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<日本灯台紀行 旅日誌>2022年度版

<日本灯台紀行 旅日誌>2022年度版

第15次灯台旅 四国編 

2022年11月12.13.14.15.16.17.18.19.20日

#10 五日目(1) 2022-11-16(水)

佐田岬灯台撮影4

四国旅、五日目の朝も、昨日同様、四国最西端の民宿の部屋で目が覚めた。

<あいかわらず1、2時間おきに夜間トイレ 4時過ぎに目がさめる 5時までうとうとしながら待つ 5時起床 朝の支度 昨晩食べ過ぎ 寝起きに排便 多少すかっとする 7時までメモ帳を書いたような気もする>。

この間に、部屋の窓から、漁港と白い防波堤灯台の写真を撮った。部屋は四階で、しかも、いわば<オーシャンビュー>だったのだ。まだ薄暗い中、佐田岬半島の横っ腹に、朝日が微かに差し込んでいる。尾根には白い巨大風車が小さく見える。そして、防波堤灯台の頭が緑色に光っている。付置的な問題で写真にはならないが、雰囲気がいい。最果ての漁港の夜明けだった。

<7時 朝食 品数は多いが うまかったのは切り干し大根くらいだ>。

今朝は広間での朝食だった。長細いテーブルが五、六脚、間隔をあけて置いてある。その上に朝食が用意されていた。二、三組、客もいた。慣れたもんで、自分でお茶を入れ、おかずをつまんでいると、客慣れしないパートのおばさんが、お櫃とみそ汁を持ってきた。

うまいまずいは関係ない。エネルギーの補給だ。とはいえ、さすがに納豆だけには手を付けなかった。健康のためにと、普段は一日おきに納豆を食べている。旅先でまで、納豆なんぞを食べる義理はない。お櫃のごはんはすべて平らげて、広間を後にした。

<7時30分 チェックアウト>。エレベーターで下に降りると、目の前のラウンジのソファーで<大将>が誰かと携帯で話していた。会釈をして、だれもいないカウンターへ行くと、<大将>も、携帯で話しながらカウンターまで来て、チェックアウトの書類をガサガサ探し始めた。そこへ、おかみさんが奥のほうから出てきて、カウンターの中で<大将>と入れ替わった。電話の相手は仕事関係の人間らしい。おかみさんに耳打ちしていた。

おかみさんとは二言、三言、言葉を交わした。どこから来たの、というので埼玉からだと答えた。さらに、仕事で、と問われたので、ちょっと考えて、半分仕事で半分遊びだと答えた。むろん、自分の写真撮影は、<仕事>ではない。さりとて<遊び>でもないだろう。その辺の微妙なところを、おかみさんには、誠実に答えたかった。だが、結果として、かえって不誠実な答えになってしまった。ろくでもないことを言ってしまったと、あとで少し後悔した。

<8時前に灯台の駐車場につく 車が二台とまっていた 一台は久留米ナンバー あと一台は 女の子二人づれの軽 いや ジャージー上下のカミの長いのは男だったのかもしれない すぐに出ていった>。とメモ書きにあるが、この文章を読んでも、女の子二人のイメージが浮かんでこない。

とはいえ、久留米ナンバーの黒っぽいワンボックスのほうは、かすかに覚えている。展望台から下りてきたのは、奥さんと思しき中年のおばさんだ。<おはようございます>と元気な声であいさつされた。背の高いひょろっとした旦那が、車から出てきたので、振り向いて会釈したが、迷惑そうに顔をそむけた。二日酔い、ということもないだろうが、気難しい、無口な職人といった感じだ。なるほど、ふくよかで快活な奥さんが、世渡りの下手な職人気質の旦那を支えている、ってなわけだ。もっとも、二人で旅行に来るくらいなのだから、旦那も奥さんに惚れているのだろう。似合いの夫婦だと思った。

山道を登ると、足がやや重かった。ここ二日間の山登りの影響だ。かなりきつかったもんな。八時少しすぎには<子尻展望台>に着いた。思った通り、東側からの明かりで、非常にいい。

空や海の色が青いし、対岸の<佐賀関>まで見通せる。斜めからの陽を受けて、灯台も純白で、陰影がある。構図的には、画面上部の青い空の部分を、かなり狭くして取り込んでみた。この画面構成は、雲のない青空の処理に対する新機軸で、海を強調したいときには、より有効だと思った。

そんなこんなで、モニターしながら、画面上部の青空を、どの程度まで入れるのがベストなのか、いろいろ試していた。と、左側から、灯台の背後の海を横切っていくものがある。細い白波が横一文字に見える。望遠カメラのレンズを400㎜にした。灰色で、船の形はしていない。お、潜水艦だ!潜水艦の艦首が海の上を移動している。潜望鏡らしきものも見えた。

少し興奮してしまった。まさか、こんなところで、潜水艦と出っくわすとは思ってもみなかった。それも海の上を走っている。しかもだ、うまい具合に、灯台の背後を通過しているから、灯台と絡めて撮ることができる。灯台と潜水艦の絵面など、これまで一度も見たことがない。

灰色の物体が、画面左から、右へと抜けていくまで、撮りに撮りまくった。そして、画面から白い灯台が消えた後も、潜水艦をカメラで追った。佐田岬から離れて、ほとんど見えなくなるまで、写真を撮り続けた。

一息ついた。ところで、あの潜水艦は、どこへ行くのだろう。頭の中に、瀬戸内海地方の地図が浮かんだ。呉だ。呉の海上自衛隊の基地へ向かってるんだ。なるほど、訓練かなにかで、瀬戸内海を出て、九州のほうへ行ってきた帰りだろう。

ふと、やや得意げになっている自分が、アホらしかった。

戦争反対の持論はどうしたんだ。潜水艦だろうが、戦車だろうが、しょせんは人殺しの道具だ。なにか高尚なものを見るような目つきで見るのは、断じて許されんぞ。すでに小一時間たっていた。展望台を後にして、山道を下った。やや複雑な心境だった。

<駐車場に下りてくると マスクをした男が気やすく話かけてきた どこからきたんですか と車の前に回ってナンバーを確かめている ああ そうだ 昨日民宿の風呂で会った76才の季節労働をしているおっさんだ 少し言葉を交わす 10時に灯台先の道路が通行止めになるという ええっと思い 工事人に確かめにいく 11時には通れるとのこと (戻って来ると) 彼はすでに出発したようだ>。

業者が二つ入っていて、一つは路肩工事、もう一つは崖の法面工事だ。法面工事には、ミキサー車が出張って来るので、狭い道路だから、どうしても通行止めにしないと、工事ができないようだ。それと、11時になれば、10分間だけ、車を通れるようにすると言っていた。

おっさんの言葉を自分が曲解したのか、おっさんの言葉が足りなかったのか、いずれにせよ、自分の耳には、10時以降は、通行止めになって通れなくなる、と聞こえたので、少し焦ったのだ。まだ9時前だった。二時間あれば、椿山展望台へ行って、写真を撮って帰ってくることができる。踵を返した。

<椿山展望台へ向かう 20分ほどで着く 雲が多い 水平線際にも、うすい雲がかかっている それでもシャッターを押し続ける>。

椿山展望台からの写真撮影は、これで二度目だ。一度目よりも、時間が早い。その分、東側からの明かりが、斜光気味となり、全体的な色合いも深くなっている。同じ構図、同じアングルでありながら、たかだか二時間ほどの差で、写真のタッチが変わる。一度よりは二度、二度よりは三度、足を運んだほうが、いい写真が撮れる確率が上がる。だが、いろいろな事情があり、そう何度も来られない。立ち去りがたい気分だったことを覚えている。

11時から10分間だけ、通行止めが解除されるのだから、10時ころには撮影を中止して、展望台を下りたのだと思う。だらだらと、駐車場までの上り坂が長い。数を数えながら、一歩一歩、歩いていく。ただ少しスピードが速くなっている。体が山道に適応してきたのだろうか、そう考えると、気分が少し上向いた。

駐車場にたどり着いた。11時までにはまだ時間があった。これが最後だと思い、柵際から<伊予灘>を撮った。逆光の中、海が、黄金色に輝いていた。灯台の白い頭も、岬のよこっちょから、少しだけ見えた。振り返って、ついでに、トイレの横に止まっている自分の車も撮った。なにか、ひと仕事成し遂げたかのような、清々しさを感じた。

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