう間近で、何回もマップシュミレーションした道路を実際に走っている。海沿いの広い道から、普通なら見落としてしまうような狭い道へと、当たり前のように右折した。さらに右折すると、お目当ての公園の駐車場が見えた。

日立灯台は、古房地(こぼうち)公園の中に立っている。ここは、断崖沿いの、縦長の公園で、きれいに整備されている。付近が住宅地なので、七、八台は止められる駐車場がありがたい。さっそく駐車して、装備を整え、撮影開始。と、その前に、駐車場の横にある公衆便所で、用を足した。それなりの臭いはした。

まずは、灯台の周りを、360度、左回りに回りながら、撮り歩きした。敷地が広いので、灯台付近にあるテーブルやベンチ、遊具などは、さほど気にならない。ただ、北側が狭く、しかも、松の木や街灯などがあり、全景写真がやや難しい。あとは、公園を囲っている柵が低木に覆われているうえに、多少の高さがあるので、海が見えない。

もっとも、北側の柵越しに、海が少し見えるところもある。自分としては、できれば、灯台写真には、海を入れたいので、少し残念な気持ちになったわけだ。だが、その後すぐに、駐車場の後ろにある、見晴らし用の小山から、海が少し入ることがわかった。ま、この時は、知らなかったのだ。さらに、公園の北西側には道路があり、道沿いに住宅が並んでいる。この辺りからは、松の木や遊具が多少邪魔になる。

いちおうひと回りして、撮影ポイントを、三、四か所、頭の中に入れた。そこで、公園に背中を向けて、下調べしてあった、南側の<久慈浜>の方へ行った。その時に、駐車場の後ろにあった、見晴らし用の小山を見つけて登ったわけだ。唯一、日立灯台が水平線とクロスする場所で、しかも、小山の上には、コンクリの正方形のテーブルとベンチが置かれていた。三脚を立てて、ゆっくり撮れる場所だ。カメラバックをおろして、一息入れたような気もするが、どうだろう、そのまま通り過ぎ、公園を出て、広い道路の歩道から、ふり返って、岬の中ほどから飛び出ている灯台を試写したのかもしれない。

もっとも、その前に、公園を出たところに、下の浜へと下りる階段があった。覗きこむと、かなりの高さの断崖で、階段も長い。下りるのは簡単だが、登ってくるはしんどいなと思った。それに、あとで、車で回りこんで、下の砂浜沿いの駐車場へ行くつもりだった。今下りることもない。それに、岬全体をアングルした場合、主役の灯台が小さすぎる。この構図にこだわることもあるまい。来た道を戻った。

ふと真下を見た。断崖の下は、砂浜に併設された駐車場になっている。ほとんど車などないのだが、黒っぽい車が二台止まっている。普通の乗用車だ。と、車と車の間で、男女が、今まさに抱き合い、キスをしようとしている。いや、べったり抱き合ってキスをしている。背後は高い壁、左右は車、前方は人のいない砂浜だ。要するに、本人たちは、死角だと思っているのだろう。まさか、上から見られているとは思っていない。平日の、まだ午前中だったと思う。はっきり顔は見えないが、男女とも三、四十代だろう。あきらかに<不倫>の匂いがする。

いや、<不倫>が悪いと言ってるんじゃない。それに、見ず知らずの赤の他人が、自分に危害を加えない限りは、別に何をしようが関係ない。ただこの時、自分が、でかい望遠のカメラを肩にかけていたので、なんだか、浮気調査を依頼された探偵のような気に、一瞬なったのかもしれない。まあ~、それよりも、真昼の情事?を、はからずも目撃してしまい、柄にもなくどぎまぎしている。何かいけないことを見てしまった小学生のような心持だ。テレビや映画で男女の色事を見るのは、慣れっこになっているが、実際となると、少し違った興奮があるものだ。

しかし、すぐに冷静になった。なぜ、車の中で情事をしないのか?わざわざ、外に出て、イチャイチャ、抱き合ったり、キスをしたり。と、ここで思い至った。まだ、そういう関係ではないのかもしれない。いや、ちがうだろう。お互い仕事中で、時間がない。けれども会いたい、イチャイチャしたい。ま、恋愛中の男女の心情だな。わからないこともない。おそらく、そうだろう。でもね~、くだらん、じつにくだらん!と思いながら、当人たちに気づかれないように、また、崖の下を覗き見た。まだ、イチャイチャしているよ!

公園に戻ってきた。見晴らし用の小山にのぼった。備え付けのテーブルにカメラバックをおろし、少し汗をかいたロンTを脱いだような気がする。そのあと、休憩方々、上半身裸でベンチに座り、水平線と灯台がクロスする風景を眺めていた。崖の下の男女のことは、きれいさっぱり忘れていた。清い心?で<灯台のある風景>を何枚か写真に撮った。撮りながら、ここに陣取って、灯台の夕景を撮ろうと思った。磁石を見て、西を確認した。うまいことに、背後が西だ。ということは、灯台に、もろ西日が当たるということだ。

四角いテーブルの上に干したロンTを着た。まだ湿っているが、脱ぐ前よりはましだ。すぐそばに車があるのだから、新しいロンTを取りに行くという手もあったはずだ。それをしなかったのだから、さほど汗はかかなかったのだろう。暑いとはいえ、真夏のような暑さではなかったのだ。

さてと、先ほど下見した、公園内の灯台撮影ポイントを回りながら、写真を撮り、北側のはずれまで行った。というのも、今度は、北側から公園を出て、広い道路沿いの歩道から、岬の灯台を狙おうという腹だ。このアングルは、マップシュミレーションで発見したもので、一度は確認しておきたい撮影ポイントだった。

公園の北のはずれは狭まっていた。そのうえ、松が密集している。灯台は、すぐに見えなくなった。海側の柵にも木々が繁茂していて視界がない。だが、すぐに、住宅が連なる道路沿いにレストランが見え、少し下り坂になっているのだろうか、広い道路が見えた。ただ、なにか、工事中で、歩道が切れている。どうも立ち入り禁止のようだ。様子を窺がいながら歩いていくと、工事現場から作業員たちが全員引き上げていく。その後ろ姿が、小さく見える。はは~ん、昼休みだな。そういえば、レストランにも人影が見えた。

無人になった崖っぷちの工事現場に入り込んだ。長い巨大なコの字型の鉄板が積まれている。歩道の改修工事なのだろうか。ま、そんなことよりも、ふり返って、岬を見た。灯台も見えたが、小さい。それに、なんというか、岬と正対できず、斜めから見ているので、構図的によろしくない。岬の下に砂浜も見えるが、テトラポットなどが連なっていて、雑然としている。まるっきり、写真にならない。無駄足だったわけで、来た道を、そろそろと引き返した。南も北も、歩道沿いからの写真は無理だ。だが、これで撮影ポイントを絞れたわけで、ま、一概に無駄足だったとは言えまい。むしろ、気分的にはすっきりしたわけで、徒労感はなかった。

To be continued

<灯台紀行・旅日誌>と<花写真の撮影記録>
<灯台>と<花>の撮影記録
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