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魚と泳ぐ|佐渡日記5



2024.8.2(金)

佐渡の蚊は、あんまりぷうんといわない。
いうけれども、音がなんだかおおらかで、執拗でない。
かと思って、放っておいたら、太ももとお尻をぷっくり五つ噛まれ、目がさめた。
宿の部屋のカレンダーが、七月のままなのを、めくっていいかなあと考える。古い月のを破るタイプだから、ためらう。

朝のおむすびをふたつ、今日も頬張る。こんぶとちりめん。漬物に、なすと大根。
また、蚊がぷうんといった。叩いてみると、からだも大きくて、たっぷり血を吸っていた。
昼を抜いて、残っていたネクタリンひとつ、プラムひとつ。冷蔵庫できんきんに冷やしていた、佐渡のこしひかりと黒米で作った甘酒、脇の下にいれてぬるくしたのを一本。




二つ亀の海水浴場へ。
佐渡のちょうど、北端にある。まっすぐまっすぐ、これをひたすら北へいけばロシアにぶつかる。
丘のうえの駐車場から、斜面をずっとくだっていく。降り立つのは、トンボロの部分。石ころの浜。
今年はじめての海水浴。簡易テントを張って、荷物を放りこみ、いざどぼん。きもちいい!こうしているだけで、ほかになんにもいらない。
今年は日焼け止めもつけなくなった。

五種類の魚に会う。
立っていると、足もとに数えきれないくらい寄ってくる。
ひとつはあざやかな黄色とピンクの筋に、赤いような黒いような丸のもようの並んだ細長いの。
もうひとつは子どもたちが、ふぐ、ふぐ、と言っていた、ふぐみたいな魚。ほんとうにふぐかな。水中で間近でみるのと、陸に揚げられて冷蔵ケースの中とか、まな板の上とかのをみるのは、顔もちがってみえる。
親指くらいよりちいさい赤ちゃんから、手のひらよりもすいぶんありそうな成魚まで、このふぐがいちばん多くいる。オレンジに縁どられた、ころんときれいな緑色の目をしていて、ずっと見ていたくなる。
けれどすぐ逸らされてしまう。

こういうふうに、ほんのすこしでも一緒に泳ぐと、魚はわりあい好きでたべるくせにやっぱり水のなかにいてほしい。いきいきして、うれしそうだから。
だから必要以上に、あんまりいっぱいはたべなくていいし、たべるときは心からたべたい。

黒と黄色の縞もようのは、一匹だけいる。足をつんつんしてくる。
小さな口なのに、思っている以上に力がある。
霞みたいにはかない色の、楕円に近い魚。これは、数匹だけみた。うすくて、水に溶けだしそう。
似たような色あいの、形のすこし平べったい、小さめの魚。これもさりげなくいる。
ずっと見ていたくて、へたな息つぎをしながら、からだの芯がひんやりしてくるまで潜っている。ずっとこのままでもいい。

足もとだけ真水で流して、潮水のついたまま宿へ帰る。
魚と別れるのは名残惜しかった。




洗い場がふたつの清潔なお風呂は共同で、たぶん、今日のいちばん風呂。
つめたい海に泳いで、熱いお湯につかって、このあとはおいしいごはんが待っている。
刺身と焼きとどちらがいいかしらと、おかみさんが聞いてくれたので、焼きがいいですと、お願いした。

水着と帽子、ラッシュガード、タオルをひとつづつゆっくり洗う。なんどもくり返し、しぼる。いつまでも水が滴る。
西日のとっぷり差す、ベランダに干した。まぶしくて目がちっともあかないのを、面白くて笑う。

夕飯は真鯛を焼いたの。さざえの壺焼き。
いか、蛸、わらさに子持ち鱈の子をまぶした刺身。豆腐と野菜、キムチとニラ。すいか。
隣りあった、金沢からきた中村さんご夫妻と、お話しながらあっというまに二時間が過ぎた。震災のとき、苦労した話を聞かせてくれた。







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Megumi Sekine 関根 愛
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