あいつは友達
あいつは友達だから、気軽にメッセージを送っていいんだよ、もう。
そう思って、
いや、まあ感情はそれだけじゃないのかもしれないが、そもそも最初から自分の感情を一言で説明なんてできないし
ひとつだけの感情なんて ない。
もう、とは?
意識していた頃は、気軽にメッセージなんてしてはいけないのだと思っていた。
その一言ですべての信頼関係や評価(そんな項目を持ち出してはいけないのに)が変わってしまうかもしれないと、全然、取り繕った会話しかできず
ほんとの自分ってやつを知ってもらうこともできず。
私は誰に、なにを理解してもらいたかったんだっての。
あいつとは友達なんだ、
そう位置付けて納得してからは言いたいことを言えるようになった。「多少は」。
どんな返信がきても、根本からは否定もされていない、嫌がられてもいないと分かったからかもしれない。
いや、分かったつもりでいたのかもしれない。
あいつとは友達でいたほうがいいから、
会いたいなんて言わずに、ただ
「ごはんに行こうよ」「こんなお店があるよ」「あの店でこんなメニューが出るよ」って教えるだけだった。
食べることが好きなあいつに純粋に情報をシェアしたい気持ちもあるし、
もちろん、それが会話のきっかけになれば嬉しいのはあるし。
友達だからね。
あいつは色々あったとき既に私のことを見抜いていた。
あいつは記憶力が良くて、私がしたこと、教えたこと、大体なんでも覚えている。
その割に誕生日は覚えてくれていなかったけれど、それはそれとして
些細なことを覚えているから、逆に、
私が「忘れている」ことがとても恥ずかしく申し訳なくなった。
自分も記憶力は割とあるほうだと思っていた。
ある一定の部分では まだあると思っている。
でも、あいつと話したこと、あいつの好きなもの苦手なもの、
きっと、覚えているつもりで忘れていることだってあるんだ。
あいつにとっては少し前まで
私の誕生日は忘れる対象であったように、
私も、無意識に、悪気なく、忘れているんだ。
だからいつも、友達なのに話しかけるのが少しこわい。
また忘れていて、あいつの好きな食べ物も忘れて
また同じことを聞いていたらどうしようって。
そういう些細なことって、些細じゃない。
忘れるたびに失望される気がする。
「この人にとって、忘れるぐらいどうでも良かったこと」
「大切に思われていないんだな」
そう思ってほしくないんだよ。
本意じゃない。忘れたくない。
ただ聞いていないだけかもしれない、
知らないことかもしれないのに
いつも「この話、あいつとしたっけ?」
「していないよな?」
また忘れたくないから気にしてしまう。
覚えていることが大切の証明になるのなら、
その場でぜんぶメモしていたかった。
人に興味を持って、と
以前、人に言われた。
興味はあるのに、ぜんぶを覚えられないよ。
ごめんなさい。
「自分のことはたくさん覚えているくせに」
「結局自分がいちばん大事」
それは 何度も責めてきた。
あいつが返事をしないのはなんでなんだろう。
また的外れなこと言っちゃったかな。
また、変なこと聞いちゃったのかな。
忙しいだけであってほしい。
話したくないならそれでもいい、
嫌いなら寂しいけどそれでもいい、
あいつが元気ならいい。
あいつと話していた他愛もない話を
忘れていたくない。
またがっかりしていませんように。
私があいつの言葉を忘れていませんように。
ただあいつの好きなものを覚えていたい、
苦手なものを知っていたい、
前にそう言っていたよね、
そういう話をしたかった。
覚えていてもいなくても
友達には変わりないんだろうけどさ。
メッセージの返信ひとつないだけで何もここまで考えなくても。
そう分かっていても、あいつは友達だから、
心配で そしてこわいんだ。
またか、って思われることが。
最近までは「いい感じ」にさ、気楽にやり取りできていたじゃない。
一言だけ送って一言だけ返してくれたり、その逆もしていたじゃない。
その後、なんとなくちょっと連絡しない時期もあったけれど
忘れていたわけじゃない。
友達だから、連絡しなくても会わなくても
「大丈夫」だって。
そう思っちゃったのかな。
「気を使いすぎなんだよ」
「だって俺だよ?こんなテキトーな俺になんで遠慮するの?」
「こんな俺に気を使う必要なんて、全ッ然ないんだからさ」
あいつが幸せならそれだけでいいから、
どうか傷ひとつない、雲ひとつない空の下で笑っていておくれよ。
大切なあいつの心に、もう傷をつけたくないんだ。
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