<日本灯台紀行 旅日誌>2022年度版
<日本灯台紀行 旅日誌>
第14次灯台旅 能登半島編
2022年10月-12.13.14.15日
#7 三日目 2022-10-14(金)曇り、時々晴れ
禄剛埼灯台撮影3 朝の支度 移動
三日目の朝は、四時半に起きたのか、五時に起きたのか、記憶が定かでない。そのあと、着替えはしたのだろうが、髭をシェーバーで剃ったのか、顔を洗ったのか、それも覚えていない。ただ、トイレに、ペットボトルの尿を捨てに行ったことは間違いない。なぜなら、二つある、大便室の一つが使用中だったのを、はっきり覚えているからだ。ドアが閉まっていて、鍵の部分が<赤>になっている。物音はしない。あれ~とおもいながら、便器に尿を捨て、すぐに車に戻った。
と、これ見よがしな、大きな咳払いがした。車の中から覗き見ると、小柄な男がトイレから出てきた。そう、トイレに一番近い所に<軽>が止まっていたのだ。そのあと、ドアをばたんと閉めて、堂々と走り去っていった。時間は午前五時、外はまだ真っ暗。爺だったような気もする。
どう考えてもおかしいでしょう。午前五時に、車中泊もしていない人間が、道の駅の駐車場の大便室に入って、シーンとしているのは!何か、よからぬことをしていたのだろうか?くだらんから、これ以上詮索するのはやめよう。さてと、装備を整え、真っ暗な中、灯台へ向かった。見上げると、星が、きらきら光っていた。
三度目の登りだ。はじめから、牛歩の歩みで、一歩一歩、坂を登った。それでも、途中で何度も立ち止まった。これじゃあ~、まるでシューシュポスの神話だ、などとは思わなかったが、その都度ふり返っては、夜明け前の港で、赤く点滅している防波堤灯台や、夜空で光っている大きな星たちを見上げたりした。
真っ暗闇というわけでもないので、ヘッドランプは装着しなかった。とはいえ、ほとんど、闇と一体化している自分を感じて、やや、愉快な気分になった。
岬の上に到達したときには、まだ陽は登っていなかった。灯台の背後の水平線に目を凝らしてみると、雲がかかっている。きれいな日の出は望めないだろう。ややがっかり。とはいえ、三脚をセットして、撮影モードに入った。あっという間に空が白んできたのだ。
この後の、禄剛埼灯台撮影 3は、本文に書こう。注釈 結局、本文などは、今の今に至るまで書かれなかった。忸怩たる思いである。
灯台の撮影は5:35~7:15までだったようだ。撮影画像のラッシュで確認した。雲間ではあったが、太陽の位置が高くなると、眩しくて写真が撮れない。それに、もう、かなりの時間粘っていた。7時過ぎていたと思う。気力も体力も限界だった。
空が白んできた後、何人か、スマホで、朝の灯台を撮りに来人間がいた。だが、ほとんど印象に残っていない。撮影に集中していたからな。さてと、引き上げだ。坂の途中から、駐車場を見下ろした。自分の車と、キャンピングカー、それに白い軽バンが、見えた。
駐車場に降り立った。昨晩から電気充電していた、黒のSUVはいなくなっていたが、駐車場には、あらたに、乗用車が四、五台増えたような気がした。車に戻って車内整理をし、サンダル履きで外に出て、窓ガラスの水滴をふいていると、うしろのキャンピングカーで、キャンキャンと犬の鳴き声が聞こえた。見ると、サイドドアから、上下紺の作業服のような物を着た爺さんが降りてきた。目があったので、おはようございます、と声を交わした。一晩、ともに最果ての道の駅で車中泊をしたという気安さがあった。
そのうち、茶色の小さなワンコも車から降りてきて、二人して、朝の散歩らしい。連れはいないようだ。ワンちゃんと旅しているのですか、と独り言のように呟いたが、相手には聞こえなかったようだ。後姿を目で追うと、びっこを引いている。足が不自由なんだ。
ちなみに、キャンピングカーは、横浜ナンバーだった。長年連れ添った奥さんに先立たれ、一代で築き上げた建設会社も、息子か誰に譲って、気ままな旅をしているのだろう。ワンコは、奥さんの愛犬だったに違いない。
さてと、昨日の午後から、ろくなものを食べていない。持参したバナナ、せんべい、クッキーを、ひとつ残らず平らげて、何とか飢えをしのいだわけだ。今朝は、これから、カップ麺を作って食べる。駐車場の道路際に、簡易テントが何棟か並んでいて、その下に、テーブルと椅子がしつらえてある。昨日来た時に確認ずみで、カップ麺を作って食べるには好都合な場所だ。
コンロなどが一揃い入っている黄緑のトートバックを、車からだし、ペットボトルの水とカップ麺を持って、簡易テントの下へ行った。コンロを出してお湯を沸かし、カップ麺に注ぐ。何度もやっていることだから、齟齬なく手際よく作業して、温かいカップ麺にありついた。と、例のキャンピングカーが、駐車場を出ていく。目で追って、自分の背後の道路に来た時、ふり返って、片手をあげた。助手席で茶色のワンコがきちんとお座りしていた。社長がこっちを見て、手を挙げたようにも見えたが、思い違いかもしれない。
輪島方向へと、白い箱型のキャンピングカーがゆっくり走っていく。人間とは、なんて寂しい生き物なんだ!食後のコーヒーを楽しみながら、感傷的になった自分に、心の中でニヤッとした。
車に戻った。ナビに今日の目的地と経由地を打ち込もうとした。おりしも、日が差してきて、やや暑い。日陰へと車を移動した。その際、うしろに泊まっていた、昨晩、音楽を流しながら登場した白い軽バンを見た。まだ寝ているのか、静まり返っている。
<道の駅 狼煙>を出たのは、9時過ぎだった。今日の目的地は道の駅氷見、経由地は、椿の断崖展望台、竜ヶ埼灯台、旧福浦灯台の三か所。事前の下調べでは、あと何か所か寄り道するつもりだったが、ナビに打ち込む作業が面倒なので、割愛した。天気予報を確認すると、午前中から曇りマークになっている。やや気落ちしたものの、観光だよ、自分を元気づけた。
出発しよう。再度、ちらっと白い軽バンを見た。依然として人が出てこない。窓には日除けシェードが張り巡らされていているから、中の様子はわからない。どこのナンバーだったか、見るのを忘れたのか、見たのに忘れたのか、ま、どちらでもいいが、どんなガキが乗っているのか、顔くらい見たかったのかもしれない。
日当たりのいい、山間の静かな道を行くと、すぐに、景色のいい所に出た。断崖で、右手に海がどおぉっと広がっている。<寄り道パーキング>の看板があり、道路際に、駐車スペースがある。まだ、いくらも走ってないのに、もう寄り道だ。案内版には<木ノ浦>とあり、ま、こういう風景が見たかったんだよ。視線が無限大へと飛ばされると、胸のもやもやも一緒に夢幻へと開放される。あさっぱらから、実に爽快だ。とはいえ、先は長い。目的地の氷見までは130キロくらいある。写真を何枚か撮って、長居はせずに車を出した。
すると、急な下り坂になり、運転に気をとられた。あ、視界の端に、展望台のようなものがあり、中年女性が一人だけ立っている。<椿の断崖展望台>だろう。ナビの女性は、どうしたんだ?案内がなかったようにも思えるが、運転に気をとられて、爺の方が聞き逃したのだろう。
急坂を下りたところに、駐車スペースがあったので、車を止めた。回転して、戻ろうと思えば戻れる。だが、わざわざ、また急な坂道を登るのが億劫に感じられた。ま、先ほど断崖には寄ったのだから、良しとしよう。せっかく車を止めたのに、Uターンしないで、またすぐに車を出した。
険峻な岬から下りてきて、海沿いの道に入った。道端に、駐車スペースがあったので、また車を止めた。こんどは、何気ない、海辺の集落が、気になったとみえる。カメラを持って車から降りた。どんよりした曇り空で、記念写真を撮るにしても、いただけない。とはいえ、道路を渡って、海側の歩道から、連なった小山が直接海に入り込んでいる風景を撮った。屋根越しに集落も入れた。
歩道の上の電線が画面に入ってしまうので、少し移動したが、電線を、風景から取り除くことはできなかった。ま、いいだろう、記念写真だ。引き返した。歩道の道路際には、花壇がずうっとあって、オレンジ色の大きな花が咲き乱れていた。名前は知らない。ただ、花の形は、<ルドベキア>に似ていた。
車のほとんど通らない道とはいえ、習性として、左右を確認して、道路を渡った。その際、目の前の崖に建っている大きな家が目に入った。ほぼ廃屋状態だが、立派なつくりの二階屋で、網元の家だったのかもしれない。一軒だけ、崖に取り残された感じが、無残であると同時に<無常>だね。
車に戻った、左手から、買い物袋を手にした地元のおばさんが、歩道を歩いてきた。ああ、海辺の集落へ帰っていくのだろうな、と思って、何気なく見ていると、そうではなく、道路を、自分と同じように、左右を確認して渡り、集落とは逆方向へ行ってしまった。余計なお世話だが、どこに住んでいるのか、皆目見当もつかない。ましてや、彼女がどんな生活をしているのか想像することさえできなかった。
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